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2014.02.20 10:30

救ってあげたいロンリーネイバー 第4話 by モチケン

PM7:47 メリダ島付近海上

月の光に照らされて、水面がきらきらと光瞬く。
―――ヒィィィィィン…―――
その海上を音だけがもうスピードで駆け抜けていった。
いや。
正確には音だけではなく、その音を発する物体が通り過ぎているのだが人間の視覚では捉える事が不可能なのだ。
『ECS』
正式名称『電磁迷彩システム』
レーダーやセンサーなどから機体を隠す装置であるが、最新のものでは光の波長を変化させることにより透明化することができため、視認することができなくなっている。
(ECSは問題…なし)
彼は頭の中でそう確認を取る。
《マスター。そろそろメリダ島に到着します》
沈黙が支配する操縦席の中にAIの声が響き渡る。
(汎用人型形態にトランスフォームの準備)
《了解、マスター。23秒後にフォームチェンジを行います》
(…よし)
若干の時間が経った後、視野にメリダ島を捉えた。
(…フォームチェンジ)
肉眼では確認できないが、巡航形態だった<ゲイボルグ>が人型へと変形していく。
―――ズシャッ―――
人型に変形した<ゲイボルグ>が地に降り立った。
(<バロール>は上にあるのか?)
《軌道衛星<バロール2>が上空を通過中です。リンク開始。デュアルセンサー起動》
制御AI<キャナル>が、偵察衛星<バロール>からの映像に<ゲイボルグ>のツインカメラ、さらに頭部に搭載された熱源センサーと超音波重力偏向検知機から得た情報を解析・統合し、ひとつの映像を構築する。
ワイヤーフレームで描かれたバード・ビューの立体地図が、自分の脳へと直接入り込んでくる。
《大規模な地下構造物の存在が予想されます》
見れば確かに基地と思われる2キロほどの地下空間があった。
地上部に目立った熱源反応はない。
強いて言うなら輸送機を載せた巨大なリフトがせり上がってきていることぐらいだった。
地下に基地を建造したのは、秘匿性を重視したためであろうことが容易に想像できた。
(ふむ……どうにかなるか)
ざっと地図を見回すと、彼はそう判断し、ゆっくりと目を開けた。
「では、行ってくる。おとなしく待っていろよ」
『はい。マスターもお気をつけて』
彼の言葉にAIはそう返した。

PM7:52 メリダ島発着所

「む…」
宗介は空を見上げた。
「どうしました? 軍曹」
ターボプロップの乗降口に足を踏み入れたまま固まった宗介に操縦者が声をかけた。
「今、何か飛んで行かなかったか」
宗介は空を見上げたままそう答えた。
「え? ……私にはわかりませんでしたが」
パイロットはきょろきょろした後、宗介にそう答えた。
「……嫌な予感がする。もう少し待っていてくれ」
宗介はそう言うと、さっきまで歩いてきた道のりを走って戻り始める。
「ちょ、ちょっと軍曹!」
パイロットは宗介に叫ぶが彼には聞こえなかったらしい。
「まったく……いまさらプランの再提出かよ!」
闇に消えた宗介を見送ったパイロットは腕組みをしながら愚痴をこぼした。

PM7:57 メリダ島テッサの自室

「ふ…ぅ……」
仕事を早めに終えることができたテッサは今こうして至福の時を迎えていた。
「こんな時間にシャワーが浴びれるなんて夢見たいですね…」
長いアッシュブロンドの髪を暖かいお湯が伝ってゆく。
例の正体不明のASのことで色々と考えていたのだが、それを疲れが出てきていると判断したマデューカスの配慮により、今日は早くひけさせてもらえたのだ。
「なんだか悪いことしちゃったみたい…」
テッサはそんな独り言を言っている、鏡に移る自分の顔を見て苦笑した。
シャワーを浴び終えたテッサはバスタオルを巻いたまま、ベットに腰を下ろした。
今日は何を気を使ったのか知らないがマオは来なかった。
というより彼女もあの正体不明のASが気になるようだ。
M9の製造にも一躍買っている彼女のことだ、それなりに興味をそそられるのは理解できることだ。
「…それにしても」
(落ち着かない…)
さっきから独り言が多く出るのはそのせいだろうか。
いや、独りには慣れている。
今まで独りで生きてきたのだから。
「ダメですね。こんな考えじゃ…」
あの人も、そして彼女も言ってくれた。
『友達だよ』
と。
その言葉がどれだけ励みになったことか。
(だけどそれは…)
テッサは自分の考えが嫌になり激しく首を振った。
「紅茶でも煎れよう…」
テッサは着替えをとるためにベットを立ち、そのまま台所に立った。

PM8:02 メリダ島基地格納庫

「……格納庫か」
先ほどの索敵で大まかではあるが構造を把握していた彼は、なんなく侵入に成功した。
『案外、中はボロいな』
それが第一印象だった。
内装がまったくといっていいほど成されていないのだ。
ただ未完成なのだけなのかもしれないが、おそらくはあの『トイ・ボックス』が予算を食いつぶしているのだろう。

そこでは、さきほどの作戦によって使用されたM9と<アーバレスト>が整備を受けていた。
「あの機体……M9のカスタムタイプ――いや」
彼は<アーバレスト>の外見から内部構造を推測すると、数秒後にはラムダ・ドライバ搭載機だという結論を出した。
「トイボックスといい、あの機体といい、やはりウィスパードがいるということか」
彼は、アーバレストやM9などを記録に収めると同時に周りの様子をうかがった。
「さて、と…」
機材の影に隠れていた彼は目の前を通りすぎようとした作業服の男に目をつけた。
「!?」
彼の腕が男の腕を引っ張る。
鈍い音がし、男の左肩が外れる。
悲鳴を上げる間もなく彼の腕が男の首に絡まり気道と頸動脈を締め上げる。
7秒後、男は脳への酸素供給を阻害され意識を失った。
彼は男の四肢を器用に外し体を小さく折りたたんでコンテナに収納した。
これでそう簡単に男は見つかることはない。
「死にはしない。安心しろ」
彼は申し訳程度に呟き、作業服を着込む。
その辺の機材を多少手に取るとその場を立ち去った。
お姫様を目指して。

同時刻 COC(戦闘指揮所)

「いや、これといって異常はないよ。飛んでるのはフライトプランの提出されているものばかりだ」
レーダー手の軍曹は異常を認めなかった。
「おかしい、確かに何か飛んでいたはずだ」
宗助が食って掛かる。
「そうは言ってもなぁ……ECCSにも何の反応もないんだから。勘違いなんじゃないのか?」
宗介は先ほどの嫌な予感から知己のレーダー要員に詰め掛け記録をチェックさせていた。
しかし、あらゆるセンサーは沈黙を保っていた。
(微小ではあった、が、あれは確かにジェットの排気音だった……)
『ECS』
そんな単語が宗介の頭を過ぎる。
しかし、対ECSセンサーに反応はなく、飛翔音を聞いたのは自分だけ。レーダーの記録を見る限りは誤認が濃厚だ。
確かに、これがどこかの組織の作戦行動だった場合、ミスリルの基地が発見されたことになる。
これは重大な問題である。
が、もしこれが誤認だった場合、基地内に無用な混乱を招くことになる。
(……どうする)
緊張感。
責任感。
その言葉が宗介の意識を支配する。
とりあえず、クルツとマオに意見を聴いてみよう。
そして……。
最高司令官であるテッサの耳にも入れておいた方がいいだろうか。
(当たり前だ。彼女はここの責任者ではないか)
しかし、それだけではなく。
『友達として』
例のあの事件以来、彼女との関係も上官としてだけではなく『友達』としても見えてきている宗介にとってこの判断は難しい問題でもあった。
彼女はきっと心配するだろう。
そして、自分の意見も考慮に入れるだろう。
何より、自分を信頼してくれているはずだ。
「よし」
宗介は考えをまとめると、テッサの執務室へと足を向けた。

PM8:12 将官居住区天井

「彼女がそうか……」
通風孔付近にCCDを下ろし、部屋の中をうかがう。
その中にはまだ少女と言える年齢の少女がいた。
(こんな少女がミスリルを束ねているというのか……)
彼は驚きを隠せなかった。
スタッフの一人からさりげなく将校の居住区と指揮官の部屋を聞き出し、通風孔を這って進んだ。
正面から部屋に侵入してもよかったのだが、敢えてネズミのような真似をしたのは先に退路を確保しておきたかったからだ。
とにかく、そうしてその人物の顔を拝んでいるわけだが……。
(あの野郎……)
彼はこの情報を伝えた金髪の男の顔を浮かべた。
今頃、彼の狼狽振りを思い浮かべて、したり顔でチョコを頬張っているのだろう。
(知ってて黙ってやがったな)
金髪の男にありったけの呪いの念を送ると、また少女に視線を落とした。
しかし、この人物がウィスパードだとすればこの地位に少しは納得ができる。
天才を超える頭脳をもつウィスパードがミスリルという組織でも上の地位に付くのは納得できるのだ。
しかし……。
(女か……)
彼は躊躇した。
こんな状況を想像していなかったわけではない。
ただ、現状であって欲しくない事態であったのだ。
(しかし、仕事は仕事だ。それに彼女の知識が俺には必要なのだ)
そう、『妹』のためにも……。
その考えが彼の迷いを吹き飛ばす。
(よし……ゆく!)
彼は天井を突き破り階下へと踊り出た。

PM8:18 通路

うかつだった。
宗介は彼女が早く仕事を終えたことを知らなかった。
今は、テッサの秘書官であるヴィラン少尉から事情を聞き、自室へと向かっている最中である。
しかし、自分も大胆な行動に出てしまったものだ。
(千鳥にこのことを知られたらどうなるのだろう……)
今は別の場所にいる大切な人のことを思い浮かべ彼は自分の考えに驚愕した。
(いったい、何を考えているんだ俺は……。不謹慎な……)
しかし、彼女のことが気にかかっているのは事実だ。
このままでは明日の登校時間に間に合わない。完全に遅刻だ。
そして、彼女の機嫌を損ねた場合、夕食の約束はぶちこわしになるだろう。
そんなことを考えていると気が重くなる。
(また、彼女との約束を破ってしまうのか、俺は)
本当に千鳥に対しては罪悪感でいっぱいだ。
何度ミスリルの仕事の関係で彼女に心配をかけ、そして約束を破りつづけているかわからない。
(自分がミスリルなどという場所にいなければ……)
そんな考えが宗介の頭をかすめ、その場に立ち止まらせた。
(俺はいったい何を考えている……)
しかし、考えは止まらなかった。
もし、自分が普通の日本人として普通に人生を送り、普通に高校生を行っていれば。
千鳥と別の形で会っていたら。
(そうなったら、俺は彼女にとって今と同等の存在になりうるのだろうか)
しかし、彼女と会えるという可能性はゼロに近いのだ。
確かに同じような生活はできたかもしれない。
しかし、彼女と『出会える』ことができたのだろうか。
(やはり俺は、戦場でしか生きることはできないのか……)
そんな考えが宗介の気持ちを暗闇に落として行く。
(やはり、自分は…)
―――ガ、カラン―――
「!?」
微かな物音に宗介が我に返る。
腰から愛用のグロックを引き抜いて身構えた。
通常、基地内では武器を携行しないのだが、最悪の事態を想定して部屋までに取りに行ったのだ。

「…………」
沈黙。
気のせいだったのだろうか。
『あ、あなたは?』
聞き覚えのある声。
自分の背中から聞こえてくる。
(大佐殿!?)
後ろに視線を這わすとそこにはドアがある。
宗介はそのドアに耳を押し当てた。

PM8:22 テッサの自室

「あ、あなたは?」
突然の天井からの来客に、テッサはかすれる声を必死に絞り出した。
「声を出すな。床に伏せろ」
男はテッサに銃を向け、そう言った。
「なんなんですか! 目的を言いなさい!」
―――パスッ、チュン―――
男の放った5.7mm弾が床に突き刺さった。
「聞こえなかったか? もう一度言う、黙って床に伏せろ」
感情がこもっていない声で男が再度忠告を発した。
「!?」
男の銃口は自分の額を狙っていた。
一発で額を撃ち抜ける距離。
その恐怖にテッサの膝が悲鳴を訴えていた。
「……気丈な女だな」
男はそう言うとテッサの背後に回り、腕をひねり上げた。
「あぅ!?」
状況が掴めぬまま、床に伏せられるテッサ。
「大丈夫だ。死にはしない」
男はそう言うとテッサの口にテープを張り、手首に手錠をはめた。
「あっけなかったな。お姫様。ミスリルも大したことはないということか」
天井から降りたときにセットしておいたワイヤーに手をかけ、じたばたともがこうとするテッサを肩に担ぎあげた。
ウィンチを巻き上げようとしたその時、部屋に人影が飛び込んできた。
宗介だった。
(サガラさん!)
口が利けないテッサは精一杯心で叫ぶ。
一瞬で状況を把握した宗介は、最初の勢いを殺すことなく男に向かって突進する。
「ふ。威勢がいいな」
外にいることを初めから知っていたかのように天井に上がるタイミングで宗介を避ける男。
「ちぃ!」
男はテッサを抱えたまま天井裏へと消えていった。
「くそ!」
机を踏み台にしてジャンプし、通風孔へ手を掛け顔を覗かせる。
その瞬間、暗闇を一条の赤い光線が駆け抜けた。
「!?」
背中に寒いものが走り顔を引っ込める宗介。
―――カカカカンッ!!―――
通風孔内の遠くの壁に着弾音がした。
赤い光はサブマシンガンに備え付けられたレーザーポインターだった。
テッサが人質に取られている以上、こちらから発砲することはできない。
このまま通風孔を進んでいったら銃弾の前に無防備に体を晒す事になる。
このルートは使えない。
「緊急事態だ……。少佐に知らせなければ……」
宗介はそう判断すると、テッサの自室を後に駆け出した。

 

続く


あとがき

どうも、もちです。
第4話です。
まとめ書きです。
いやぁ、賊が潜入してきたなぁ…。
テッサさらわれちゃったなぁ…。
どうなるんだろうね、これから。
って、今から続き書くんだけどさ(笑)
んなわけで、次回もお楽しみに(苦笑)

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