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2014.02.20 10:21

銀涙 第2話 by モチケン

「おじさ~ん、この人参とこの玉葱くださ~い」
いつも来ている八百屋でかなめは今日の献立に必要な材料を指差し、店主に催促する。
「お、かなめちゃんいらっしゃい。あれ?彼氏も一緒なのかい?」
指定された品物を袋に詰めながら、八百屋のオヤジさんはニヤニヤ笑いながらかなめに尋ねる。
「そ、そんなんじゃないですって。ただの荷物持ちですよぉ~。うは、うははは…」
かなめのごまかし笑いが炸裂する中、その様子を宗介は首をかしげながら見ていた。
今、彼の両手には先ほど購入したかなめの衣服類や小物などが何袋かぶら下がっている。
自分用にとかなめが選んでくれた服も多少はあるのだが、それにしても買い物袋がいつもより多いのは気のせいだろうか…。
今日がかなめとの『デート』なるものだと推測した宗介は同僚のクルツ=ウェーバー軍曹に『だれでもすぐに彼女のハートをゲッチュ!』という、口説き文句や『女性に対してのラブラブデート作法』などをたたき込まれていた。
そのため、かなめの『ねぇ、この服どうかな?』と言う質問に対して『あぁ、よく似合っている。その服は君に着られるためにこの店頭にならんでいるのであろう』と、答えたところ。『む?』という表情を見せたかなめだが素直に宗介の感想と思ったのか、彼の日々の努力の賜物なのだろうと見抜いたのか、素直に『じゃ、これにするね』と笑顔を宗介に返していた。
何にしても今日は宗介との二人っきりの買い物なのだ。『些細な事で一々怒っていたら、楽しめるものも楽しめない』というのがかなめの本音なのだが、あのセリフを言った時の宗介の表情は確かに『無』表情ではなかった気がして、なんとなくそれに決めてしまったというのも理由の一つだ。
「さて、と。夕飯の材料も全部揃ったし、そろそろ家に帰ろうか、ソースケ」
「うむ、了解した」
二人は、夕焼けに染まる商店街を家路につくよう歩き出す。
「そういえば、向こうはどう?」
あと数分で家に着くか着かないかという時に来てかなめが口を開く。
「?…向こうとは?」
「ほら、『ミスリル』よ。無茶な事とかしてない?」
(この質問は最近よく聞くな)
と、宗介は思った。
かなめと二人きりになるたびになにかとこの質問を繰り返す。
(きっと、かなめは自分のことを心配してくれているのだろう)
宗介はそう思うようになった。
だから答えはいつもこうだ。
「肯定だ。無茶はいっさいしていない」
と笑顔で返すことにしている。
「そっか。ならいいんだけどさ…」
そういうと、かなめは少しだけ笑みを浮かべるようになった。
(宗介のこの言葉があたしを救ってるなぁ)
もちろん自分は宗介を信じているし、彼がウソをついているとは思えない。
「よし!いい心がけだ軍曹!今日は私のおごりだ!じゃんじゃんやってくれ!」
「アイサー、マム」
かなめの言葉に宗介が真面目な顔をして敬礼を返す。
「……ぷっ、あははははは」
「ふっ……」
二人は一緒に笑い出す。
しかし、この平和な東京とは別に遥か遠くの海ではかなりの深刻な事態が訪れようとしていた。

「くぅぅぅぅ……はあっ……」
TDD-1の医務室。
苦悶の表情で悶える少女がそのベットに寝かされている。
「テッサ!しっかりして!テッサ!!」
その少女に対して呼びかけているのはメリッサ=マオ曹長だった。
「まったく、どうしたらいいんだい…。これ以上、鎮静剤は使えないってのに…」
TDD-1の軍医でもあるゴールドベリー大尉は頭を抱えている。
「いったい何がテッサに起こってるというんだい?こんなに苦しんでるのに体には以上は見うけられないなんて!」
――ダンッ!――
ゴールドベリーが自分の机を叩く。
「状況はどうだ?ゴールドベリー大尉」
そこへ、カリーニンが顔を出した。
「…だめだね。手の施し様がない。まったく、どうなってるんだかあたしにもさっぱりだよ」
苦虫を潰したようなそんな表情でカリーニンに答えるゴールドベリー。
「少佐!テッサをもっと設備が整っている病院に移してください!このままじゃ、かわいそうで……見ていられません!」
マオが少佐に懇願する。
「うむ。わかっている。すでに搬送先の病院は決定しヘリの準備もさせている」
カリーニンは表情を変えずにマオに答える。
「……そうですか」
少しだけほっとしたようにマオは呟いた。
「うぅぅぅ……くうっ……」
テッサが自分の服をギュッと掴み呻き声を上げる。
「テッサ!がんばって!もう少しの辛抱だからね!」
マオはテッサの顔を両手で優しく掴む。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「……うん、これでよしっと」
かなめはできあがった料理を次々と皿に盛っていく。
そして、宗介の待つリビングへと運ぼうとしていた。
―――……ィィィィィン―――
「!?」
激しい頭痛。
(な、なに?)
意識が遠のいていく。
―――ガシャン―――
皿を持った腕に力が入らなくなり、皿を落とすかなめ。
「どうした!千鳥!」
すぐに宗介が台所に顔を出す。
「ソー、すけ…」
そのまま、床に向かって倒れ込んでいくかなめ。
「かなめ!」
それを宗介が抱きとめる。
「どうした!何があった!敵の襲撃か?それとも毒ガスか?」
片手でかなめを抱え腰からグロック17を引き抜く宗介。
「ち、がうの…頭が痛くって……」
「やはり、毒ガスか?ここは、まずい。別の場所へ」
宗介がかなめを抱きかかえ玄関まで行こうとする。
「ち、ちがう…。待って、ソースケ」
「いや、毒ガスなら待てん!一刻も早くこの場所から離れなければ!」
宗介は焦っていた。
自分が付いていながら彼女が死の危機に追いやられようとしている。
額に脂汗が滲んだ。
このままではかなめが死んでしまう。
(かなめが死ぬ、だと)
死ぬ。この世からいなくなる。存在しなくなる。
「くそぉ!!」
宗介は吼えた。
「ソー、すけお、落ちつ…いて、毒ガス…じゃ、ない。テッサ、が…」
「わかった、わかったから喋るな!かなめ」
宗介はかなめを抱えたまま家を飛び出す。
「ひとまず俺の家へ運ぶぞ!あそこなら毒ガスの中和剤もある!そこからミスリルに連絡をとって、ヘリを…」
かなめを抱えて走りながら自分に言い聞かせるように言う宗介。
(どうする、このままでは間に合わないかもしれない…)
「くぅ!テッサ…なの?いった…い、何が…」
かなめが頭を抱えながら途切れ途切れに言う。
そして、自分の部屋に辿り着く宗介。
サブマシンガン、スタングレネード、その他もろもろの装備を自分に装着し毒ガスの中和剤を探す。
「かなめ!頭が痛くなった時になにか臭いはしたか?なんでもいい!思い出してくれ!」
「だ、から…そうじゃないっていってるでしょうが!」
――ばしっ――
かなめのハリセンが唸り宗介の頭にヒットする。
「…なにをする千鳥、俺は…」
「やかましい!だまっとれ!」
かなめはそうまくしたてると頭を抱えて神経を集中させる。
「……ソースケ、トゥアハー・デ・ダナンに連絡がとれる?」
頭を抱え、どこか別の方向を見ながらかなめが呟く。
「……とれるが、それが君に何の関係が…」
「テッサがやばいのよ…」
かなめは宗介の目を見て真剣に答えた。

『少佐。東京のサガラ軍曹から連絡が入っています』
医務室にブリッジからの連絡が入る。
「今は、緊急事態だ後にしろ」
カリーニンは通信機を取り、そう伝える。
『しかし、こちらも緊急事態だと。…大佐のことで話しがあると言っています』
(どういうことだ?)
カリーニンは眉をひそめた。
このテッサの異常はまだ彼には伝えられていないはずだ。
「少佐。行って来てください。もしかしたらなんらかの解決法があるのかも…」
マオがカリーニンにそう伝える。
「…わかった。マオ曹長、ゴールドベリー大尉。大佐の事は頼んだぞ」
「はいよ」
「了解」
二人の了承の声を聞き、カリーニンは医務室から出てブリッジに急いだ。
「少佐。テスタロッサ大佐の容態は?」
ブリッジに戻るとマデューカスがカリーニンにそう聞いた。
「…進展は無しです」
「…そうか」
カリーニンの答えに表情を崩さずに言うマデューカス。
しかし、いつもよりもやはり雰囲気が違う。
それは、ここにいるクルーにも言える事だった。
「では、繋いでくれ」
カリーニンは通信士にそう言った。
「アイサー」
通信士がコントロールパネルを操作する。
「こちら、カリーニンだ。どうした?サガラ軍曹」
「はっ、少佐。お取り込み中申し訳ありません。そこで、ひとつ聞きたいのですが。大佐殿になにかあったというのは本当の事で…」
「あぁ!うざったいわね。いいから私に貸しなさい!」
「ちょ、千鳥…」
「カリーニンさん、それからマデューカスさんだっけ?聞こえてる?」
通信機から聞こえた声はまさしく『千鳥かなめ』の声だ。
「千鳥かなめ君だったな。そうだ。マデューカス中佐もここにいる」
「少佐。部外者にこことの通信をさせるのは…」
「それで、いったい何があったのだ?」
マデューカスの言葉を無視しカリーニンは続きを促す。
「それなら、話しが早いわ。あたしをソースケと一緒にトゥアハー・デ・ダナンまで連れて行って」
「おい、千鳥…」
「だから、黙ってなさい!あんたは!」
宗介の突っ込みを逆ギレで返すかなめ。
「テッサがやばいのよ!このままだと廃人になっちゃうわ!」
「?千鳥かなめ、それはどういうことだ?」
突然の言葉にカリーニンもまた、他のクルーも動揺を隠せない。
「あたしに助けを求めてきたのよ。同じ『ウィスパード』として」
「しかし、君に彼女を救える理由が…」
マデューカスがかなめに反論する。
「あたしでないと、助けられないのよ!実際、今わかってる『ウィスパード』はあたしとテッサと…『あいつ』だけなんだから…」
「…千鳥かなめ。『あいつ』とは?」
カリーニンがかなめに問う。
「…レナード=テスタロッサ。テッサのお兄さんよ」
『!?』
かなめのその言葉にこの会話を聞いていた全員が絶句した。
「まぁ、今テッサが苦しんでるのはレナードのせいなんだけどね」
かなめが声のトーンを落とす。
「…少佐。彼女をここに連れてくる事を許可してあげてください」
通信士が席を立ち、カリーニンをまっすぐに見つめてそう言った。
「私からもお願いします。少佐」
ソナー員が…いやそれだけではない。
ブリッジにいる全クルーがカリーニンに向かって口々に懇願する。
「……中佐。許可を願いますか?」
隣にいるマデューカスに向かってカリーニンが問う。
「カリーニン少佐」
「千鳥かなめは前にTDD-1に訪れたことがあります。それに、あの時もこの艦を救ったのは彼女です」
カリーニンはマデューカスを見つめる。
「……わかっているよ。私も、気持ちは貴様らと同じだ」
マデューカスが笑みをこぼす。
「了解。感謝します、中佐」
カリーニンも笑顔でマデューカスに返す。
「では、サガラ軍曹。ルートCを使って我々と、合流しろ。千鳥かなめをここに連れてきてもらいたい」
通信を聞いているだろう宗介に向かってカリーニンが命令を下す。
「了解です、少佐。サガラ軍曹はこれより、任務につきます」
「うむ。期待している」
「はっ。では通信終ります」
――プツッ――
通信が切れる。
(頼んだぞ、サガラ軍曹)
カリーニンの心の中での叫びはみなのそれと同じであった。
(頼むぞ、サガラ軍曹)

続く


あとがき

どうも、モチケンです。
なんとか入院前に第2話を完成させました。
このまま行くと、どうやら3話で完結しそうです…。
なんか、趣旨が変わりつつあるのは気のせいだろうか??
いや、変わってるな絶対……(汗
まぁ、悲しい物語になるよりはマシかも。
っていうか、かなめちゃんがめっちゃ目立ってるし……(^_^;)
テッサが主人公のはずだったんだけどな~。
というわけで、よろしくです。
第3話も近いうちになんとかしようと思ってますので。
それでは~。

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