恋の協奏曲(コンチェルト) 第5話 by 東方不敗
……ちゅん……ちゅんちゅん……
「てゆーわけで、メンバーがそろったんだけど」
あたしは音楽室の中にいるメンバーをぐるっと見まわした。
「とりあえず、メンバーと役割確認しましょうか。右端からぐるっと行くから。岡田くんからね」
右端であぐらをかきながらあたしの事を見てた岡田くんにぴっと指を向ける。
「おう、岡田隼人。ドラム担当だ。はい次、お蓮さん」
「ええ、美樹原蓮、キーボード担当です。よろしくお願いします。……それでは、相良さん」
「相良宗介。ギター担当だ。……会長閣下」
「うむ、林水敦信。サックス担当だ。……千鳥くん」
「はい。千鳥かなめ。なんでかヴォーカル担当です……」
うう……なんであたしがヴォーカルやんなきゃなんないのよ。
と心の中で嘆いても答えは出ない。いや、まあ出てるって言えば出てるんだけど……。
林水センパイ。
なんでかあの人はあたしとソースケが一緒に住んでる事を知ってる。昼休みにソースケと呼び出されたかと思うとそのネタで脅されたのだ。というわけでなんでかあたしがヴォーカル担当。先輩は『千鳥くんなら信頼できるだけの力があるからね』とかなんとか言ってたけど、正直あんまり嬉しくないぞ。
まあ、嘆いててもしょうがないんだけどね……っつーわけで、頭を切り替えましょう。ぱっぱと。
うーん……にしても。
なんかこれって普通のバンドにはなりそうにないわね。
大体キーボードとサックスが一緒だなんて聞いたことないわよ。
「さてと……それで、やる曲なんだけど。……センパイ?」
「うむ……。僭越ながら演奏する曲は私が選ばせてもらった。演奏する事ができるのは与えられる時間から考えて二曲が限界だ。その中で曲の出来具合によって採点される。さて……それで、演奏する曲だが、まず一曲目には『tomorrow』、ホップス調の軽い曲だ。二曲目には、『枯れない花』。どちらも曲の出来としては標準より少し上といったところだ。まあ演奏する分には問題ないだろう」
そうしめくくってセンパイがちらっとあたしに視線を向けた。はいはい……っと。
「さてと、それじゃまずはそれぞれ担当する分のメロディを覚えちゃって。曲のテープと演奏する分の楽譜を渡すから。それで……音合わせは二日後か三日後にでも、ってことで」
全員に楽譜と曲のテープ(あたしは歌詞カードも……ええいくそっ)を渡していき全員に……って。
「センパイ……なんでセンパイの楽譜ないんですか?」
あたしはジト目でセンパイのことを見ながら言った。
「……千鳥くん、私は自分が選んだ曲に『サックスは入っていない』といった覚えは一つもないがね」
フツーは言わないだろうが。
喉元まで出かかった声をこらえて、ちょっと頬の辺りをひくつかせながらセンパイに尋ねる。
「ええと……じゃあ、センパイはどーする気ですか?」
「無論、遠くで君達を見ているよ」
「やらんかあっ!」
すぱんっ!
ハリセンでセンパイの頭をはたく。……っは!? あ、あたしったら何を……
「……って、そういえば、ソースケ以外の人にハリセン使ったのなんて、ものすごい久しぶりな気が……」
「……よくはわからないが、とりあえず私は裏方の手伝いとかをしなければいけない。どちらにしろ参加はできないよ」
「そうなんですか……。でも、それならセンパイ言ってくれればよかったのに……」
「言おうと思ったんだがね」
と、そこでくいっとセンパイが眼鏡の縁を上げた。あ、なんかやな予感……
「これいじょう君の機嫌を損ねると私の命も少し危うい気がしたのでね。だから言うのに少し気が引けた。……まあ、そう言う事だ。裏でなら出来る限り君達に協力するつもりだ。では、頑張ってくれたまえ……」
「あ、ちょ、ちょっとセンパイ――」
ばたん。
呼びとめる暇もない。さっと踵を返すと音楽室を出ていってしまった。あー、もうっ……
「……まあ、いいんじゃねーの? どうせ今日はこれで解散だろ?」
「え? う、うん……そうなんだけど。岡田くんは、やってくれるのよね?」
「賞金が欲しいからねー。お蓮さんから聞いたんだけど、50万ぐらい山分けできるんだろ?」
「なんだぁ……知ってたの?」
「もち。じゃなきゃ引き受けねーよ」
「あーあ……。それじゃ取り分減っちゃうわねー」
からかうような口調で言ってやる。
「はっはっは。そりゃ確かに。でもドラムは必要だろ。ほんじゃな」
「うん、じゃーね」
ばたん。
「……ふう。で、お蓮さんは、これからどうする気?」
部屋の隅で楽譜とにらめっこしてたお蓮さんに聞く。お連さんはひょいっと顔を上げると、
「そうですねえ……。私も、特に用事はありませんし……これから帰りますけど……」
いつも通りの口調。でもどこか寂しさを含めたような声だった。
あー、もしかして……
あたしの心の中でちょっとした疑問が生まれる。
もしかしてお蓮さん、センパイと一緒に練習するの楽しみにしてたんじゃないのかなあ……
お蓮さん自身は認めてないけど、お蓮さんは林水センパイに絶対に好意を抱いてる。恥かしいからごまかしてるだけなのかもしれないし、それを自分が気付いてないだけなのかもしれない。
なんせかなり天然だから。
でも、なんとなく……お蓮さんの姿を見てると、罪悪感みたいな感情が生まれてくる。
もしくは、昔のあたしみたいだからっていう、共感か。
「そっか……」
おとがいに手を当ててちょっと考える。たしか……お蓮さん、あたしたちが、その、一緒に住んでるの、知ってるのよねえ……だから……
「あのさ……お蓮さん?」
「はい?」
「よかったらさ……家来て練習しない?」
「かな……千鳥?」
ソースケが驚いたような声をあげる。あたしは振り向いてにっこりとほほ笑むと、
「かなめでいーわよ、ここじゃ事情しってる人しかいないんだから。……で、どう? あたし達も練習は多い人数でやりたいし」
「……でも、ご迷惑では……?」
「そんなことないって。それに、迷惑なら最初っから声かけないわよ」
「……本当ですか?」
「うん、ホント」
お蓮さんはしばらく考えこむような仕草をしていたけど、やがて顔をあげてにっこりと、控えめにほほ笑んで、
「それじゃ、御伺いさせていただきます」
そう言ってぺこりと頭をさげた。なんか、こう改めてされると照れるわね。
「うん、それじゃ、お蓮さん……家は……知ってるよね? あたしん家」
「はい、存じてます。……それじゃ、一度家に帰ってから伺わせていただきます」
「うん……それじゃ、とりあえずまた」
「はい」
「うん……ソースケ?」
むっつりとこっちの事を見てたソースケに声をかける。
「お待たせ、それじゃいこっか」
「ああ」
あたしとソースケは学校を後にした。
学校の帰り道、喫茶店によった。
窓際の4人席に二人で座り、メニューを頼む。ちなみにあたしがチョコパフェでソースケがブレンドコーヒーだった。
「なんかさー、結局あの人にいいようにハメられた気がするのよねー……」
チョコパフェをスプーンですくって口元に運びながらぼやく。
「あの人とは?」
「センパイよセンパイ。林水センパイ」
「……そうか。俺には別に多忙なところをわざわざ時間をけずってまで来てくれてるように見えたが……」
「あんたね……いやまあ、それはそれで一応事実なんだろうけど」
「?」
頭の上で『?』マークを浮かべるソースケ。あーあ、ったくこの男は……
「もう、なんでもないわよ」
ちょっと膨れっ面でそう言ってやる。と、ソースケの左手にまかれている包帯に目がついた。
「ソースケ、それ……」
「ああ、これか……」
あたしの視線に気付いたのか、すっと左手にまかれた包帯を掲げて見せる。
「少し前の任務の時にミスをしてな。なに、かすり傷だ。心配するな」
「うん……わかってるんだけど」
ちらっとソースケの左手に巻かれた包帯を見る。白い包帯。真っ白な包帯が、逆にどこか痛々しい。
ソースケ……大丈夫、だよね……
「ソースケ……」
「む……?」
「大丈夫、だよね……。いなくなったりなんか、しないわよね……」
例えば、あの時みたいに……
良くわかんない殺し屋が来て、あたしの事狙って、でもあんたはいてくれなくて、一人ぼっちで、『問題ない』て言ってくれなくて……
すごく、こわかった……
あんな思い、もう嫌だ。
「ソースケ……」
あの怖い思いでを思い出したからか。
あたしは気付いたら目尻に涙をためながら、こう言っていた。
「いなくなっちゃ、やだよ?」
「ずっと一緒にいてくれなきゃ、あたしあんたのこと好きになれないからね?」
「ずっと、一緒にいてよ?」
自分でも欲張りだって思える言葉。
でも、一緒にいたかった。
いつだって、一緒にいたかった。
「……かなめ」
「……?」
ソースケがそっとあたしの頬をつかんできた。そしてテーブルから身を乗り出して、キスをしてくる。
「ん…………」
「……俺は、いなくなったりなどしない。あんな事をした後だから、信じてくれなどは言えないが……あまり、君のそう言う顔は見たくない」
「……うん……そだね……」
「ああ、元気な方が君らしい」
「そ、だね」
「……ああ」
ソースケ。
信じるわよ、その言葉。
一回だけだけど、特別サービス。
信じてあげるから。
ずっと、あたしの側にいなさいよ。
「ソースケ」
「む?」
ちゅっ。
「ありがと、これはちょっとしたお礼よ」
「……ああ」
「で。家に帰ってみてから気付いたんだけど……」
あたしは目の前のソファーに座ってるソースケに言った。
「夕飯の材料がそういやなくなってるのよ」
「そうか」
「とゆーわけでソースケ、買い出しに行くわよ」
「俺もか」
「もちろんよ、荷物持ちのソースケくん」
「……良く判らないが侮辱されてる気がするぞ」
「気のせいよ。ほらさっさと立つ。今ならもしかしたら商店街開いてる店あるかもしれないんだから」
と。
ぴんぽーん。
インターホンの音がした。
「あれ? お客さん……?」
てけてけと玄関まで歩いていく。扉のロックを開ける前に魚眼レンズを覗くと、ぐんにゃりとひん曲がった良く見知った顔の友達の顔が見えた。
「あれ?……ああ、そういえば」
そういや約束してたわね。
かちゃっと鍵を開ける。そして扉を開けると、
「こんばんわ、千鳥さん」
「うん、こんばんわ、お蓮さん」
なんでかキーボードを背中に背負って家の前に立ってたお蓮さんに挨拶をした。
続く
あとがき
この回になってサックスとキーボードが一緒に演奏してる曲なんてほとんどないことに気がつきました(^^ゞ。ということでこんな展開に。ごめんなさい林水ファンの方々。
とりあえず演奏する曲は無難な線でこの二曲にまとめてみました。最初はKanonの『風のたどり着く場所』とかにしよっかなー、て思ったんですけどやっぱりフルメタFANらしく。それにそんな悪い曲じゃないですしね♪
今回はちょっとしっとり目でしたー。それではー。また次回お会いしましょう。
★…さりら’s感想…★
やっぱしヴォーカルはかなめちゃんだったのですねぇ。
さすが林水先輩、やってくれますなぁ。
曲がアニメ版フルメタのOP/EDだったのはちょっとびっくり。上手いですなぁ東方さん。
そしてなにげに毎回らぶらぶが入ってますねー。
嬉しいようなこそばゆいような(笑)
お蓮さん、最高です。
キーボード背負うなよ(笑)
そのまま商店街を抜けてきたかと思うと爆笑です(^^;