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2014.02.20 10:22

銀涙 第4話 by モチケン

『こちら、格納庫!ブリッジ、応答願います!』
なんとか、ミサイルの発射を阻止しようと悪戦苦闘中のブリッジに格納庫から通信が入る。
「なんだ!必要事項だけを簡潔に伝えろ!」
通信士が怒鳴る。
『ARX-7アーバレストが勝手に機動!甲板を突き破って外に出ました!パイロットは搭乗していません!』
「!?少佐!」
通信士がカリーニンを仰ぎ見る。
「わかっている、追撃は出せるか!」
『無理です!この状況下で発進できるASはいません!』
格納庫からは様々な雑音と人の声が飛び交っているのが通信をしていてわかる。
「わかった!今は、トマホークや魚雷を止めるのが再優先だ!そのまま、現状で対応しろ!」
カリーニンが声をあげる。
「中佐!私は、聖母礼拝堂(レディ・チャペル)に向かいます!ここを、よろしくお願いします」
「うむ、了解した」
カリーニンの言葉にマデューカスか頷く。
「…カリーニン少佐!」
ブリッジを後にしようとするカリーニンにマデューカスが声を掛ける。
「艦長を……テスタロッサ大佐をよろしく頼む!」
マデューカスが『キー』放る。
「了解です!中佐」
『キー』を受け取ると、カリーニンはブリッジを出ていった。
「頼むぞ、少佐」
マデューカスがこぼした言葉は、この艦の全クルーの気持ちでもあった。

「ソースケ!」
かなめの声で我に返る宗介。
「……うむ、なぜアーバレストが起動しているか知らないが、これはチャンスだな」
「行きましょう。デ・ダナンへ」
「…肯定だ!」
宗介は携帯武器にサブマシンガンを持つ。
「千鳥!これを」
「え!?」
かなめが渡されたのは拳銃。
グロック17という型の拳銃だ。
「用心のためだ。これを、持っていてくれ。安全装置の解除方法は……」
「んなことはどうでもいいわよ!早く行こう!ソースケ!」
「了解した!」
宗介がターボプロップ機のハッチを開ける。
「こちら、相良軍曹。パイロットはそのままの体勢を維持してくれ!」
ターボプロップのパイロットに通信で呼びかける。
『りょ、了解』
「よし……」
パイロットの返事を聞くやいなや、宗介はアーバレストのコクピット目掛け……飛んだ。
「ソースケ!」
宗介の行動にかなめが叫ぶ。
「くっ!」
なんとか左肩部にとりつき、ハッチを開ける。
「……やはり、無人か」
宗介はそう言葉を紡ぎながら中に滑り込む。
―――ウィィィン―――
アーバレストが操縦者を認識し起動する。
『千鳥!こちらへ!』
宗介の操作によってアーバレストの右手が伸びる。
『コクピットに君を収容する!手に乗ってくれ』
「手に乗れって言ったって……」
千鳥は下を見る。
眼下に広がる青い海。
海だが、この高度で落ちたらひとたまりもないだろう。
『千鳥!早く!』
「もう!こうなったらヤケよ!」
かなめが飛ぶ。
そのかなめを右手でキャッチしたアーバレストは、そのままその手をハッチに向かって動かす。
「よ……っと」
かなめもコクピットに滑り込んだ。
―――ガシィィィン―――
それと同時にハッチが閉まる。
「狭いが我慢してくれ」
「はいはい。わかってるわよ」
そういえば、かなめの体はかなり宗介に密着している。
「ちょ、ちょっと。変なトコ触らないでよ?」
「ん?どこをだ?」
宗介が律儀に尋ねる。
「そ、それは……と、とにかく全部よ!」
「し、しかし、こう狭いとだな……」
「やかましい!さっさと下りろ!変態軍事オタク!」
「りょ、りょうかい……」
かなめに促され、ターボプロップのパイロットに通信を送る宗介。
「よし……降下する!」
「ん……」
アーバレストが左翼から手を離す。
―――ズドォォォォン―――
アーバレストがTDD-1の船体に着地する。
『アーバレスト!搭乗者は誰だ!』
この声はマデューカスだ。
「はい、中佐。相良宗介軍曹であります」
『!?相良軍曹!なぜ、貴様が……そんなことはどうでもいい。なんとかしてミサイルの発射口を潰す事は可能か?』
「ミサイルの発射口をですか?」
『そうだ!訳は後で話す!可能か!』
宗介がかなめの顔を見る。
それに気付いたかなめは首を縦に振った。
「はい。可能です、中佐」
『よし!やってくれ!』
「了解」
宗介は腰部にマウントされたショットキャノンを装備する。
「アル!ラムダドライバ起動!」
『了解。サージェント』
冷却装置、並びに両肩、背中の装甲が展開する。
「ソースケ!」
「いけっ!」
―――ドンッ―――
ショットキャノンからまばゆい虹色の光が尾を引いて飛んでいく。
―――ズドォォォォォン―――
甲板上の全ての発射口が綺麗に吹き飛んだ。
「中佐。成功しました。これより、内部に侵入します」
『了解だ。ごくろうだった、軍曹』
マデューカスの言葉で通信が切れる。
「ソースケ。ここからが本番よ」
かなめが宗介に語る。
「テッサを助けなくっちゃ」
「大佐殿がどこにいるかわかるのか?千鳥」
「えぇ。テッサ……いえレナードは聖母礼拝堂(レディ・チャペル)にいるわ」
かなめが真剣に宗介に伝える。
「わかった。そこに向かおう」
宗介はそう言うとアーバレストを操作しTDD-1内部へと入っていった。

カリーニンは走った。
どうやら、土壇場で宗介がミサイル……トマホークなどの発射を食いとめたことが艦内放送で流れた。
(流石だな、軍曹)
そう思ったのもつかの間、聖母礼拝堂の扉が目の前に迫った。
「よし……」
マデューカスから受け取った『キー』を差し込む。
しかし、扉は開かなかった。
「!?どういうことだ」
何度かカギを差し込むが扉は沈黙したままだ。
携帯した拳銃でということも考えたがここの扉はそんなものでは破壊できないことをカリーニン自身が知っている。
「くっ!ここまできて……」
―――ガンッ―――
扉に両拳をうちつける。
この奥にテッサはいるのだ。
この扉1枚隔てた場所に。
「!?少佐」
聞きなれた声にカリーニンが振り向く。
「お前たち、どうしてここに……」
そこには相良宗介軍曹と千鳥かなめの姿があった。

「『キー』が使えないと?」
「そうだ。なんども試したのだがダメなのだ」
宗介の質問にカリーニンが答える。
「そう。これも『彼』の仕業ね……」
二人の言葉にかなめがそう呟いた。
「千鳥?」
「ソースケ、頼みがあるの」
かなめは少し俯き加減だった顔を上げ、宗介の瞳を見た。
「私の両手、ずっと握ってて」
「!?千鳥、君は……」
宗介が焦る。
普通ではない表情の宗介を見てかなめは少し微笑んだ。
「だいじょうぶ。ソースケがお願い聞いてくれたら、絶対に戻ってくるから」
「千鳥。それは危険過ぎるのでは……」
「私しか、テッサを救えないのよ。ね?だからさ」
「…………」
宗介が困っている。
その気持ちは十分かなめにも伝わってきた。
いつも、一緒にいたからわかる。
私にしか彼のことをわからない。
ちょっとした自信。
「ソースケ……」
「わかった。だが、かならず帰ってきてくれ。約束だ」
宗介はかなめの瞳を見た。
「うん。約束、ね」
かなめが微笑んだ。
そして、宗介がかなめの両手をぎゅっと握る。
「じゃあ、行ってきます」
かなめはゆっくりと目を閉じた。

「テッサ。それでこそお前は僕の妹だ」
レナードがテッサの髪を撫でる。
テッサは微笑ながらレナードの胸に抱かれていた。
母親の胸に抱かれているようなそんな安心感がレナードの胸の鼓動を通して伝わってくる。
(どうして、今までしなかったんだろう)
(こんなに、安心できる場所が近くにあったのに)
(どうして兄を憎んでいたんだろう)
(もう、たった一人の身内なのに)
幸せという感情がテッサを支配していく。
安らぎが彼女の心を満たしていく。
(もう、どうでもいいわ)
(全てが、もう……)
「あんた、いいかげんにしなさいよ」
聞き覚えがある声。
「やぁ、久しぶりだね。千鳥かなめさん」
(チドリカナメ?)
「やっぱし、あんただったのね。テッサから離れなさい!」
(チドリカナメは私から相良さんを奪った人)
「そんなこと、言われてもね。僕が抱いてるんではなくて、彼女が離れないんだよ」
レナードが微笑む。
「テッサ!何やってるの!正気に戻って!」
「……出ていって」
「!?……テッサ」
「出ていって!相良さんを奪ったくせに……。好きじゃないって言ったじゃないですか!」
(どす黒い感情が胸の中に湧き上がってくる。)
「!?それは」
「……ふっ。それに、兄さんに奪われたんでしょ?ファーストキス」
「!?……」
(イヤな子だな私)
「誰とでもするのね?かなめさん」
「それは……それは……」
かなめの声が弱弱しくなっていく。
「相良さんもかわいそうに……。知らないんでしょ?どうせ」
「あいつなら……あいつならわかってくれるわ!」
「根拠は?」
「え?」
「根拠はあるんですか?許してくれると?」
「……」
「ないんでしょう?」
「ないわ。……でも、私はそう信じてる!」
「!?」
「あんたは信じられないの!好きになった男が、ソースケが!」
「…………」
「今だって、あんたを助けようと必死になってるのよ、あいつは」
「……………」
「あいつ、だけじゃない。カリーニンさんだってマデューカスさんだって、マオさんやクルツくんだって……。この艦のクルー全員があんたのこと心配してるのよ!」
「………………」
「それなのに、あんたは何してんのよ!こんなクソ野郎に抱かれて。なにやってるのよ!」
「あなたには、わからないわ」
「!?……テッサ」
「あなたにはわからない!私のことなんかわかるはずないわ!」
「……」
「私のこと……なんか」
涙が出た。
何度目の涙だろうか。
その涙をレナードが拭う。
「無駄だよ。千鳥かなめさん。テッサはもう、僕の物だ」
「テッサ……」
かなめが呼びかける。
しかし、テッサはそれ以上何も語ろうとはしない。
レナードの胸にしがみついて、泣いていた。
哀れな子猫のように。
『テッサ。そんなに悲しまないでくれ』
その声にテッサの体がぴくりと震える。
かなめが驚いて回りを見渡した。
レナードが微笑むのを止めた。
『テッサ。僕はいつも君のそばにいるよ』
何かが舞い降りてきた。
いや、細かな粒子が人の形を形成していく。
そして、ゆっくりとした動作でテッサに両手を差し伸べた。
『テッサ、そこは君のいるべき場所ではないよ』
優しい笑み。
いつも、この笑みに救われていた。
「……バニ」
「お前、どうして!」
レナードが初めて焦りの表情を見せる。
『さぁ、涙を拭いて』
テッサの両手を暖かい感触が包み込む。
『大丈夫。みんなわかっているよ。テッサのこと』
「…………」
『君も本当はわかっているはずだよ』
「…………」
『君には、涙は似合わないよ』
「…………」
『いつでも笑っていて』
「…………バニ、どうして死んじゃったの?どうして、そばにいてくれなかったの?」
『僕は、いつでも君のそばにいるよ。君を守っているよ』
「バニ……」
『わかるよね?テッサなら』
「うん」
『千鳥かなめさん』
「え?」
急に呼ばれて、かなめは狼狽した。
『テッサをお願いします。レナードは僕が追い出します』
「……わかったわ」
バニの言葉にかなめが頷いた。
「貴様!」
『2度とテッサに近付くな!』
バニが粒子へと体を変換させる。
「くっ!?」
その粒子に包み込まれ、レナードは消滅した。
「テッサ。帰りましょう」
「……はい」
テッサはバニが消えた虚空を見つめながら、そう呟いた。

続く


あとがき

どうも、モチケンです。
第4話です。そして、またまた謝ります。
すいませ~~~~~~~~~~ん!!(涙
もうひとつ、短いですが『エピローグ』を書かせてください!
この、エピローグで完結します。
一応、この第4話と一緒に送る予定ですので。
管理人のさりらさん、そしてこんな駄文を読んでくださっているみなさん。
もうしわけありません!
では、エピローグで。

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