恋の協奏曲(コンチェルト) 第9話 by 東方不敗
「ふあ、あ……。そろそろ出番かしらね」
大きくあくびをして、舞台袖からちらっと舞台の上に視線を移す。
「まだなんじゃねーの?」
「このグループが終われば俺達の番だ」
「このグループが……ってことは、あと6分ぐらいね。ま、どっちにしろもうちょっとあるか」
あたしはくるっと振り返ると舞台衣装に着替えた二人に言った。
ちなみに舞台衣装ってのは、上は半袖の黒のシャツに下は黒のスラックスといった真っ黒な服装。ま、舞台衣装っていうんだからこんなモンでしょ。
「しっかし、やっぱ賞金が出ると随分本格的になるわよねえ……」
本来は体育館のはずの会場に目を移しながらぼやく。急ごしらえのわりにはものすごく良く出来ている。どっから取ってきたのか巨大なスピーカーまであるし。おまけにさっきから演奏してるグループもかなりレベルが高い人ばっかりだし……。あたし達も充分練習はしたけど、少し不安ではある。
「……勝てるかしらね……」
「弱気は禁物だぞ」
「んなことはわかってるけどさ……でも、不安にはなるもんでしょ? ね、お蓮さんだって……」
そこまで言って、気付く。
今まであたしの横にいたはずのお蓮さんの姿がなくなっている事に。
「あれ? お蓮さんは?」
「美樹原なら、林水先輩と一緒にどっか行ったぜ。すぐ戻ってくるとかいってたけど」
「センパイと?」
「んー、そうだけど」
「ちょっと、それって……」
……もしかして、お蓮さん……
「ちょ、ちょっと席外すわよ」
「しかし、千鳥……そろそろ出番だぞ」
「お蓮さん探してくるのよ。いいから、ちゃんと戻ってくるわよ」
「……なら、俺も行く」
「……あっ、そ。まいいけど……。じゃ、岡田くん、ゴメンね」
「お、おい、ちょっと待てよっ! すぐって後5分くらいしかねーぞっ!」
慌てる岡田くんの声を背にあたしとソースケは体育館を後にした。
ほとんどの生徒が体育館に集まっているせいか、外は異様なほどに静かだった。
空を見上げれば、どこまでも青い空が続いている。
静かに――
時折白い雲を交えて――
流れている――
そんな校庭のはしっこ。花びらが舞っている桜の木の下に私はいた。
静かに、大きく鼓動する心臓を抱きしめながら……
「……美樹原くん?」
「……林水、先輩」
震える声で、あの人に向かい合い、言葉を紡ぐ。
「……こんな時間に、こんなところに来て良いのかね? そろそろ出番だが……」
「……聞いて欲しい事が、あるんです……」
「……私にかね?」
「……はい……。あなたに……あなた、だけに……」
「……時間は、大丈夫なのかね?」
「……はい……。大丈夫です……」
「……いいたまえ」
うつむき、きゅっと唇をかむ。
今までの私では、きっといえなかったと思う言葉。
ずっと、心の奥にしまっていた言葉。
でも、今は……
『……すぐになんて言わないけどね。言わなきゃ、後悔するよ、絶対』
…………
言わなきゃ……
後悔、したくないから……
すうっと、息を吸いこみ、顔を上げる。
桜の向こうに、私の事を見つめているあの人の顔が見えた。
そっと、息を吸いこみ、
大事な言葉を、紡ぐ。
「……私は、あなたのことが、好きです……」
「……ずっと、前から……」
「……大好きだったんです……」
「……あなたが……もう卒業してしまうのもわかっています……」
「……でも……」
「……私は、あなたと一緒にいたいです……」
「……一緒に、いてください……」
「……ただの友達じゃなく……恋人として……」
「……そばに、置いてください……」
…………
しばらく、あの人は無反応だった。
ダメ、だった……?
ふっと、涙が出そうになって、顔をうつむかせる。
と、
誰かが、私の事を抱きしめていた。
「……セン、パイ……?」
「……私も、このまま卒業するのは味気ないと思っていたところだよ……」
顔を上げる。
涙で潤んだ視界の中で、優しく最愛の人がほほ笑んでいた。
「……私からもお願いするよ、蓮くん」
「……はいっ……!」
ぽろぽろと目の端から熱い涙が流れる。
悲しみじゃない、嬉しさの涙が。
幸せの証が――
押さえきれない嬉しさが、流れ出している……
「蓮くん」
「……はっ、いっ……」
「……ありがとう」
「ぁ……」
そっと。
自然に。
唇が重なった。
暖かい。
暖かい、愛しさが伝わってきた。
桜の花が、散っていた。
優しく、光に照らされ……
静かに……
そして優雅に……
きれいに、舞っていた。
「……だいじょぶだったみたいね……」
あたしはひょっこりと顔だけ校舎の端から出してつぶやいた。
「そのようだな」
あたしの頭の上から顔を出してソースケを同意する。……って、
「ソースケ、あんた気付いてたの?」
「なにをだ?」
「お蓮さんと、センパイのこと」
「ああ」
「……へー」
「……なんだその意味深な声は」
「別にー。ただ、恐竜の感性ぐらいしかないあんたが気付くなんてねー」
「……よくわからんが、侮辱されてるような気がするぞ」
「気のせいよ、気のせい」
「……むう」
まだ納得いかないらしくソースケが首をひねっている。
「男らしくないわねー、そーいうときはすぱっと割りきりなさいよ、すぱっと」
「……了解」
「そっ。それでいーのよ」
「……納得いかん」
「あたしは納得いくからいいのよ」
そうとだけ言って、ちらりとまだ動く様子のない二人に視線を向ける。なんとなく、懐かしい気分になってから、ソースケに視線を戻す。
「さっ、戻るわよ、ソースケ」
「美樹原たちはいいのか?」
「いいのよ、いざと言うときにはお蓮さんに飛び入りで参加してもらうから」
「……了解」
ソースケがうなづき、あたしの手を取る。
「あっ、ちょ、ソースケ……?」
「……たまには、こういうのもいい。そうだろう?」
ちょっと意地悪っぽく、ソースケが笑いながら言う。あたしもくすっと笑うと、
「そーね。こういうのも悪くはないわね。でも……」
「む……?」
足を止めて、ソースケの唇と自分の唇を重ねる。
「ん……」
あったかい感触がする。ゆっくりと唇を離す。
「ほらっ、驚いた」
「……むう」
「あんたがあたしをからかおうなんて、十年早いのよ」
「……なら、十年経てば良いんだな」
「……へ?」
「十年経てば、君をからかえるんだろう?」
ソースケが、意地悪っぽく、笑いながらあたしに言う。
その言葉がどんな意味を隠しているのか。
あたしはそれを理解してからくすっとほほえむとこう言ってやった。
「……そうね、十年たちゃあんたも少しは成長するかもしれないもんね」
「……ああ」
「じゃ、行きましょっか、ソースケ。ずーっと、一緒にね!」
「了解」
笑い合い、手を重ねながら二人一緒に走り出す。
これからも、どんな時間がたっても……
ずーっと、ずっと一緒に……
左手に目をやる。
春の暖かい陽射しを浴びて、薬指の指輪が幸せそうに光り輝いていた。
いつまでも――
Fin
あとがき
終わりましたねー。やっと。
というわけで、『恋の協奏曲』これにて完結しました。
完結まで思ったより長い時間がかかりました。この作品。かなめと、ソースケの、ハッピーエンド。その裏であるあの二人のソースケ達と同じ位不器用な恋。
にしてもここまで長くなるとは思いませんでした。全九話。私が今まで書いた二次創作の中で最長です。出来は……まあ、二の次とゆーかなんというか。つうかどうせなら全編らぶらぶで通しちゃっても良かった気がします。この作品。おまけに、バンドものにした意味があんまりなかった気が。
まあ細かい点は気にしないで。とりあえず、この作品も完結です。長いお話でしたが、ここまで付き合ってくださった管理人のさりらさん、ならびに読者の方々に深い感謝の意を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
それでは、縁があったら、また会いましょう。東方不敗でしたー。
★…さりら’s感想…★
うあぁぁぁぁっ。まさかお蓮さんにもこんな展開が用意されていようとは(汗
すげぇ、すげぇよ東方さん(汗
そして林水センパイもやるぅ♪って感じで。
個人的に、宗介の
「十年経てば、君をからかえるんだろう?」
ってセリフが超好きです。
というわけで東方さん、長い作品をおつかれさま、そしてありがとうでした。
初めて頂いた投稿作品が東方さんのもので本当に良かったです。
これからもよろしくvv