恋の協奏曲(コンチェルト) 第1話 by 東方不敗
あたしは今目の前にいる人物を凝視しながら、一度、深く、息を吸った。そして、吐く。
……今日の朝は、ソースケとあたしの分のお弁当を作って自分はトーストとロシアンティーを飲んだ。そんでもってソースケはトーストとブラックのコーヒー。ゆっくり食べてたら時間がなくなって走って学校まで登校して、ソースケが今日壊したのは窓ガラス一枚と蛍光灯。それの説教にあたしと神楽坂先生が付き合って相変わらずだって自己確認して泣きそうになって……
よし、大丈夫。別に、いかれたわけじゃない。
あたしは注意深く目の前に座ってる人――林水センパイに視線を移すと、ゆっくりと、いった。
「……ええっと、もう一回、いってくれません?」
「生徒会のメンバーで有志バンドを行う事になった、と言ったのだよ、千鳥君」
やっぱり聞こえてきた言葉は一緒だった。
「どーいうことですかっ!?」
どかんっ! とあたしは怒りに任せてテーブルを叩きながらセンパイに問い詰めた。後ろでびくっ! と何人かの人達が体をすくめてたけどそんな事気になんかしてらんない。冗談じゃない、なんでバンドなんか、しかもよりによってこのメンバーでやらなきゃいけないんだ。
「ふむ……まあ落ちつきたまえ千鳥くん。君が落ちつかなければ話はできんよ」
「この状況で、どこを、どーやって、どーすれば落ちついてられるんですかっ、あんたわー!?」
「やれやれ……まあ、この書類を見たまえ」
ばしっ!
センパイが差し出してきたマニラ封筒を半ばひったくるように受け取る。中には、数枚の明細書が入ってた。消火器代8万6000円、窓ガラス代三枚12万5000円、焼け落ちかけた西校舎の一階の修理費20万7000円――――
総額で約50万円近くまで登っていた。
「な、なんですか、これは……」
半分頬をひくひくさせながら聞く。だけど、大体は見当はつく。だいたいこの焼け落ちかけた一階ってのは知ってる。
「ふむ……君も少しは知っていると思うが、それは職員室から回されてきた今月の修理費だ。約50万……決して安い数字ではなかろう。君も知っていると思うが、この修理費の大半はある人物に責任がある」
「ええ、そうでしょーね。最も今はいませんけど」
恐らく今ごろ職員室でこってり説教でも受けてるんじゃないかと思われる戦争バカの顔を思い出しながらいう。
「さて、この職員側から来た請求書、どう処理すべきかということでC会計から出そうと思ったのだが……、ちょうど良いところにいい企画が舞いこんできた」
「……バンド、ですか?」
「そう。毎年行われているバンドコンテストだ。君も知っているとは思うが……。今年はなにがあったのか、賞金が出るらしい。……いくらだとおもうかね?」
眼鏡の縁をくいっと上げながら人のワルそうに聞いてくる。いつもの屁理屈の合図だ。
「……まさか、50万ぴったりとか、いうんじゃないんでしょうね?」
「ハズレだ。正解は、100万」
「ぶっ!?」
「全くもって酔狂な物だ。なんでも毎回支持してくれていたスポンサーが今年で潰れる事になったそうでね、それで、どうせだからということで多額の援助を行ってくれたそうだ。まあ、蝋燭の風前の灯というやつだね」
ひゃ、ひゃくまんって、あんた……
あたしが口をぱくぱくさせているとセンパイは椅子からすくっと立ち上がると窓越しに校庭を見つめた。そして、
「さて、これには生徒会も出場する事が決定している。生徒会の部員のみの有志バンドだ。なおメンバーの選定などは私の片腕である君に一任する」
「片腕じゃなくて副会長ですってば」
「些細な事は気にしてはいけないよ。千鳥君」
くるっと振り返る。そしてにやりと、すっごく悪人っぽく笑いながら、
「というわけで、やってくれるね?」
すでに聞き方が疑問系ではなかった。
「いえ、でも、あたしこういうのはちょっと……」
「……なお優勝した場合その半分の50万は生徒会の出場者の報酬となる」
「やります」
あたしは即答した。
「……にしてもねぇ……。バンドかぁ……」
あたしは生徒会の一室で書類とじ~っとにらめっこしながらぼやいた。
誰を集めればいい物か。
バンドと言うからにはそれなりのメンバーはいるだろうと思われるし。いやそれ以前に楽器を引ける奴がいるんだろうか……?
ええと、生徒会のメンバーって、たしか、あたし、ソースケ、お蓮さん、センパイ、岡田君、ええと、他には……
指折りしながら数えてく。
さてこの中で一体何人ぐらいが楽器を弾けるのか……?
それに、ヴォーカルの心配もある。まさか、お蓮さんにやらせるわけにもいかないだろう。あの人がやったら多分演歌かなにかになってしまう。
「う~……。それ以前に人数がたんないんじゃないのかなぁ……?」
う~、どうすりゃいいのよ……
「あの、千鳥さん?」
声がした。驚いて顔を上げるとお蓮さんがほけっとした顔で立っている。
「あ、お、お蓮さん、どしたの?」
「いえ……何か、ものすごい般若のような形相をして唸ってるものですから……なにか、悩み事ですか?」
「……なんか、びみょーに気になる節があったけど、うん、まあ、悩み事ね」
横目でじと~っとお蓮さんの方を見ながら言う。
「まあ……。あの、私では、お手伝いできないでしょうか……?」
「う~ん……お蓮さん、今年のバンドコンテストのことって、知ってる?」
「はい、存じています」
にっこりとほほ笑みながら言う。こうやってみるとなんだかすっごくお蓮さんが綺麗に見える。笑顔が似合うのかな?
「なんでも今年は賞金がでるとか……。林水先輩から聞かされましたけど、それが、どうかしたんですか……?」
「いや、ちょっとメンバー決めで戸惑っててね……。お蓮さん、楽器とか弾ける?」
「はい、三味線と琴が弾けますよ。あ、ちなみに弾き方は美樹原流で、元来伝えられてる弾き方です」
やっぱり思ったとおりだった。
「あの、ダメなのでしょうか……?」
あたしが頭を抱えてる横で不思議そうに聞いてくる。
「うん、ちょっと、てゆーか、結構……。だって、バンドで三味線は……ねえ?」
吉田兄弟じゃないんだから。
「はあ、そうなんですか……。あ、それなら、きーぼーどがひけます」
ぽんっと手を打って嬉しそうに言って来る。
「………………はい?」
あたしが返答するまでたっぷり10秒ぐらい間があった。
「ええと、一度お父様が倉庫の中から引っ張り出してきた物を弾いた事がありまして。大体なら、弾けますけど……」
しどろもどろになりながらお蓮さん。あたしは言われてお蓮さんがノリノリでキーボードをきゅいんきゅいん演奏してる場面を思い浮かべてみる。
…………
豪快に変だった。
「あの……お蓮さん、マジで、言ってるの?」
「ええ、マジですけど」
「ほ、ほんと? 別に過労でつかれてて幻聴が聞こえるとか、ありもしないものが見えたりたり、自分が誰なのかわからなくなってるだけじゃなくて?」
「あの……、いえ、あの、そう……だと、思いますけど」
「……むう……」
どうしよう。まさか、お蓮さんがキーボードを弾けるなんて。いやそりゃあ三味線とか琴を弾けるって言われてもそんな驚きはしなかっただろうけど、まさかキーボードを、お蓮さんが、お蓮さんが、お蓮さんが……
「……あの、千鳥さん……?」
「……へ?」
言われて意識が戻る。ああ、ちょっと考えこみすぎたかしら。
「私でよければ……お手伝い、しますが……」
控えめにおずおずと言ってくる。
「……う~ん……」
そうだ。別に誰がどんな楽器をひこうと、問題はないんだ。別にどんな意外だろうと、まあ長い人生ある事だし。それにもしかしたらお蓮さんの家じゃ三味線や琴をキーボードっていうのかもしれないし。うんそうだ、そうに決まってる。
「……うん。それじゃ、お願いしよっか」
「はい、お願いされましょう」
お連さんはぺこりと頭を一度下げるとにっこりと笑った。
「や、やだなあ、そんな頭なんか下げられても」
「いいえ、私がしたいんですから。……それで、千鳥さん?」
「ん?」
「練習とかは、いつやるんでしょうか?」
「え?……ん~。まだ、メンバーもそろってないから……そろったらまた言うわ」
「はい。わかりました」
笑いながらうなづくと踵を返すお蓮さん、と、何か思い出したように振り返ると、
「ああ、そういえば、林水先輩もサックスを吹けるとおっしゃっていましたよ」
「……へ?」
「それと岡田さんもドラムが弾けるそうですけど」
「あ、そうなの……。そんじゃ、誘っとこうかしら」
「はい。よろしくお願いします」
そう言ってにっこりとほほ笑むとお連さんは生徒会室を出ていった。いや、また何かを思い出したのか、今度はしずしずとあたしの方に近寄ってくると、きょろきょろとあたりを見回してから耳打ちするように、
「そういえば、千鳥さんって、相良さんと同棲なさってるそうですね」
次の瞬間あたしは顔が一気に熱くなるのを感じた。
何でその事を……! って聞きたくなる衝動を必死にこらえる。そして、できるだけ、冷静に勤めて、
「へ? え、えっと、あ、あの、その、な、なんのことかしら、うは、うははは……」
全然冷静じゃなかった。
おまけに『うははは』の声が裏返ってた。
「知ってるんですよ」
にこにこしながらお蓮さん。どうやらごまかすのは無理みたいだ。
「……他の人には、絶対言わないでよね。なんだかんだ言われてからかわれるの目に見えてるんだから」
あたしもお蓮さんに耳打ちするように言う。
「ええ、大丈夫ですよ。それに、知ってるのは私と林水先輩だけです」
「でも、一体どこで知ったのよ?」
「ええ、まあ、いろいろと。にしても、羨ましいですね」
「……へ?」
「同棲できるまで二人の仲が発展したんでしょう? それは、羨ましいです」
「ち、違うわよっ、そ、それは、あの、その、あ、あいつが、言うから、仕方なく、あ、うー……」
わたわたと慌てながら必死に弁解する、うう、なんか顔が熱いし……
「ふふっ、なんだか千鳥さん千鳥さんじゃないみたいですね」
「だ、だから、その……」
「……私も、いつか……」
「……へ?」
「いいえ、なんでもないんです。それでは、相良さんは、きっとまだ職員室ですから。放って帰らないようにした方がいいですよ」
「だ、だからっ、それは……!」
「それでは」
今度こそ部屋を出てくお蓮さん、ううっ、一体どこで知ったのよ……?
にしても、なんかさっきのお蓮さん顔が赤くなってた気がしたんだけどな……
と、不意に生徒会の鏡に自分の姿が映る。
顔がトマトみたいに真っ赤だった。
ううっ、なんでこうなるのよ……
まだ熱い頬を触りながら顔をしかめる。
結局、あたしの顔が元に戻るまでは10分近くかかってしまった。
続く
あとがき
どうも、皆さん初めまして~、東方不敗です。
とゆーことで、今回のお話は生徒会の面々でバンドです。前々から書こう書こうって思ってたんですけど、やっと実現しました。
なおこのお話は大体全5~6話ぐらいになると思います。とどのつまりそれまでこのホームページでお世話になるということで……
あう、すいません。さりらさん、そう言うわけでしばらくお願いします。
それでは~。あと、次回からラブが入りますよ♪
★…さりら’s感想…★
東方不敗さま、ありがとうございました♪
とりあえず挿絵をなんとかアップー。ふぅ。疲れた。
お蓮さん初描き、どんなもんでしょう。わたし的にはまぁまぁってところですかね。
いやーっ、同棲だって、同棲!もービックリ!なんてツボを突きまくる展開なんでしょーっ!!
続きが気になりますー。
東方不敗さん、がんばって書いてくださいっ!