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2014.02.20 10:53

遠い日のビューティフルメモリー by モチケン

「オラオラ!! 気合入れて走るんだよ!! お前らは最低のクズ野郎どもだ!! そんなへっぴり腰で戦場を生き残れると思うな!!」
『サーイエッサー!!』
「そこのデブ!! 休んでる暇があったら少しでもそのだぶだぶの脂肪減らして小汚い顔をまともにさせてみな!!」
『サーイエッサー!!』
「ここじゃ、あたしが神でお前らはクズだ!! クズはクズらしく最低限以上の働きをひとつでも見せてみろ!!」
『サーイエッサー!!』
「この○○○の、○○ども!! てめぇらなんか○○○で、○○○でもしてろ!!」
『サーイエッサー!!』
………………………………。
こんな汚い会話を吐くのはどれほどの筋骨隆々とした親父か、はたまたとてつもなく卑しく階級だけでモノをいうような実力の伴わないカス人間か……。
そう思われがちだが、この会話を吐いているのはかなりの美人であった。
肩まで短く切りそろえられた綺麗な黒髪。
きりりとした目は、猫を思わせるいたずら好きそうな目。
しなやかで美しく、出るトコは出ているボディーライン。
綺麗な格好をして街を出歩けば、全ての男が振り返るような、そんな魅力的な容姿を持ったこの女性の名前はメリッサ=マオと言った。
どうやら、新兵の訓練をしているようだ。
元気に返事をしている者もいれば、しかめっ面で返事をしている者もいる。
なぜか、恍惚そうな表情をしている者もいるがそれはこの際無視しておいたほうがいいかもしれない。
「うわー。やってるやってる」
「うむ。精が出るな」
そんな言葉を吐きながら近寄ってきたのは、彼女の部下であるクルツ=ウェーバーと相良宗介である。
「冷やかしならお断りよ」
と、いやな目線で一蹴するマオ。
「んなつれないこと言うなよ、姉さん。俺たちはただ上官殿の訓練風景をお勉強にきたんだからさー」
と、やれやれといった風なジェスチャーで返すクルツ。
「そうだ。俺も新兵ではないが、あるものたちをこのようにトレーニングしたことがあったが、その訓練の方法はマオから学んだもので、しかもそれは大いに役に立った。それを生で見てみたいという向上心からここにいるのだ」
長々と説明する宗介。
「……まぁ、宗介の言い分は納得できるけど……ねぇ」
と、ジト目でクルツを見るマオ。
「俺だけのけ者かよ……。んにしても、よくそんなきたねぇ言葉がポンポンと景気欲出てくるもんだ。そんなんじゃ嫁の貰い手なくなるぜ?」
と、からかうクルツ。
「あんたにそんな心配してもらう義理なんかないんだけど……。それとも、このクソどもに正式隊員の見本でも見せてくれるのかしら? ウェーバー軍曹殿?」
と、ニタリとした笑みで返すマオ。
「……遠慮しておきます、サー」
青い顔で返すクルツ。
「ん。なら黙ってみてなさい」
『サーイエッサー』
二人の声が綺麗にハモった。
(えー、そりゃぁ女がこんな言葉を吐くのは間違ってるってのはわかっちゃーいるのよ。もちろん)
そんなことを暴言を吐きながら思うマオ。
(それでも、染み付いちゃったもんはあんがい簡単に抜けてはくんないのよ)
彼女の目がどこか遠くを見るように細められた。
(そう。染み付いちゃったもんはね……)

それは彼女が海兵隊時代に遡る。
軍隊の訓練というものはやはり女性には結構こたえるものだ。
別に女性が男性に劣っているとは言わないが、それでも差はあることは確かだ。
周りの同僚の男どもからは冷たい目で見られたり、笑いものにされたりと散々なことが多くあった。
中でも自分の配属になった部隊の隊長はそれは厳しい人間だった。
マオは中国系のアメリカ人であったが、彼は日系のどでかい背を持つ筋骨隆々としたアメリカ人であった。
かなりの厳格な性格で少ないミスも許さない人間であった。
「マオ!! 遅い!! 貴様のせいで味方がすでに3人死んだぞ!!」
「サーイエッサー!!」
「何度言ったらわかる!! 貴様一人で戦争しているわけではないんだぞ!!」
「サーイエッサー!!」
「私は女だからと言って容赦はしない。そんな甘え心があるのなら今すぐここから出て行け!!」
「サーイエッサー!!」
失敗しては怒られ続ける毎日。
自分だけ居残り訓練なんてのもしょっちゅうだった。
ボロ雑巾のような体を引きずって、兵舎に帰るのが日課。
その頃の彼女はその美貌が台無しになるような最悪な容姿をしていたと言う。
連帯責任を取らされた、同じ部隊の人間にはののしられ、誰もねぎらいの言葉のひとつもかけてはくれない。
そんなマオがやさぐれていくのにそれほど時間はかからなかった。
元々、住んでいたニューヨークでも悪ガキをやっていたマオ。
今の年齢も決して大人とは言いがたいものだった。
訓練が終わると酒をしこたま飲み、タバコを吸い、ドラッグなどには手を出さなかったがはっきり言って人間として最低な生活をしていたように思う。
しかし、まだ子供だったマオには全てを認める精神的余裕がなかったのだろう。

今日も兵舎を抜け出して、薄暗いバーでウイスキーをガブガブと飲んでいるマオ。
兵舎をいかに見つからないように抜け出すことができるのか。
通信機器やセキュリティなどを徹底的に調べあげ、ルートを割り出す。
ちなみにこのときの経験がのちのちミスリルに入ってからも有効に使われているのはまた別の話。
もう、何杯目か数えられないほどに呑み完全に自分は酔っていると自覚し始めたときに、ドアベルがカランカランと音を立てた。
客が来たらしい。
別にバーなのだから客がくるのは珍しくはないが、通いなれてしまったマオはこの時間にこの店に客が来るのが珍しいことを悟っていた。
視界に少しだけ入るように顔を動かし、横目で盗み見る。
暗い店内では顔を判別することは難しいが、今回はそれは判別できない理由に入らなかった。
でかい。
一般人にはあまり見られないくらいの背の高さ。
ごついという形容詞が似合うようなシルエット。
そいつのシルエットには見覚えがあった。
「っ!?」
思わず息を呑む。
―――がつっ!!―――
頬を鉄球で殴られたような音。
口の中が切れる。
とっさに、自分から殴られる方向とは逆に振ったので全ての衝撃を受けたわけではないにしてもこの音。
マオはカウンターから数メートルほど吹っ飛ばされ、壁に激突して止まった。
「ぐぅ……」
頬が焼けるように痛い。
どうやら歯は折れてはいないようだ。
なんとか体を起こして自分を殴った奴をにらみつける。
「貴様。こんなところで何をしている」
重い腹に響く声。
「……あんたには関係……ない!!」
横にあった椅子を男に向かって叩きつける。
それと同時にマオは地を蹴った。
「ちっ!」
男がいらだたしげに声を漏らす。
マオが投げた椅子を男が拳で叩き壊したときには、マオの姿は消えている。
敏捷な動きで男の背後に回るマオ。
後ろに振り向こうとする男に向かって回し蹴りを放つ。
―――バキィ―――
男の後頭部に綺麗にヒットするマオの足。
男の頭が流れる。
(ニヤリ)
マオの口元に生まれる笑み。
しかし、それは男も同じだった。
(え!?)
男は頭を流されながらも片手でマオの足を掴み、
「ぉぉぉぉぉ!!」
そのまま地面にたたきつけた。
「うっくあぁぁぁぁぁ!!」
―――バキン!!―――
フローリングの床が音を立てて割れる。
全身が砕け散るような感触。
「ふぅ……」
男が首をコキコキと鳴らしている。
なんとか体を動かして反撃をしたいところだが、いうことを聞いてくれない。
「ぐぅぅぅぅぅ」
そんな唸り声のような声が漏れるだけ。
「……帰るぞ」
男はマオをひょいっと持ち上げるとその場を去ろうとする。
「は……な……」
言葉を発するのも息苦しい。
マオは男のなすがままになり、痛みに意識が途絶えていった。
「……う」
「気がついたか……」
(ここは……どこ?)
ぼんやりと目を開けると街の光が目に入る。
「いっつぅ……」
「あまり動くな。傷に触る」
「!?」
その聞いたことがある声に、マオは身構えその場から逃げようとする。
「おっと……」
しかし首根っこを掴まれて引き寄せられてしまう。
「はなせ!! クソ野郎が!!」
じたばたともがくマオ。
「いいから。おとなしくしていろ」
男はそう言ってマオをきつく抱きしめた。
「くぅ……」
全身を抱きしめられたことで体のいろいろなところが痛む。
「……最近様子がおかしいとは思っていたが……、こんなことになっているとはな」
あさっての方向を向きながら男が言う。
「お前には関係ない」
マオは憎悪が困った目で男を睨み付けながら言う。
「関係なくはない。俺はお前の部隊の隊長だ。部下の責任は俺の責任でもある」
「ふん。むしろあたしのせいで首になってくれたほうが清々するくらいだよ」
「そうか」
男はそれ以上何も言わなかった。
「……なぜわかった」
しばらくの沈黙の後、それを破ったのはマオだ。
「見てればわかることだ。もっともお前は気づかれていないと思っていたようだがな」
「……クソ!!」
自分の情けなさにか、それともこの男への叱咤なのか、マオはまたぼやく。
「不満があるのなら俺に直接言え」
男がそんなことを言う。
「言えるわけないでしょう!! 上官に意見なんて。しかも、女の私が」
「……そうか」
また黙り込む。
「どうせ笑いに来たんでしょう? 兵士としては役に立たない。なんのとりえもない。しかも、その日その日のいやなことを忘れるために酒やタバコに溺れるようなこんなクソみたいな女を」
「……」
「なんとか言いなさいよ」
「……」
「言えって言ってるでしょ!! それとも言いやすいようにお前の悪口でもこの場で吐いてやろうか!!」
「吐け」
「……え?」
「いいから吐け」
「なにを……」
男の瞳がマオを見る。
「全部聞いてやる。全て吐き出してみろ」
男は真剣な目で、真剣な声でそう言った。
「あ……う……」
マオには目をそむけることができなかった。
吸い込まれていくような、でも優しい瞳。
(はじめて見た気がする)
男の瞳を見てマオはそんなことを思った。
日系の証拠なのか、黒い……漆黒の瞳。
自分の顔を映し出すそれは憎んで憎んで、死ぬほど憎んだ男の瞳とは思えなかった。
こんな瞳でずっとわたしを見ていたんだろうか。
あの死ぬほどつらい訓練のときも、ずっと。
「どうした?」
「っ!?」
男の声にマオは目を逸らす。
「……言いたくないならそれでもいい」
男がマオにそう語りかける。
「今頃あいつらも必死に探し回っているだろうな」
「……え?」
今度はマオのほうから男に顔を向ける。
「……口止めはされていたんだがな。実は俺がこの部隊を受け持って少し経ったときにリンチを受けたことがある」
「な……」
目を見開いて、口を開きっぱなしでマオが声を出す。
「まぁ、全員返り討ちにしてやったがな。どうやら、お前を厳しく訓練することに腹を立てていたようだ」
「……」
そんなはずはない。
あいつらは卑しい目で私を見たり、ののしったりしてきた連中がそんなことを。
「男ってぇのはな、不器用な生き物なんだよ。まぁ、うちの部隊がめずらしく不器用ぞろいだったのかも知れねぇがな」
そういって男は少し笑った。
「メリッサ」
「え?」
いきなりファーストネームで呼ばれ驚くマオ。
「お前には素質がある。俺らにはない何かがな」
男はやわらかい笑みを浮かべながらマオの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ここじゃお前の価値の全てを見出すことはできないと俺は思っている。だがな、ここでも経験できる様々なことがまだ残ってるんだ」
今度は優しく、何かを愛でる様に髪を撫でる男。
「俺はその全てをお前に身に着けて欲しい。勝手な俺の願いかもしれないが、どうだ。答えてはくれねぇか?」
「え……あ……う」
声が出ない。
男から目を離すことができない。
今まで明かさなかった心情を打ち明けられた驚きもある。
だけど、それ以上に。
「そ、そんなこと勝手に決めないでよ! それに今そんなこと言われたって簡単に信じられるわけがないでしょ」
恥ずかしさに顔をそらせるマオ。
「そうか。まぁ、俺はいつでも待ってるからな。といっても、俺はそのつもりでこれからもやってくつもりだがな。信じようと信じまいと変わらねぇか」
あははははと、笑う男。
「……さいってー」
「最低か。ちげぇねぇ」
それでも男は笑う。
「……ふふふ」
その顔にマオはつられてしまう。
「お。今笑ったな」
「!? わ、笑ってなんか……」
一瞬で表情を変えるマオ。
「いや。笑った。絶対に。神に誓って」
「う、うるさい!」
男をにらみつけて怒鳴るマオ。
「悪い悪い。だけどな、いい顔してたぜ。元が美人なんだからよ。しかめっ面より笑ってるほうが似合ってるんだよ」
そういって男はまたがしがしとマオの頭を撫でる。
「こ、子ども扱いしないで!!」
「あっはっはっはっは」
敵わない。
こいつには敵わない。
悔しいけど。
「それより、帰るんじゃないの?」
「お。そうだったな。立てるか?」
男がマオを抱きしめていた腕を解く。
「むり」
「おいおい。即答かよ」
男が苦笑いする。
「……おぶって」
「……は?」
マオは恥ずかしそうに目を逸らしながらもう一度言う。
「体、動かないからおぶってって言ってるの!!」
「……はいはい」
男はマオに背中を差し出す。
「……」
マオは無言で男の首に手を回した。
「っしょっと。……重いな」
「ばか!」
「嘘だ。軽すぎるわ」
そういって男は笑う。
「……ねぇ、グレイ……隊長」
「!?……くく、なんだ? メリッサ」
「……ごめんなさい。あと、わがまま聞いてくれてありがとう」
「ばーか」
グレイは口元に笑みを浮かべながらしっかりとした足取りで兵舎へと歩いていった。
 
その後、他の連中との仲直りみたいなものも終わり、マオは自分から厳しい訓練を受けるようになった。
もちろん、鬼のようなグレイも訓練のときは容赦しなかった。
しかし、変わったこともある。
訓練以外の時には、マオのわがままをよく聞いてくれるようになった。
そして、それが自然ともいえるかのように二人は男と女の関係になった。
そのことを周りの人間にバラしたのはマオであり、そのことでグレイが部下にからかわれたり恨まれたりなど様々なことがあったがおおむね平和に時は過ぎていった。
しかし、幸せなときはそれほど長く続くものではなかった。
グレイが戦死したという報告は彼女が久しぶりの休暇をとっていた時の事であった。テロの鎮圧に向かったグレイの部隊は敵のASの自爆攻撃により跡形もなく消えてしまったと言う。
それがきっかけでマオはASの研究をし始め、皮肉にも大きな結果を残しミスリルに引き抜かれることになる。
あの幸せな日々はもう戻っては来ない。
しかし、いつまでも後ろを振り返るわけにはいかない。
前に進まなければ。
そしてマオはミスリルに入隊したのだった。
 
「そういえばソースケ。あたしがあげた手帳まだ持ってるの?」
ウイスキーのロックをちびちびやりながら隣のソースケに問うマオ。
「あぁ。あれは大変貴重なものだ。しっかりと保管しているから安心しろ」
「そ。ならいいんだけどね」
残っていたウイスキーを流し込むマオ。
「それにしても珍しいな。ビールではなくウイスキーとは」
オレンジジュースを同じようにちびちびやりながらマオに問う宗介。
「んー。ちょっとね。昔を思い出してさ」
「……そうか」
それ以上宗介は聞かないことに下らしい。
「……ある人とのね『出会い』の酒なのよね。たぶん」
「……そうか」
「うふふ。今の宗介、ちょっとその人に似てるわ」
「?? まぁ、別に構わないが」
宗介は首をかしげる。
「あの手帳、大切にしてよね」
「了解」
宗介がオレンジジュースを飲み干す。
マオが宗介に渡した手帳の表紙には黒く塗りつぶされた箇所がある。
ボールペンで乱雑に塗りつぶした後。
塗りつぶされる前、そこにはグレイ=マクニコルという名前が書いてあったことを宗介は知らない。


あとがき

はい。思い付きです。
つーか、宇○田ヒカルの新曲を聴いたら勝手に描写が出ました。
うん。マオ姉さんでいこう、と(笑)。
マオの過去の話って全然聞かれないからどうなんだろうなーって思ったりして、エンサイクリペディア読んだりした後に、勝手に想像して一気に書き終えました。
っていうか、ちょっと可愛くない? 昔のマオさん(笑)。
っていうか、マオはかなり可愛い人だと思うのは俺だけかなぁ(汗)。
そりゃ、あのメンバーの中では年長者だとは思うけどさー。年長者でも子供だったころもあるだろうし。って、なんか言い訳っぽくなってるけど気にしない方向でひとつ!
あと、マオのファンの方ごめんなさい(笑) かなり適当ですので石を投げないでね(汗)
そんでわーw

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