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2014.02.20 10:51

ホスピタル・パニック! 第1話 by 量産型ボン太くん

泉川駅から徒歩10分。そこには巨大な建物が建っている。建物の周りは高い塀で囲まれており、塀の上には有刺鉄線が張り巡らされている。さらに正面にはごつい門があって、守衛がにらみをきかせていたりする。
やけに物々しい警備だが、別にここは刑務所でもなければ秘密結社のアジトでもない。ここは体調が悪くなったり怪我を
した人達を収容し、治療を行う施設である。この建物の名前は『林水総合病院』。

この日は朝だというのに空は薄暗く、雨がぱらぱらと降っている。陰気な天気だが、この天気以上に陰気な空気を纏いながら歩く少女がいた。彼女の名前は千鳥かなめ。彼女は仕事の同僚の常盤恭子と一緒に仕事先へと続く道を歩いていた。
「あ~、うざったい…。それに眠い…。」
「カナちゃん、もうすぐ着くよ。」
かなめと恭子は自分達の働いている所━━林水総合病院へと入っていった。更衣室で制服に着替えた二人は職場へと向かうが、かなめは同僚の相良宗介がいないことに気付く。
「あれ?そういえばソースケってどこにいるんだろ。」
「今日はまだ見てないよね。もうすぐ仕事始まっちゃうのに…。」
かなめは宗介がいそうな所に心当たりがあった。階段をかけ上がり、かなめは病院の屋上に来た。ドアには『関係者以外立ち入り禁止』と書いてある。かなめが扉を開けると、そこに一人の男がいた。相良宗介である。
「ソースケ!あんた何やってんのよ。もうすぐ夜勤の人と交代なのよ。」
「千鳥か。丁度いいところに来た。少し手伝ってくれないか。」
「何やってんの?」
「旧知の武器商からイスラエル製の対空レーダーを安く買えたので今設置している所だ。」
「何で病院の屋上にレーダーが必要なのよ…。」
「観測は必要な事だ。万が一敵の爆撃機がこの病院を攻撃しようとしていたらどうするのだ。こうしておけば敵が空から攻めてくればすぐにわかるぞ。」
かなめはこめかみのあたりを押さえながら言った。
「あのね、ソースケ。この平和な日本で、しかもただの病院をわざわざ爆撃しにくるもの好きがどこにいるってのよ?」
「千鳥、君の認識は甘い。病院というのは案外攻撃を受けるものなのだ。つい数ヶ月前もイラクの病院がアメリカの爆撃機により爆撃されている。しかも、その病院には民間人しかいなかったにも関わらずだ。とかく病院や教会といった施設はテロリストの隠れ家として疑われる傾向にある。この病院とて例外ではない。」
「んなわけないでしょ!さっきも言ったけど、ここは日本なのよ?爆撃なんてされないの。だから早く着替えて持ち場へ行きなさい。今すぐに。」
「だが警戒を怠るのは…。」
「今すぐって言ったのが聞こえなかったの…?」
かなめの殺意に満ちた言葉に、宗介は慌てて更衣室へと向かって行った。

この林水総合病院は林水敦信が経営する病院である。宗介もかなめも恭子もこの病院で働く医者と看護婦だった。
他にも医者はいるのだが、皆変わり者ぞろいだった。例えば整形外科の椿一成はド近眼のため、常に分厚い眼鏡をかけていないと患者の区別がつかない。ついこの間も患者の顔を見間違えて危うく医療ミスをするところだった。おまけに宗介と異常に仲が悪い。ちなみに宗介は外科である。さらに精神科の水星庵は患者にカウンセリングを施すたびに難解極まりない発言を長々と聞かせる。ある時など、患者がカウンセリング中に失神したことがある。
その他にも眼科の阿久津万里は近隣のヤンキー達のボスだったりする。
そんな変わり者達の集まるこの病院に、この日ある人物が入院してきた。その人物は最近何かと話題に上る政治家で、体調を崩してこの病院に急遽入院したのだ。

宗介は林水に呼び出されていた。
「今日からある人物がこの病院に入院することになった。政治家の速見氏だ。速見氏は間もなく選挙を控えている。この時期にこういう事になるのは都合が悪いのだそうだ。
表向きには速見氏はいたって健康ということになっているが、新聞記者達の間で速見氏が病気になったという噂が広まりつつある。
そこでだ、相良君。我が病院の安全保障問題担当である君に、速見氏の護衛を頼みたい。護衛といっても記者達に速見氏の写真を撮らせないようにすることだ。通常の仕事なら代わりの医師を呼んでいるから問題はない。」
「了解致しました、閣下。」

入院してきた政治家の速見は、グレーのスーツに黒縁眼鏡をかけた50前のこざっぱりとした男だった。
宗介は彼を個室につれていくと、すぐにカーテンをひいて中が見えないようにした。
「俺は今日からあなたが退院するまでの間、護衛を務める相良宗介です。」
宗介は速見に自己紹介をし、速見もそれに答える。
「よろしく頼むよ。相良君。ところでここは本当に大丈夫なのかい?」
「ご安心を。この病院はある程度の攻撃に耐えられるように出来ています。窓は全て防弾ガラスですし、建物自体も装甲化されています。
そして病院の敷地内には数々のトラップが仕掛けてあります。たとえ重武装のテロリストが踏み込んできても病院内への侵入は容易ではありません。」
「いや…。私は新聞記者を心配しているのだが…。」
「大丈夫です。いかに優秀な新聞記者でもここまで来る事はできません。」
速見は少し不安になっていた。

その頃病院の正門前で不敵に笑う女性がいた。名前は若菜陽子。泉川新聞社の記者である。彼女は速見がここにいることを聞きつけ、取材しに来たのだ。
彼女は正門へと歩いていき、そこで守衛に止められた。その守衛は丸太のように太い首、分厚い胸板の大柄でいかつい顔をした男だった。しかもそんなのが全部で3人いた。彼らの名前はマロン、ワッフル、ショコラという。彼らは陽子に向かって野太い声で叫んだ。
『この病院に何の用だ!』
「え~と、この病院に友達が入院してんのよ。わたしはお見舞いに来たわけ。だからここ通してくんない?」
陽子の言葉を3人は鼻で笑った。
「嘘をつけ。一体この世界のどこに見舞いにカメラを持参するやつがいる。どうせ小汚い雑誌記者だろう。」とマロン。
「そんな輩を通すわけには行かぬ。もしここを通りたいならば。」とワッフル。
「力ずくで通るがよい。」とショコラ。
それぞれ言ってから3人は『ぐははははは!』とうなるように笑った。
陽子はさすがにこんな筋肉バカを相手にするのはイヤだったらしく、あきらめて他の侵入手段を考えた。

結局陽子は塀をよじ登ることにした。有刺鉄線にさえ気をつければどうにかなりそうだった。
陽子はさっそく塀に手をかけてのぼり始めた。難なく塀を越えて中庭へ飛び降りると、速見の病室をさがす。
「厳重なのは正門だけか。案外楽に入れたわね。これで何かスクープ写真でも撮って帰ったら……昇進も夢じゃないわ。ふふふふ………。」
その時陽子は、自分が地面に埋まっている金属製の物体を踏みしめてしまっていることに気付いていなかった。

つづく


あとがき

一応これ以外にもキャラ考えてたんですが、どうも出てこないまま終わりそうです…。放射線科の風間とか、脳外科の岡田とか、警備員の郷田達とか、小児科の瑞樹とか、内科の(以下略)。でもこいつらにだけは治療を受けたくないですね(笑
え…?看護婦さんですか?もちろん考えてましたよ♪佐伯さんとか、お蓮さんとか、恵里先生とか、こずえ先生とか……(以下略

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