戦士たちの飽くなき野望 by 量産型ボン太くん
某月某日 メリダ島 作戦会議室
アンドレイ・カリーニン少佐
「本日は諸君に重要な事項を伝える。第2期アニメ【フルメタルパニック?ふもっふ】が好評だったため再びアニメ化が決定された」
下士官一同
『またかよっ!?』
カリーニン
「大変名誉なことだ。そこで、諸君らにはこのアニメについて議論してもらう。短編か長編か、そしてより視聴者に楽しんでもらうために必要なことを話し合うのが今回の趣旨だ」
しばし唸る一同。
ロジャー・サンダラプタ軍曹
「やはり次回作は再び長編のほうがいい。短編は前回やっているし、そろそろ視聴者はハードな展開を求めているはずだ」
ハマー中尉
「いや、そもそも原作の読者層をよく考えてみろ。作風から察するに、おそらく読者の多くは男性だぞ。ならば短編の放送により女性キャラクターを多く出したほうが視聴率が稼げる」
ロジャー
「視聴率稼ぎに走る気か?だったらなおさらだ。言っておくがこの作品には女性ファンも多いぞ。そうでなければ原作におけるテスタロッサ穣の<温泉編>で苦情がくる筈がないからな。第一、短編になったら我々の出番がないではないか」
クルツ・ウェーバー軍曹
「第1期のアニメの時だって出番無かっただろうがよ、あんた達は………」
ロジャー&ハマー
『だまれ』
カリーニン
「だれか他に意見はないか」
相良宗介軍曹
「少佐、自分に意見が」
カリーニン
「なんだ、サガラ軍曹」
宗介
「自分としては短編は好ましくありません。是非とも、長編を放送すべきだと思われます」
後ろの方でロジャーが宗介の背中に向かって親指を立てる。
カリーニン
「そこまで断定するからには相応の理由があるのだろうな」
宗介
「はっ、それは……」
宗介が言い始める前にクルツが半眼で宗介を睨んだ。
クルツ
「おまえの場合ただ単に、前回のアニメの最終回で教室に細菌兵器持ち込んでクラスの連中にボコボコにされたから、次回作が短編じゃないほうがいいってだけじゃないのか?それにかなめちゃんなら、長編でも出演する率が高いからな」
「………………」
宗介のこめかみから汗が滴り落ちる。
ロジャー
「クルツ、さっきから長編の放送を否定しているようだが、出番が無くなってもいいのか?」
クルツ
「別に否定はしねぇよ。ただ俺の場合は短編だろうと長編だろうと出番あるだろうし。いやー、人気者でよかった♪」
ロジャー
「ぐっ…………」
メリッサ・マオ曹長
「少佐、このままじゃ埒があかないわ。この話題はそのままにして、並行して視聴率の向上策を練ることを具申します」
カリーニン
「承認する。これより視聴者に楽しんでもらうための方策を話し合う。その過程で、長編か短編かを決めたい」
テレサ・テスタロッサ大佐
「何か意見のある人はいますか?」
本来はSRTしかいない筈の作戦会議室にテッサがいつの間にか座っていた。
よく見ると水中ユニットや航空ユニット、果ては兵站グループまでいた。
アニメ化という一大事にトゥアハー・デ・ダナン戦隊のほぼ全員が集まっているようだ。
クルツ
「俺が思うに、ずばりこのアニメにはお色気が足りないと思うね」
テッサ
「お色気ですか?」
クルツ
「そう、お色気」
スペック伍長
「既出の<温泉編>やら最終回やらで散々披露したじゃないか」
クルツ
「違うな。あれはお色気じゃなくてあくまで『エッチっぽい展開』だ。お色気ってのはもっとこう、匂い立つような何かが必要なんだよ。要するにアレだな、大人の魅力が足りねえんだよ。だから陣高の女子一同には今まで通り頑張ってもらって、さらなる展開としてミスリルの女性メンバーのお色気シーンをふんだんに…」
ぼぐぅっ!!
鈍い音とともにクルツが倒れる。
その背後には通信士官のシノハラがいた。手にはいつの間にかバットが握られている。
クルツは白目を剥いたまま動かない。シノハラは荒い呼吸を整えると、クルツを引きずっていった。
テッサは手元の手帳に「シノハラさんは……今度のボーナス少し多めに……と」と書き加えた。
何事もなかったように会議が再開された。
テッサ
「他に何か意見は?」
ヤン・ジュンギュ伍長
「あー、根本的な問題として衛星テレビとか深夜枠とかじゃなくて、子供がまだ起きてる時間に放映するとか」
ノーラ・レミング少尉
「なるほど。確かに第1期放送では衛星が入ってない家庭では見られなかったわけだし、第2期で改善されたとはいえ深夜枠。ビデオの予約をしておいたものの、スポーツ番組の延長などで撮り逃して翌朝号泣した人も大勢いたはず」
マオ
「ゴールデンタイムに流すの?それは無理じゃないかしら。ネタがネタだしね。深夜枠がギリギリの線よ」
エヴァ・サントス中尉
「いい案があるわ。この作品の持ち味を特化して1話ずつにちりばめるの。そして、さらに原作の読者層が喜びそうな要素も入れる。たとえば、1話目が学園ラブコメで、2話目がお色気、3話目と4話目がちょいシリアスな中編。こんな風にね」
ハマー
「発想が陳腐すぎやしないか……?だいたいそんな風に分けたら、そのジャンルに興味のない人は見てくれない可能性があるぞ。視聴率のバラつきに繋がるかもしれん」
サントス
「大丈夫よ。もともとこのアニメ見てる人なんて、原作知ってる人ぐらいのものでしょ。原作が好きならある程度のジャンルの差は許容してくれるはずよ」
ベルファンガン・クルーゾー中尉
「サントス中尉の言うとおりだ。だが、ハマー中尉の言うことにも一理ある。話ごとのジャンルの極端な偏りは避けたい」
サントス
「じゃあ、ごちゃまぜの話でも作る?」
ハマー
「それじゃ今までとあまり変わらんだろうが。そもそも読者層が喜びそうな要素ってなんなんだ?」
サントス
「ふっ、それはね………やおいよ!」
一同
『やおい!?』
サントス
「そう!この作品には男性ウケする女性キャラはいても、(一部の)女性ウケする男性キャラがいないのよ。古来よりやおい的要素を含んだキャラのいる作品はヒットするという統計(サントスの独自調査)も出てるくらいよ。幽○白書の蔵○、ハンター○ハンターのク○ピカなど、数え上げればキリがないわ」
ヤン
「二つとも作者同じじゃないか……」
サントス
「そこは大した問題じゃないわ。そしてこの作品のやおい要素を増やすために彼を呼んだのよ」
「カ~シ~ム~」
宗介
「そ、その声は……」
サントス
「ふっ、そうよ。作品中男同士の愛を叫ぶ唯一のキャラクター、その名もガウルン!!!」
ロジャー
「いや………やつの場合ホモとかそういうのとはまたちょっと違うんじゃないかと…………」
ハマー
「そもそも、こいつ原作中で既に死んでるだろ」
カリーニン
「アニメは原作とは似て非なるもの。アニメ中ではまだ死んでいないので問題はない」
クルーゾー
「こいつに協力を請うこと自体屈辱の極みだが、この際贅沢は言ってられん。製作開始まで時間がないからな」
サントス
「彼さえいればサガラ軍曹とのカラミはバッチリよ。これで視聴率は貰ったわ!」
ヤン
「ぜったい違うと思うけどなぁ……」
クルーゾー
「それよりも致命的なのは、この作品にはマスコットキャラがいないことだ。日本が誇る【風の谷のナウシカ】や【魔女の宅急便】などのアニメーションには何かしらのマスコットキャラがつきものだ」
宗介
「失礼ですが中尉、マスコットキャラクターならばすでに存在しますが」
クルーゾー
「それは初耳だな」
宗介
「今ご覧にいれます。これです」
宗介がごそごそとボン太くんの着ぐるみを着てクルーゾーの前に立つ。
クルーゾー
「……軍曹……いったい何の冗談だ?」
宗介(ボン太くん)
「ふもっふ ふもっふ ふも ふも もふっもふっ(ご紹介します。これがこの作品のマスコットキャラ、ボン太くんです)」
クルーゾー
「……いいか、軍曹?確かに外見は可愛いかもしれんがな、所詮中身は貴様だ。私は戦争で疲れた心を癒すためにその手のアニメをよく見るが、そこに出てくるキャラは皆愛らしく心癒されるもの達ばかりだった。それが、よりにもよって貴様だと?硝煙の匂いが漂い、全身から殺気を放つ貴様が図々しくもマスコットキャラだと?ふざけるなよ。これは私への、そして私が愛するすべてのアニメキャラに対する明らかな冒涜だ」
宗介
「ふ…ふも?(ちゅ、中尉?)」
クルーゾー
「上官としての情けだ。せめて苦しまずに逝かせてやろう」
宗介
「………!!」
クルーゾー
「……シネ……」
クルーゾーは跳躍した。
作戦会議室は一瞬にして修羅場と化した。もはや会議もなにもあったものではない。
椅子が宙を舞い、机が蹴り飛ばされ、どさくさに紛れて女性隊員に近寄った部下を投げ飛ばす中国系アメリカ人女性。
無茶苦茶だった。しかもそれまで理性を保って話していた連中も遂にタガが外れて、好き勝手に叫び始めた。
「さっきから言いたかったんだけどな、次回はもっと俺の出番増やせ!」
「待て、その前になによりももっとアレだ。入浴とか着替えとか静香ちゃんなシーンを増やすんだよ!」
「クルツ、おまえいつの間に!?」
「愛してるぜ~、カ~シ~ム~!」
「もう、みんな勝手なことばっかり!少しは私とサガラさんの仲を進展させようとか気のきいたことが言える人はいないんですか!!」
「艦長、いけません。私は断じて許しませんぞ!」
「やおいよ、やおいこそアニメ成功の鍵なのよ!」
「サガラ、どこへ行った!?ジジの仇を討ってくれる!!」
「カ~シ~ム~!」
「次回作は血沸き肉踊る激しいカーチェイス、主人公は僕で!!」
「あー、てめっ、目立たないと思ってたらこんなとこに!!」
「私とサガラさんの二人っきりで旅行に行くお話なんです。そしてそこで二人は……きゃっ、サガラさん」
「か、艦長……。おのれサガラ軍曹!神と女王陛下に誓って貴様を八つ裂きにしてやる!!」
「カ~シ~ム~!」
「ふもっふ ふもっふ ふも(何故俺だけこんなに追われているのだ)」
結局、壮大な喧騒とともにその日の会議は何も決まらないまま終了した。
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後日、再び召集された陸戦隊とその他の隊員達。
カリーニン
「諸君、アニメの長編か短編にするかの件だが、結局○編に決定した」
一同
『なにいぃぃっ!?』
カリーニン
「これは決定事項だ」
ロジャー
「で、では、自分達が必死で議論したあれはいったい……」
カリーニン
「状況とは常に変動するものだ。諸君らも兵士ならば、あらゆる困難に柔軟に対処する術を知っているはずだ」
スペック
「しかしなんだってこんな急に?」
カリーニン
「製作スタッフ達が決めたことだ。我々はその案を呑むことにした。アニメにとって監督は絶対的存在だ。逆らうことは許されん」
クルツ
「だったら最初からこんな話し合いさせるなよ………」
カリーニン
「なお、今回の会議中、西太平洋戦隊全域での仕事の停滞が見られたため溜まった仕事の量が膨大になっている。総員、ただちに持ち場に戻れ。休暇の申請をとっていた者も却下だ」
その場にいた全員が絶望の悲鳴をあげた。
その後の彼らの仕事ぶりは見ていて同情を呼ぶに値するものだった。
電話で必死に仕事の延期を妻に詫びる偵察小隊の隊長。
激務のため神経性胃炎などで倒れた隊員達の治療にあけくれる救護班の某大尉。
机にしがみ付いて娘の写真を見て泣きながらデスクワークをこなす初期対応班の軍曹。
部下達の涙が滲んだ報告書を眺めながら、今は亡き妻の手料理に思いを馳せる陸戦隊指揮官。
その日から数日の間、メリダ島では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた。
おわり
あとがき
ドラマガ9月号で3回目のアニメ化を知ったときに思いついて、1~2時間くらいで書き上げたものです。速攻で書いたので文章が粗いっすw
一応エヴァの【ドラマ「終局の続き」(仮題)】のパロディのつもりです。座談会は書くのが楽でいいですねぇ(マテ