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2014.02.20 10:55

Change 第3話 by 祀汰ユーの助(みかど)

 ――――― 事の始まりはすべて、宗介が遅刻してきたことから始まる。

―――――― 放課後。

 かなめは真っ直ぐに家には帰らず、宗介を連れて昨日の商店街へと歩いていた。
「………」
 駅から商店街に向う途中の歩道、かなめはちらりと横目で隣にいる宗介を見る。
さっきからから何度も髪をいじっている宗介。あの昼間に白菜になってしまった髪は、今はだいぶ落ち着いてハリネズミ程度になっていた。しかし、宗介的には昼間の時の方が良かったらしく、何度も逆立てようと髪を触っている様子。
 別に、普通の高校男児ならばおしゃれに気を使うのはおかしな事ではないが、そんな宗介の姿はかなめにはとても新鮮に映った。
(こんなに気にいるなんて、またやってあげてもいいかもっ)
 最近は宗介に一般の高校生としての楽しみ(常識ともいう)を教えることが、かなめにとっての楽しみにもなりつつある。今までは流行の音楽なんかを聞かせていたが、次はおしゃれに目覚めさせてやろう。かなめはまるでテレビでやっているような『彼氏改造計画』をしているような気分で、ぷっと吹き出した。
「どうした千鳥。何かおかしいか?」
「何でもないわよ」
 笑って誤魔化し、かなめは少しだけ宗介より前に出た。
「?」
 宗介は怪訝な顔をして首を傾げた。しかし、それがまたかなめにはツボになってしまう。
 ププっと笑いながら、かなめは前を向いた姿勢で、宗介に話かけた。
「ねえソースケ。今度あんたの服でも買いにでも行こっか」
「軍用品でも必要なのか?」
「そうじゃないわよ。軍服じゃなくて、普通の服」
 まったく、と眉をしかめながらかなめは言った。すると宗介はきょとんと目を瞬かせる。
「たまにはまともな服、着なさいよね」
「あ、ああ」
 戸惑いながら頷く宗介。だがまともな服、の意味がわからなくて頷いてブツブツと独り言を呟き出す。心の中で微笑して、かなめは少しだけ足取りを軽く道を歩いていった。

 あれが似あうかも、これも似あうかも、と色々と考えているうちに目的地である商店街の入り口に辿りつく。またあの時計台の前までくると、かなめは足を止めた。
 つい昨日この商店街にきたのにまたこの商店街にやって来た理由は、買い忘れてしまった品があったためだ。どうしても今日中に手に入れたいためやってきたのだが、もしかしたらあの人物に出会えるかもしれない。
(まあ、そう簡単に会えるとは思ってないけど……)
 会えたらめっけもんかな?と、かなめは一人頷く。すると、そんなかなめに宗介が問いかけた。
「千鳥、買い物はどこの店でするんだ?」
「すぐそこの雑貨屋さんよ。何かソースケも買いたい物があるの?」
「いや、そういうわけではないが。何故ここで止まるかと思ってな」
「それはソースケ、あんたにここで荷物見てて欲しいからよ。すぐに買って来るからここで待ってて」
 かなめはそう言って、宗介に持っていたカバンと運動着の入ったリュックを渡した。
 フムと頷く宗介。しかし、口がいつもよりヘの字に曲がっている。置いてけぼりにされるのが少し寂しいらしい。
 口には出さずともその表情で分かっているが、向う先は女の子ばかりの雑貨屋さん。可愛い下着なんかも置いてあって、宗介を連れていくのには気が引けてしまうのだ。
 すぐに戻ってからと手を振って、かなめは宗介を置いてすぐ近くの雑貨屋へと入った。
 ぽつんと宗介は一人その場に残されるのだった。

「えーと……あ、あったあった」
 棚の隅でお目当てのものを見つけ、かなめはフックにかかっているそれを取った。

 買い忘れていた物とは、身体を洗うためのボディーブラシ。天然素材でできた柔らかめのボディーブラシは、恭子に勧められて使うようになってからというもの、これで身体をこすらない日にはお風呂に入った気がしない。
 これで今晩は気持ちよくお風呂に入れる。かなめはお気に入りのボディーブラシを握り締め、そのままレジに向った。

「1200円になります」
 カウンターのお姉さんに言われ、かなめは財布の中から千円札を二枚差し出した。
会計が行われる間、かなめは少し考えてから苦笑気味にお姉さんに尋ねた。
「あのー、変なこと訊くんですけど。ここによく歌手って来ます?」
「歌手?さあ、あんまり聞かないわね」
「そうですか。変なこと訊いてすみません」
「いいえ」
 にこりと微笑むお姉さんから買った袋を受け取るかなめ。と、その時だった。いきなり外から大きな怒声が響いてきた。
「ケンカかな?」
 ここの商店街は治安が良いことで有名なのにな、と思いながら店を出るかなめ。
 それから袋を揺らしながら宗介を待たせている時計台の方へと足早に戻る。するとその宗介が待っている時計台を囲むように、大勢の人だかりが出来ていたのだった。

 やはり何か事件があったらしい。
「あいつ大丈夫かなっ」
 ケンカなんかに巻き込まれてなければいいけれど。いや、別に宗介がどうこうというわけではなく、相手がただじゃすまないという意味だ。
 何か嫌な予感がして、かなめはすぐに人だかりの中へと入って行った。
「ごめんなさい、すみません…」
 ずいずいと人だかりを縫って行って、やっと時計台の根元が見えてきた。そして次の瞬間、かなめはあんぐりと口を開いた。
 時計台の前では確かに事件は起きていた。だが殴りあいのケンカでもなければ、ひったくり事件でもない。よーく見覚えのある男子が、一人の男を捕まえて腕をねじ上げているのだ。
 もちろんねじ上げている男子とは、宗介だ。
「あのバカっ!」
 サーと血の気が引いたかなめは、すぐさま声を張り上げた。
「何やってるのよソースケ!」
「ああ、千鳥。安心しろ、なんでもない」
 男に関節技を決めながら、平然と答える宗介。決められている男はヒーと悲鳴を上げている。これのどこが『なんでもない』だ。
 かなめは続けて叫んだ。
「何でもないわけないでしょ!その人があんたに何をしたっていうのよ!」
「どうやらスパイのようなんだ」
「はあ?」
「こいつの顔を見ろ」
 宗介はそういうと関節技をかけながら、乱暴に男の髪の毛を掴み顔を上げさせた。

 突き上げられた顔を見て、かなめはぎょっと目を剥く。
「俺にそっくりだろ」
 男の顔は確かに宗介そのものだった。生き別れの双子が運命の再会を果たした、と言いたいぐらい宗介と瓜二つ。

 しかしそれは……

「きっとどこかの諜報部員だ。俺に変装して千鳥を狙っていたらしい。だが本人に見つかるなんぞ、間抜けな奴だな。覚悟しろ」
 フン!と得意げに鼻息をつく宗介。しかし、そんな宗介に対して、かなめが静かな声で呟いた。
「……その人を離しなさい」
「何故だ」
 危険な輩だぞ?と首をかしげる宗介に、かなめは低い声で、淡々と、かつ背中から地獄の番犬を従えさせながら、もう一度言う。
「いいからその人を離しなさい。今すぐ離しなさい。離せったら離しなさい」
「しかし……」
「離せったら離せぇえ!!」
 かなめの怒りが頂点に達した。その怒りに満ちた顔と声に圧倒された宗介は、ぱっとその手を離してしまう。
 開放された男は、そのまま地面に倒れた。
「大丈夫ですか!」
「いてててっ……」
 地面に伏せる男に、慌てて駆け寄るかなめ。そんなかなめの態度に、宗介は目を丸くした。
「知り合い……か?」
「馬鹿!今日言ってたでしょうが!あんたにそっくりな人とここで会ったって!それがこの人よ!」
「なにっ」
「この大馬鹿モンが!」
 かなめの握りこぶしが宗介の頭を殴りつけた。ゴン、と鈍い音が一発。
 痛い、と小さく啼く宗介。しかし、かなめはそんな宗介を突き飛ばし、すぐに倒れている男の顔を覗きこんだ。
「大丈夫ですか!」
「な、なんとか……」
 すると、そう言って男はゆっくりと起き上がった。顔は引きつっているが、特に怪我をしてはないようだ。
 良かった、と安堵の溜め息をつくかなめ。しかし、本当の問題はそれからだった。

「キャー!」
 突然、人だかりの中から黄色い声が上がる。
「よう様よー!」
 一人の女子高生が上げた言葉に、周りにいた他の女子高生の視線が一斉にかなめたちに向けられた。
「なに!よう様!?」
「本物なの!?」
 一部の女子高生が騒ぎ出す。その言葉に、周りもざわつき始めた。今は調度下校時刻。駅までの通り道でもある商店街にはたくさんの女子高生がいる。その女子高生たちが、どっと騒ぎ出した。
「サイン下さい!」
「握手して!」
「写真!写真!」
 次の瞬間には、女子高生が群れとなって三人に押し寄せてきた。
「ちょ、ちょっと!」
 どっと女子高生が押し寄せてくる。しかし周りには多くの人だかりがあって逃げ場は無い。すると、一人の女子高生の鞄がかなめの腰を強く打った。その勢いにかなめは体勢を崩す。
「きゃっ!」
「千鳥!」
 まずい!ここで転べば、間違いなく押し寄せる人間の下敷きになってしまう!慌てて手を差し伸ばす宗介。

 が、次の瞬間―――――宗介の手が届くよりも先に、かなめの傍にいた男の手がしっかりとかなめの身体を支えた。
「……大丈夫ですか?」
 しっかりと腰と肩を掴まれて、真摯な顔で見つめられる。宗介に似ているのもあるが、その真っ直ぐな瞳に、かなめの頬が赤く染まった。
「は、はい……」
 ほぉーと、かなめから溜め息にも似た熱い息が漏れる。その様子を見て、宗介はビタリと硬直した。
 千鳥が無事だったのだ、別に何も問題はない。だが何かが胸にグサリと突き刺さる。宗介のこめかみがひくりと震える。
 しかし、そんな宗介を他所に見詰め合う男とかなめ。
「ここは危険です。今はとりあえず逃げましょう」
「は、はいっ」
 男に言われ、かなめは戸惑いながらもコクリと頷く。するとすぐに男はかなめの手を引いて人の壁へと突っ込んだ。強引に人垣を掻き分け進んで行く二人。
「千鳥!」
 一歩出遅れてしまった宗介。走っていく二人に慌てて続く。

 商店街を駆け出す三人の背には、いつまでも黄色い声が聞こえていた―――――――

 

 

 まだまだ続く♪

 

 


あとがき

 長らーくお待たせしてしまってすみませんでしたm(_ _)m やっと再開です。なんか場違いオーラだしまくりの祀汰の小説ですが、これから本筋に入って行くので、できれば最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです。長いです。ごめんなさい。
でも頑張って書きます!

 さりらさんもup大変だと思いますが、よろしくお願いします(>o<)

                        祀汰ユーの助(こと、みかどパンダ)

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