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2014.02.20 10:19

恋の協奏曲(コンチェルト) 第7話 by 東方不敗

湯気が天井まで昇り換気扇に吸いこまれていく。

「うー、気持ちいいわ……」

あたしは肩まで湯船につかりながらつぶやいた。

「ふふっ、千鳥さん、おばあさんみたいですよ」

ボディソープで体をごしごし洗いながらお蓮さんが言う。

「そー? でも、お風呂って好きなのよねえ……」

「そうですね……私も好きですし」

「ははっ、お蓮さんはなんだかわかりそうな気がするわ」

「そうですか……?」

「うん」

ざばーっと、お蓮さんが頭からお湯をかぶってボディソープを洗い流す。

「じゃ、次あたしが体洗うかな……」

「はい」

あたしとお蓮さんが入れ替わるようになり、狭いお風呂の中を行き来する。

「……そういえばさ」

「はい?」

お風呂にのほほんとつかりながらお蓮さんが聞き返してくる。あたしはちょっと意地悪っぽくほほ笑むと、

「お蓮さんって、胸大きいよね」

「やだ……。そんなこといわないでください」

顔を赤くしてお蓮さんが言う。あたしはぱたぱたと手を振ると、

「ははっ、ごめんごめん」

「もう……。それを言うんなら、千鳥さんだってそうですよ」

「え? そう?」

「そうですよ」

シャワーをくいっとひねる。あったかいお湯が体にぶわっとかかる。

「ふーっ……」

「はあ……」

しばらく、無言になる。

シャワーが流れる音だけがやけに大きく辺りに響く。

「……なんかさ」

「はい?」

「こうしてると、まるで姉妹ができたみたいに思えない?」

「……そうなんですか?」

「うん、あたし妹が一人いてね、今はニューヨークにいるんだけど、そういえば良く一緒にお風呂とか入ったなーって……」

「そうなんですか……」

「うん、そうなの」

あたしはシャンプーを手のひらにつけ髪の毛に回していった。

「でも、それなら……」

「ん?」

「それなら、どっちがお姉ちゃんになるんでしょうね?」

「え? んー……。あたしは、お蓮さんがお姉ちゃんの方がいいかな、もう妹は一人いるし。なにかと自分の世話やいてくれる人がいたら嬉しいじゃん」

「まあ、千鳥さん、私そんなに面倒見よくないですよ」

「そんなことないわよ、お蓮さんならきっといいお姉ちゃんになれるわよ」

あたしはからからと笑いながら言った。

お風呂から出るとソースケの姿がなかった。

「ありゃ、どこ行ったのかな、あいつ」

リビングの中をきょろきょろと見回しながら言う。いつもはここにいるはずなんだけど……

「どこか、自分の部屋にでも行ってるんじゃないんですか?」

あたしの後ろから出てきたお蓮さんが髪をふきながら言う。あたしもお蓮さんも、長髪だから乾くのに時間がかかるんだ。

「部屋、ねえ……。そんじゃ、ちょっくら行ってみますか……。あ、お蓮さんはここで待ってていいから」

「はい」

しっとりとほほ笑むお蓮さんを後ろにあたしはリビングを出る。ちなみにあたしとソースケの部屋はちゃんと別々にしてある。といっても隣同士なんだけど。前まで物置代わりに使ってた部屋を掃除して使えるようにしたんだ。

「ソースケ? いるの?」

ソースケの部屋を覗きこみながら言う。あ、そーいやノックしてないや……まいっか。

電気はついていた。相変わらずソースケっぽい飾りっ気も何もない部屋の、端っこにソースケはいた。ちょうどなんかの小さな箱をバックにつめこんでたみたいだった。

「かなめか」

「ん、お風呂空いたわよって言おうとしたんだけど……今しまった箱なに?」

なんかきれいにラッピングされてたように見えてたんだけど……

「別にたいしたものではない」

「そう……? なんかかくしてんじゃないの?」

わざっと意地悪っぽく言ってやるとソースケが一瞬ぎくっとしたような顔を見せた。

「別に隠してなどない」

「うそおっしゃい。なんか隠してるんでしょ? ね、ちょっと見してよ……」

バックに近寄ろうとするとぱしっとソースケがそのバックを取ってしまった。

「とにかく、なんでもないんだ。気にしないでくれ」

「やーよ、ねえ、それなんなのよ、なんでもないんなら教えてくれたっていいでしょ、ねえ、ねーったら……!」

ちょっと甘えるような声をだしながらソースケのバックを奪い取ろうとする。だがさすがは戦闘のプロとでもいうのか、なかなかバックにさわらしてくんない。

「ねえ、いいでしょ! なんでもないんなら見たっていいんじゃない!?」

「だが、これは君に見せると、その、おそらく非常にまずいことになる!」

「だから、なんなのよっ! いいから見せてよっ!」

「だが……」

そんな感じにじゃれあうようにソースケのバックを奪おうとする。と、不意にあたしの出した足とソースケの足がひっかかってしまった。つるっと足が滑って、体が宙を浮く。

「きゃっ……」

「かなめっ!」

どしんっ!

転ぶと思った次の瞬間。

ソースケがあたしの事をかばうようにあたしと地面の間に滑りこんでいた。

どんっと、あたしがソースケを押し倒すような格好になってしまう。

「大丈夫か、かなめ」

「う、うん、その、だいじょぶ……?」

心なしか顔をあつくしながらソースケに聞く。あ、なんか緊張してきちゃった……

「ああ、俺は大丈夫だ。……君は?」

「うん……だいじょぶ」

「……そうか」

と、ソースケが、心の底から安心したような、そんな顔をした。そして、

「それはなによりだ」

「……うん……」

ちょっと恥かしいけど、なんとなく嬉しくなってほほ笑む。

それに、ちょっと得した気分……

「……かなめ」

「へ? あ、なに?」

しばらくぼおっとしてると、ソースケが困ったような声をあげてきた。

「その……すまないが、どいてくれないか?」

「へ……? あ、ごめん」

あやまってソースケの体からどく。なんか、顔熱いな……

「……しかし、君は思ってたより軽かったな」

ソースケが立ちあがりながら言う、ちょっと、それってどー言う意味よ。

「ちょっと、なによそれ、あたしが太ってるとでもいいたいの?」

「いや、そういうわけでは……。ただ、なんとなく、だ」

「そりゃ、あたしも女の子なんだから、あんたよりは軽いわよ……」

「ああ、そうだな」

言って、ソースケがほほ笑む。あたしもなんとなくつられるように笑った。

「……ふふっ。それじゃ、ソースケ、お風呂、早く入っちゃいなよ」

「ああ。すまない」

「これくらいで礼は言わない。一緒にすんでるんだから、これくらい普通よ」

「……ああ、そうだな……」

「それじゃね」

「ああ……。いや、少し待て」

「? なに……ん」

振り向いた瞬間、ソースケの唇があたしの唇に重なった。あったかい、感触がする。

「え……あ、その……」

あたしがあったかい感触の残った唇を押さえながらおろおろしてると、ソースケがぽりぽりと頬をかきながら、

「クルツに教えてもらった。なんでも、『お休みのキス』だそうだ」

「え? あー、そう……あの人が……」

「あの、千鳥さん……」

「っ!?」

突然の声。思わずすくみあがって振り返ると、そこには困ったような笑みを浮かべてるお蓮さん。

「お、お、お蓮さん。いつからそこに……」

「ええ……ちょっと、前からですけど……。お邪魔でしたかしら?」

「え? じゃ、じゃまって……」

「だって、せっかくのキスシーンでしたから」

ぼんっ。

あたしはそんな音が聞こえそうなぐらい顔が一気に熱くなるのを感じた。

「お、お蓮さんっ!」

「すいませんね、相良さん。それでは」

とたとたとリビングから向かって奥のほうにあるあたしの部屋に入っていく。

「あ、ああ」

「あー、もうっ……。とりあえず、ソースケ、さっさと風呂入っちゃいなさいよっ!」

「了解」

淡々と答えるソースケ。あー、なんてとこ見せちゃったのかしら……

絶対寝るときお蓮さんにからかわれそうだわ……

「かなめ」

頭を抱えて自分の部屋に戻ろうとしたあたしをソースケが呼びとめた。

「? なに?」

「……君はしばらく起きているつもりか?」

「? さあ、とりあえずお蓮さんとなんか話してから寝ると思うけど、なに?」

「いや……たいした用じゃない。ただ、もしかしたら後で君の部屋に行くかもしれん」

「へ?」

「……それでは」

「え、あ、うん……」

……後で君の部屋に行くって、どーいう……

お風呂場に向かうソースケの後ろ姿を見送りながら思う。

ふと、夕食でのお蓮さんの言葉が頭をよぎる。

『でも……。あの……、恋人の、夜って……その……わ、私は、ノーマルですし……。お邪魔になるんじゃないかと……』

ま、まさかね……

なんとなく顔が熱くなるのを感じながら思う。そ、それにお蓮さんもいるんだし。あー、でも、ソースケって、あの、あーいう性格だし、気にしないかも、でも、あたしは、その……

「そ、ソースケっ!」

「? なんだ?」

ソースケが振り返る。あたしはうつむきながらもじもじと、

「あ、あの……。あ、あたし……」

「?」

「あ、あたし……その……」

言おうと思ってる言葉が喉の奥でつっかえて出てこない。だ、だって、こんなこと言えるわけないじゃない。あたしこれでも一応花も恥らう乙女なのよっ!?

「お、お蓮さんいるんだから、変な事しようとなんてしないでよねっ!」

結局、そうとだけ告げるとあたしは自分の部屋に引っ込んでしまった。あー、なんか今日寝れるかどうか心配だわ……

お蓮さんの布団はあたしの部屋に引いてある。あたしはベッドで、お蓮さんは引っ張り出した布団。『ベッドにしようか?』とも聞いたんだけどそれはお蓮さんにやんわりと断られた。ま、お蓮さんらしいっちゃらしいけど……

で、今は電気を消したけど布団越しに話をしているって状況だ。まー、キョーコが家に泊まったときもこんな感じだったし、すぐに寝る気はなかったしね。

「へー、センパイってそんなこと言ってたんだ……」

「ええ、そうなんですよ」

お蓮さんがあたしの方を向きながらやんわりとほほ笑む。

話題はいつのまにか林水センパイのことになっていた。どっちから話し始めたのかわかんないけど、随分前から喋ってる。

「……ね、お蓮さん」

「はい?」

「……お蓮さんって、やっぱりセンパイの事好きなの?」

「……はい」

お蓮さんが少し考えこんでからそう答えた。

部屋が暗いせいで良く見えないけど、少し頬が赤くなっているようにも見える。

「……でも、あの人は、不思議な方ですから……。あの人が私の事をどう思ってるのかとか、よくわからないんです……」

「そりゃあ、不思議だけど……」

ついでに変人だけど。

「……千鳥さんは、うらやましいです」

「……あたしが?」

「……はい、本当に好きな人がいて、その人と、想いを伝え合う事が出来て、一緒にいれて……」

ふと、お蓮さんの言葉に影がよぎった。

「私なんかと、全然違う……」

本当に、不安そうな声。

かすれていて、注意しないと聞き逃しちゃいそうなくらい小さな声。

でも、彼女はそう言っていた。

「……あのさ、お蓮さん……」

「……なんでしょう?」

「今はさ、あたし、ソースケと付き合ってるけど、あいつ、意外ともててね、あたし以外にもあいつの事好きな人いたのよ」

「……相良さんは、見かけはいいですから」

「そーね、見かけ『は』ね」

「はい、見かけだけは、です」

そう言って、お互いにくすくすと笑う。

「……それでね、一度、その子があいつの家にいて……ソースケがあたしの家に来る前の事なんだけどね。あたし、その時、その子の事ソースケの恋人なんだなって、思っちゃって……。だって、あたしがあいつん家行ったとき、その子、お風呂に入ってたのよ? それで、勘違いして、ソースケの奴と喧嘩しちゃって。ま、その後色々あったんだけどね……結局仲直りして……」

ぽつぽつと昔の事を思い出しながら語っていく。

「……それから、かな……」

ぽつりとつぶやく。

「あいつが、あたしの前からいないと、なんだか、すごく不安になっちゃうようになったの……」

「……不安に……?」

「……うん……」

あいつが任務とかで、テッサのとこに行ったりした時とか……

変な殺し屋が来たときも……

ずっと、怖かった。

よくわからない怖さが、胸の中で一杯に広がってた。

「……きっと、今のお蓮さん、昔のあたしと同じ気分なんだと思う……。すごく、不安な気分……」

「……はあ。そうなんですか……」

「うん、だから……」

お蓮さんの方を見ながら、にっこりとほほ笑む。

「だから、すごくよくわかるの、今のお蓮さんの気分」

「……はあ」

見なれた天井に視線を移しながらぼやく。

もうそろそろ、桜の咲く季節。

あたし達が三年生になって、センパイとか、卒業する季節……

「……センパイ、そろそろ卒業だよね……」

「……そうですね」

「お蓮さん、自分の気持ち、伝えた方がいいよ……」

自分でもお節介かもしれないと思う言葉。

でも、きっと、自分の気持ちを伝えなきゃ、後悔する……

「……わかってますけど……」

「……怖いんでしょ。あたしもわかる……。あたしが、ソースケに告白したときもそうだったから……」

「? 千鳥さん、自分から告白したんですか?」

わずかに驚きのこもったような声。あたしはにいっと笑うと、

「うん。だって、あいつの方からなんかいつまでたっても告白しそうになかったんだもん」

「……たしかに、そうですね」

「……うん。だから、あいつに向かって、あたし、こう言ったの……。『あたしだってあんたみたいな戦争バカと一緒にいたくなんかないわよ。でも、しょうがないでしょ、好きになっちゃったんだから』って」

……思えば、あの時も随分素直になんかなれなかったなぁ……

精一杯勇気出して、でも出たのがあんなセリフで、でもあいつはあたしの事『好き』って言ってくれて。それで、一緒にいてくれるようになって……

「……すぐになんて言わないけどね。言わなきゃ、後悔するよ、絶対」

「……そうですね」

「うん……あたし、応援するからさ。二人の事」

「……はい……ありがとうございます」

安心したようなお蓮さんの声。

あたしはくすっとほほえむと、改めて布団をかぶりなおした。

「……もう、寝よっか……」

「……そうですね、もう、夜遅いですし……」

「うん……おやすみ……」

「おやすみなさい……」

なんだか寝つけない。

あたしは布団の中で何度目かの寝返りをうつと枕もとのお気に入りの目覚ましに手を伸ばした。1時13分。もう深夜だ。お蓮さんももう眠ってしまったらしい。まあ、話してる時も眠そうにはしてたけど。

「…………」

……なんで眠れないんだろう……

朝に遅刻するまで寝てたからかな……でも、それでもいつもは12時過ぎりゃ眠れるのに……

かちゃっ。

扉が開く音がした。きいっと遠慮がちにドアが開き、光りの線が部屋の中に出きる。

「……ソースケ?」

あたしは体を起こしながら扉の方に向かって唯一の同居人の名前を呼んだ。案の定、ドアの脇から半分だけ体を覗かせたソースケの姿が見える。

「ああ。……かなめ、起きてるのか?」

「うん……。どしたの、こんな時間に……」

「……少し、な」

ソースケにしては不明瞭な答え方。

「……ソースケ?」

「……少し、いいだろうか?」

「へ?」

思わず間の抜けた声が漏れる。いいだろうかって……時間の事?

あたしがほけ~っとしてるとソースケが言いにくそうに口を開いた。

「出てきてくれないか……。君と、話がしたい」

 

続く


あとがき

なんとなくシリアスっぽいです。

さてさてラストに近づいてきましたね。ソースケは一体なにをしようとしてるのか?

まあ決して18禁なんかにはなりませんので。それでは~。


★…さりら’s感想…★
やっぱり必ずらぶらぶがあるよぅ。
すごいなぁ東方さん…。
よくこれだけそーいうシーンが出てくるもんだわ。 (注・誉めてます)

なんかお風呂でのかなめとお蓮さんの会話が好きです。
かなめが妹のこととか思い出すくだりとかが、すっごいそれっぽいので。

そして宗介は何を隠してるんでしょうか…??
気になるーっ!!

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