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2014.02.20 10:20

恋の協奏曲(コンチェルト) 第8話 by 東方不敗

湯気が天井まで昇り換気扇に吸いこまれていく。

風が吹いていた。

冷たい夜の風があたしの髪をなびかせていた。

「……寒いか?」

「ちょっとね……。それで、なに、一体?」

あたしはベランダの手すりに手をかけて、横にいるソースケに話しかけた。月明かりが照らした顔には、どこか困ったような表情が読んで取れた。

「……できれば、驚かないで欲しい」

「どんな内容なのか聞かなきゃ驚くかどうかもわかんないわよ」

「いや、それはそうなんだが……」

「……一体なんなのよ。いきなりこんなとこに呼び出して」

「……かなめ」

「んー?」

「君に……受け取って欲しい物がある」

真剣な声で言って来る。あたしはソースケの顔を見つめて、

「……なに?」

「……目をつぶってくれ」

「……目?」

「ああ、いいというまで、開かないで欲しい」

「……わかった」

すっと、目を閉じる。真っ暗な視界の中、誰かがあたしの左手を取っている。

そして、きゅっと、なにかがあたしの指にはまった。

「……開いてくれ」

「……うん」

ゆっくりと、目を開く。そして、左手を目の前に持ってくると……

薬指に、小さな指輪の姿があった。

「……そ、ソースケ、これって……」

恐る恐る左手を見つめながらソースケに視線を移す。ソースケは、じっとあたしの事を見つめると、

「……俺は、君を愛している」

「ずっと、そばにいたいと思っている」

「……だから、それは……」

「……俺の、気持ちの証だ」

「……今は、まだ俺は君を幸せにできるなど、約束できないが……」

「それでも、俺は君のそばにいたい」

「ずっと、永遠に……」

「受け取って……くれるか?」

不安げな声。

でもすごく嬉しい声。

「……ホントに、そう、思ってるの?」

「震える声で、そうとだけ聞く。

「……もちろんだ。俺は……ずっと、君と、一緒にいたい……」

「……約束、してくれる……?」

「……?」

「……幸せになんか、してくれなくてもいいから……」

「あたしの事、悲しませないって、約束してくれる……?」

「……ずっと、一緒にいてくれる……?」

だんだんとかすむ視界。

その先で、ソースケはほほ笑みながら、こう言った。

「……もちろんだ」

「……うんっ!」

ふと、なにか、熱い物が頬を伝う。

熱い雫が、ぽたぽたと綺麗な指輪の上に零れ落ちている。

ぬぐってもぬぐっても止まらない、熱い雫が目から流れ出ていた。

「……ソースケっ……!」

ぎゅっと。

あたしは、ソースケの胸の中に抱きしめられていた。

あったかい。

あったかい感触がする。

大好きな感触がする。

一番好きな人の感触がする。

「……嬉しいよ、ソースケ……」

「……そうか」

「……うん。ずっと……ずっと、こうしてられたらいいのに……」

「ならこうしているか?」

「……ぇ?」

「少なくとも、夜が明けるまでなら、俺はここにいるぞ」

「うん……。でも、いいよ、寒いから」

そう言って、ソースケの胸からそっと離れる。

「でも、代わりに……」

にっこりと笑いながら、ソースケの頬に手をやる。

「これ、あたしの、気持ち……。ずっと、一緒だからね……」

そう言って。

ゆっくりと、ソースケの唇に、自分の唇を合わせる。

柔らかい感触。

暖かい……

そっと、夜空に目を向ける。

柔らかい、光。

月。

月明かりが柔らかく、あたし達のことを照らしている。

まるで、祝福でもしてくれてるかのように……

『あたしだって、あんたの事好きなんかじゃないわよ』

『……あんたっていつもそーよね、あたしがいないと、何にも出来ないんだから』

『あんたはテッサの方が好きなんでしょ!? だったらあの子のところにいけばいいじゃないっ! あんたなんか、知らないわよっ!』

……いつも嘘ついてた。

ホントは大好きなんだけど、いっつも、ホントじゃない気持ちを叫んでた。

でも、ホントは……

いつだって、あたしは……ソースケの事、好きだったから……

……これからは、ずっと一緒だよ……ソースケ……

あたしの、一番、大好きな人……

「ふああ、ぁ……」

一発大きなあくびをかます。

「あら、千鳥さん、眠たいんですか……?」

あたしの隣でベーコンエッグを作ってたお蓮さんが不思議そうにあたしの事を見た。あたしは『んー』っとうめくと、コーヒーメーカーのボタンをぱちっと入れて、

「まあ、ちょっと、いろいろあって、眠い事は眠いわね……」

「はあ、いろいろ……ですか」

「うん、ちょっと、お蓮さんが寝てからね、色々あったの」

「……はあ。それと千鳥さん……その……」

「んー?」

「その……左手の、薬指にある指輪……なんです?」

「!」

あたしは、『ばっ!』と左手を背中に持っていってお蓮さんに向かいなおると、できるだけ冷静に勤めて、

「さ、さあ? な、なんでしょーね、うははははのはー」

やっぱり冷静になれなかった。

てゆーか声が完全に裏返ってた。

そんなあたしをお蓮さんはしばらくじ~っと疑わしそうに見つめていたんだけど、一つ、意味ありげに『ふふっ』と笑うと、

「……いろいろ、あったんですね……」

「……は……?」

「そうですか、だから眠そうにしてるんですね……。なんなら寝てても良かったんですよ」

「いやあのちょっとお蓮さん?」

な、なんかすごい誤解されてる気が……

「……やっぱり、気を利かせて帰ればよかったですね……」

「ちょ、ちょっとお蓮さんっ! あんたすっごい誤解してないっ!?」

「いえ、そんなことはないですよ。絶対」

「で、でも……」

「……結婚式には、呼んでくださいね?」

「……へ?」

「それ、結婚指輪なんでしょう? 昨日、渡された」

「……う、うん……」

うつむいて、こくんとだけうなづく。あ、なんか顔熱い……

「……良かったですね、千鳥さん……。それで、付けてると言う事は、承諾したんでしょう?」

「……うん……。高校、卒業したら……。結婚してあげるって、いった……」

昨日の夜。

キスした後、あたしはあいつにそう言った。

……ホントは、今すぐでもいいんだけど……

やっぱり、世間体とかあるし……

それに……

今も、もう一緒にいるんだしね……

だから、そんな急ぐ必要ないよね……

今ごろ自分のベッドで眠っているであろうバカの顔を思い浮かべ、くすっと笑う。

「……でも、あいつの方から言ってきてくれるなんて思ってもなかったな……」

「……そうなんですか」

「うん、やっぱりあたしの方から言わなきゃならないかなって、ずっと思ってたし」

「……じゃあ、よかったですね」

「そだね……」

「……はい……」

二人でふふっと笑う。

「さっ。朝ごはん、作っちゃおっか」

「はい」

二人笑顔で、笑いながらうなずく。

ベランダに出ると、柔らかい風があたしの髪をゆらした。

もう、冬は終わりに近づいているみたいだった。

 

続く


あとがき

ヤマ場がやっと終わりました。

さあっ、そろそろラストです。長らくお付き合いしていただいた皆様も、あとちょっと。ちょっとだけ付き合ってください。

それでは~。


★…さりら’s感想…★
あ、あいかわらず…よく書くわ(汗
もーなんつーか、すごいですねぇ…。ぷろぽーずですかぁ。指輪ですかぁ。早っ。
まぁかなちゃんが幸せそうなのは嬉しいですが。
しかしお蓮さんほんといい役どころだよなぁ…
そして、次回は最終話。
バンドは一体どうなったのだろう?(汗

気になるーっ!!

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