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2014.02.20 10:17

恋の協奏曲(コンチェルト) 第2話 by 東方不敗

「とまー、そーいうことがあってねー」

いつもの商店街の帰り道。

あたしは隣を歩いているソースケに事の顛末を説明しながら帰り道を歩いていた。

そろそろ夕焼けの時刻。街もそろそろ赤く染まり始めていた。

「で、ソースケ、あんた楽器とか弾ける?」

たいして期待してないで聞いてみる。

「無理だ」

なんでか妙に偉そうに言う。

「……あっそ、まー、期待はしてなかったけど」

「すまない。敵地の偵察や奇襲任務なら力になれるのだが……」

「どこの学校がバンドコンテストで敵地に奇襲行ったり偵察したりすんのよ……?」

「やらないのか?」

「やらないわよっ! きっぱりとっ!」

「知らなかった」

「知ってなさいっ! てゆーかその位一般常識よっ!」

「そうなのか」

「そうなの……。で、メンバーだけどさ、どしたもんかね……」

「……バンドとは、どういう楽器が弾ければ良いのだ?」

「んー、さあねー。そりゃあ、まちまちだけど、普通はギターとかキーボードとかドラムとか、あとちょっと渋いのならサックスもあるし」

「……かなめ」

「ん?」

言われてソースケの顔を見る。そういえばソースケがあたしの事を下の名前で呼んでくれるようになったのは随分最近からだ。やっぱり男の子に下の名前でよばれるとなんだか照れくさいけど、それ以上に嬉しさがある。

「ギター……とは、もしかして、こう、形が細長くてこれくらいの大きさの楽器の事か?」

ソースケが両手を広げて形を示してみせる。

「あー、そーよ。って、なんで知ってんのよ?」

「それなら、弾ける」

…………

「…………嘘?」

今度は返事するまで一分ぐらいかかったかもしれない。

だって、ソースケが、楽器だなんて。そんな、あたしは絶対弾けないと思ってて大道具係に回そうって算段までしてたのに。そんな、ソースケが、楽器だなんて。楽器だなんて、楽器だなんて……(エコー)

「……なめ……。……かなめ?」

「……はっ?」

意識が戻る。と、ソースケがあたしの事をじ~っと心配そうに、というか変な生き物でも見つけたかのような目で見つめてる。

ううっ、そんなじろじろ見ないでよ。

「……熱でもあるのか?」

「な、なんでそうなるのよっ!?」

「いや、急に君がぶつぶつと何かに取りつかれたように考えこんだので……。つかれてるのか?」

「……っなわけないでしょ、ただ、ちょっと意外だったから……」

「意外。何がだ?」

「そ、それは……」

言葉に詰まる。なんだか言うとソースケが傷つきそうな気がしたからだ。

「かなめ。説明してくれないか。何が意外だったのだ?」

「な、なんでもないわよっ」

ぷいっとそっぽを向こうとする。と、肩をがっしと捕まれる。

「……え?」

ぐるんと体が90度展開。ソースケがあたしの肩をつかんでじ~っと見つめてた。

「かなめ。具体的な説明をしてくれ。何が意外だった? 俺は何を聞き逃していたのだ?」

「や、やだな……そんなマジになんなくたって。大した事無いんだから。ね、だから、放してって」

「いいや。作戦内容を聞き逃したりするのはどんな些細な事だろうと任務の失敗に繋がる。それは日常生活でも言える事だ。俺は、どんな事を聞き逃した?」

じ~っと、ソースケがあたしの事を見つめながら言って来る。肩を捕まれてるから逃げる事も出来ない。うう、なんか恥ずかしいし……

『同棲できるまで二人の仲が発展したんでしょう? それは、羨ましいです』

不意に、お蓮さんの言葉が頭をよぎる。

同棲。仲が発展。恋人同士。

ち、違う違う違うっ! アレはソースケがマンション追い出されたからで、だから、その、で、でも告白したんだよな。で、でも、だけど、その……

か~っと顔が熱くなってくのを感じて、うつむこうとする。

「……かなめ? どうした、顔が赤いぞ」

「な、なんでもないわよっ、だ、だから、その、放して……」

最後の方はかすれるような声だった。

「何故だ。それに何故うつむいている。顔を上げてくれ」

「む、無理……」

だって、今顔を上げたら絶対顔が真っ赤だって事がばれる。

「……何故だ?」

「ご、ごめん……」

意味も無いのにあやまってしまう。

「……あやまられても、困る。顔を上げてくれ」

と、ソースケが半ば強引にあたしのあごを押し上げた。あ、やば……

「……顔が真っ赤だぞ」

心配そうな声。心配してくれるのは嬉しいけど。

今は恥かしさが先に立ってる。

「……う、うん……」

「風邪でもあるのか? それに、いつもの覇気が無いぞ」

いつものってどーいう覇気よ。

思わず突っ込みたくなる衝動に駆られながらも顔を伏せようとする。だめだ。今ソースケの顔見てたらなんだか恥ずかしくてどうにかなっちゃいそうだ。

その顔を、そっと止められる。あごをくいっと上げられる。

な、なんかこれって、き、きすしーん……

「かなめ……。やはり君は、熱でもあるんじゃないのか?」

ソースケの顔が目の前にアップで映る。思わず唇に意識がいっちゃいそうになる。

「な、なんでもないってば。風邪じゃないから。すぐに治るわよ」

「ダメだ。病人はみなそう言う」

「だ、だから……」

「……少し、じっとしてろ」

そう言うとソースケがあたしに顔を近づけてくる。って、ええ!?

「そ、ソースケ!? あ、あ、あんたなにを……?」

「じっとしてろ」

「ちょ、ちょっとソースケ。ここ往来のど真ん中よ。するんならもうちょっと人目を選んで……」

答えは無い。だんだんと、ソースケの顔が近づいてくる。

ううっ、めちゃくちゃ恥ずかしい……

あたしはぎゅっと瞳を閉じる。そして……

おでこに、こつんと当たる感触。

……あれ?

目を開けるとソースケが相変わらずのむっつり顔であたしの額に自分の額を重ねてた。

「……熱は、無いみたいだな」

「ないわよ、そりゃ」

半分呆れながら言う。なんか、おろおろしてたあたしがバカみたい……

「ったく。熱計るんならそう言いなさいよ。紛らわしいんだから、あたしはてっきりキスでも――」

「キス?」

はっと気付いて、口をふさぐ。でもやっぱり聞こえたみたいでソースケが不思議そうにあたしの事を見てた。

「キスがしたいのか?」

「ぶっ!」

思わず噴き出してしまう。な、何言ってんだコイツはっ!?

「なっ、なっ、なわけないでしょーがっ! いくらあたしとあんたが……」

「では、したくないのか」

「え?……い、いや、その、そういうわけじゃ、ないん、だけど……。でも、その、やっぱ、人の目とかあるし……」

「とどのつまり、したいのか?」

「え、えっと、それは、その、う~……」

どうしよう。困った。こんなときはどう答えたら良いんだろう。『したくない』って言ったら嘘になるし。だからといって、う~、えっと……

「……かなめ?」

「……えっと、う、うん……多分」

何でこう言っちゃったんだろうな。

もしかしたら、この時はまだソースケに対する悪い気持ちが残ってたからもしんない。

「そうか」

ソースケはひとしきりうなづくとそっとあたしの頬を優しくつかんだ。そして――って、

「ちょ、ちょっとソースケ!?」

あたしは半分パニくりながらソースケに聞いた。

「どうした? キスをしたいんじゃないのか?」

「そ、そーいったけど、ほら、ここは人の目とかあるでしょ? ね? だ、だからその――」

「俺は気にしないが」

『あたしは気にするの』って言おうとしたんだけど、できなかった。

だって、その、ソースケが、急に、キスしてきたから……

長い。長い、時間。

まるで、時間が止まったような感じ。

…………

多分、ソースケが唇を放してくれたのは、5秒ぐらい経ってからだとおもう。

その瞬間あたしはへにゃっとソースケの胸にすがりついてしまった。

「……かなめ?」

「……うー。バカ……人目ぐらい考えなさいよ……」

顔を真っ赤にして胸に顔を埋めながら、なんとかそうとだけ言う。

「…………」

「……バカ、ホントに、恥ずかしかったんだから……。ばか、ばか、ばか……」

力なくぽかぽかとソースケの胸を叩く。困ったよな声が頭上から聞こえる。

「……そうか」

「……顔、熱い」

「風邪か?」

「……違うわよ。恥ずかしいからよ……」

「……?」

「……どうせ、わかんないんでしょ……。あんた、バカだもん……」

「……むう」

「……あんたって、いつもそうよね。鈍感で、戦争バカで、学習機能無くて、いっつもあたしに迷惑かけて……」

「すまないとは、思ってる」

「…………。でも、それがソースケなんだろうな……」

「……かなめ?」

「……ううん、なんでも、ない……」

急に、意識が薄れてきた。なんだか、まぶたが重い。さっきすごく恥かしい目にあったから、つかれたの、かな……

でも……

嫌じゃ、なかったな……

まだ唇に残ってる感触に、少し嬉しい気分になりながら、あたしは意識をまどろわせていった。

「……かなめ?……寝てしまったのか?」

……誰かの声が聞こえる……

「……すまないな。俺は確かに、いつも君に迷惑ばかりかけている」

……愛しい人の声。

「……でも、俺は……」

……大好きな人の声。

「君に迷惑をかけても、一緒にいたいと思ってる」

……でも、いつも素直になれない自分がそばにいる。

「……君は、俺の側にいてくれるのか……?」

……だけど、ホントは……

……不安げな声。

……夢、かな……

……それなら、少しは素直になってもいいかな……

いつもは、こんなこと、言えないから……

「……うん……」

「……っ!?」

誰かが息を飲むような声が聞こえた。

「ずっと、一緒にいてあげるわよ……何年、何十年、どんな月日がたっても……」

……あたしは、ずっとあんたの隣にいてあげる……

ゆっくりと。

静かに、あたしの意識は完全にまどろみの世界の中に落ちていった。

最後に誰かがほほ笑んだような気がした。

顔は、よく覚えてない。

でも。

とても安心できる人の顔だったような気がする。

続く


あとがき

ああ背筋がかゆいよかゆくてたまんない東方不敗です。

にしても、まさか商店街を歩くとこだけで1話潰れるなんて……

もしかしたらもっと長くなるのかも……

あはは~、ごめんなさいさりらさん~(^^ゞ。

にしても、あぅ、出来が……イマイチです。

もしかしたら加筆修正するかもしれません。うう、やっぱり初々しさを出すのって難しいです。

とことんらぶらぶにするのは得意かもしれませんけどね(^^ゞ。


★…さりら’s感想…★
うあぁぁっ、背筋が背筋が背筋がぁぁぁっ!(笑)
もー1人でキャーキャー叫びながら読まさせていただきました。
しょーてんがいで何やってんだか、この2人は。(^^;
2人の生活も気になるけど、バンドの行方も気になりますね。
でもこれで出来がイマイチなのですか??ぜんぜんいいと思うのにー。ね。

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