銀涙 第5話 by モチケン
「さて、今回の事件のことについて何か意見があるかね?テスタロッサ大佐?」
旨そうにタバコを咥え、そして肺を満たした煙を吐き出し情報部長が言う。
「……」
テッサは俯いたままであった。弁解のよちもない。
今回の事件は全て自分のせいなのだから。
「もはや、お前にTDD-1を任せておくにも色々と問題がありそうだな」
泣きたかった、自分の不甲斐なさに。
もう、どうしようもなくなってしまった。
全クルーを生死の危機にさらしてしまったこと。
悔やんでも悔やみきれない。
「……ボーダー提督、何か意見がおありかね?……そんな目で私を見ないでくれ。事実は事実なのだからな」
そして、私はまたあの人に助けられた。
ウィスパードとしても、そして同じただの一人の女性としても。
(私は勝てないの?あの人に……)
「それでは、彼女の処分ですが……」
「ちょっと待ちなさいよ…」
誰もが自分の耳を疑った。
今まで、聞いた事のない怒気と覇気を含んだ声を発したのだ。
彼女、テレサ=テスタロッサが。
「た、大佐?」
マデューカスが声を掛けるが、彼女は手でそれを制しし、マデューカスに向かって微笑みかけた。
『あとは、あたしにまかせて…』と。
「さっきから、ぐちぐちぐちぐち文句ばっかり言って、あんたそれでも大人?しつっこいのよ!!」
「テ…テスタロッサ大佐。それ以上の暴言は……」
「暴言?冗談じゃないわ、れっきとした『第3者』の意見よ!ありがたく思いなさい?このクソ野郎!」
テッサが情報部長に向かって左手の中指をおったてた。
そして、冷徹な笑みを浮かべる。
「…貴様、それがどういう意味かわかっているのか!」
情報部長がそれを宣戦布告とみなして声を張り上げる。
「……千鳥かなめ…か?」
その時、カリーニンがぼそりとこぼした言葉にテッサはコクリと頷いた。
「あんたね、この娘がどんなに苦しんで傷ついているかわかってんの?16歳の女の子があんたたちと…いえ、それ以上の激務をこなして生きているのよ。それをなに、事件やら問題やらで彼女をこっぴどく責め立てて……恥を知りなさい!恥を!」
テッサはいっきにまくしたてた。
「それにね。あんたにこの娘がしてるのと全く同じことができるの?ウィスパードとしても、それからこの潜水艦の艦長としても。それができるの?……ほら、答えてみなさいよ!」
「くっ…!?」
「ふん…。できないでしょうが。当たり前よね。あんたはこの娘の足元にも及ばないんだから…。悔しいんでしょ?こんな16歳の小娘に負けるのが?」
「……おぼえておけ…。この屈辱私は忘れはしないぞ」
―――ブツッ―――
通信が切れる。
「はん!いい気味だわ、おとといきやがれってのよ!」
その通信を聞き終えて他の官僚たちも次々に通信を切る。
「君も大胆な事をしてくれるな、『千鳥かなめ』君」
最後に残ったボーダー提督がテッサ……かなめにそう告げる。
「まあね。あまりにもむかついたもんで……。ちょっとやりすぎちゃったかな?」
テッサが頬をポリポリとかく。
「でも、少なくてもあなたはいい人よ。テッサも言ってたけど改めて話をしたらわかるわ」
「それは光栄なことだな」
提督は苦笑する。
「それから、マデューカスさんにカリーニンさん。あなたたちにも色々と助けてもらって、すごく感謝してるわ。これは私の言葉や気持ちでもあり、彼女のものでもあるわ。本当にどうもありがとう」
「いや、そんなことは…」
マデューカスはしどろもどろに、
「もったいないお言葉です」
カリーニンは口元に笑みを浮かべながら答える。
「この子は、強い面もあれば、とてつもなく弱い面もある。どうか、ずっとこの子を支えてやってください。まぁ、その一番の支えを奪い合ってる人が言う言葉じゃないけどね」
テッサは苦笑する。
「あまりにも優しすぎるのよ、この子は。そこがテッサのいいところなんだけどね」
自分の体を抱きしめ、自分に言い聞かせるように言うテッサ。
「私は、このくらい言ってもいいと思うよ?みんなかけがえのない『仲間』なんでしょ?それに、周りはみんな大人よ?グチくらいこぼしたっていいのよ。まだ、若いんだしね」
テッサは目を閉じる。
「だから、もっともっと甘えちゃいなさい。きっとみんな受けとめてくれるわよ」
あたたかい笑みだった。
聖母を思わせる、そんな微笑み。
「じゃぁ、行くわ。それじゃね、テッサ。みなさん、あとはよろしく」
そう、告げてテッサはその場に沈む。
「おっと…」
それを聞いてカリーニンがすかさずテッサを支えた。
「……やられたな」
提督が漏らす。
「まったくです……」
マデューカスが苦笑する。
「しかし、それが彼女なのでしょう」
テッサを支えたカリーニンが二人に言う。
「…ふっ……。では、テッサの方は頼むぞ。やつらは私がなんとかしよう」
「…もうしわけありません」
提督の言葉にマデューカスが深深と頭を下げる。
「いや、これも『大人』の仕事さ。それではな…」
―――プツッ―――
画面がブラックアウトする。
「カリーニン少佐、大佐を自室へ」
通信が終わり、マデューカスがカリーニンにそう告げる。
「わかりました、中佐」
カリーニンは彼女を抱え、マデューカスと別れて通路を歩く。
「……いい女を見つけたな、軍曹」
カリーニンはそう口にし、誰もいない廊下で少し笑った。
「で?なんなのよ、いったい」
放課後、宗介に重大な用件があると言われ恭子との約束を断り、こうして宗介と歩いているかなめはうさんくさそうな眼差しを宗介に向けた。
「いや、内容はまだ教える事はできん」
「だって、このまま行くとあんたのマンションじゃない」
かなめの言う通り、目の前には宗介が住むマンションが見えている。
「そうだが、問題が?」
「あ、あのねぇ、これでも一応あたしは女の子なのよ?」
「承知しているが、何か?」
「もう!このネクラバカ!デリカシーってものが何にもないんだから!そんなにグイグイ引っ張られたら、周りの人がどんな目で見るかわかってんの?」
宗介に掴まれた手首を見ながらかなめは怒鳴り散らす。
「む。すまなかった」
宗介はそう言うとかなめの手を離した。
「あ…」
宗介の手の感触が戻ってくる。
あの日、テッサを取り戻すために共振した私の両手を汗が滲むほどぎゅっと握っていた宗介。
『かなめ!大丈夫か?かなめ!』
必死になって自分を呼ぶ宗介。
(そういえば、名前で呼ばれたの久しぶりだったなぁ)
そんな感情がかなめを支配し、妙に照れくさくなってくる。
「どうした?千鳥」
「へ?な、なんでもないわよ。うは、うははははは…」
急激に熱を帯びた顔を隠すようにかなめは笑い声を上げた。
「あ、相良さ~ん。かなめさ~ん」
「え?」
自分たちを呼ぶ声に上を見上げると、宗介のマンションのベランダからテッサが手を振っている。
「なに?用件ってテッサのこと?」
かなめが宗介に問う。
「肯定だ。大佐殿に君をここに連れてくるよう『お願い』を受けた」
「『お願い』?」
「そうだ。行くぞ千鳥」
「う、うん…」
(いつもは『命令』だって言うくせに…)
かなめはそう思いながらも宗介の跡についていった。
宗介のマンションに着いたかなめは、宗介が煎れたコーヒーで一息ついた。
「突然、すみません。なにか用事がおありだったとか…」
「いいのよ。別にヤボ用だし」
テッサがすまなそうに言うのでかなめも手を振り振り答える。
「単刀直入に言いますね?」
テッサが真面目な顔で言う。
「うん…」
「本当に、ご迷惑かけて申し訳ありませんでした」
頭を下げて、言うテッサ。
「カナメさんにはご迷惑をかけてばっかりで…。すぐにでも、謝罪に向かうべきだったんですが、デ・ダナンの修復やら謝罪文やら始末書の作成やらで忙しくって…。ほんとうにすいません!」
よく見ると、テッサの眼の下には隈ができていた。
きっと、徹夜でもして仕事を片付けたのだろう。
(まったく、この子は…)
かなめは自然に口元に笑みを浮かべていた。
「相良さんにもずっと迷惑のかけっぱなしで、本当にごめんなさい」
宗介にもそう言って頭を下げるテッサ。
「いや。そんな……」
しどろもどろになる宗介を見ながらかなめは宗介に頷いた。
「いいってば。そんなにあやまらなくったって。私たち『友達』でしょ?」
かなめは笑顔で言う。
「そうだ。テッサ。俺達は『友達』だろう?」
宗介も口元に笑顔を浮かべながら言う。
「……本当に『友達』でいてくれますか?」
テッサが震える声でそう尋ねる。
「当たり前でしょ!ね、ソースケ」
「うむ。肯定だ」
「……!?。二人とも、ありがとうございます!」
そう言って、テッサはかなめに抱きついた。
涙が流れる。
銀色の涙が。
それは悲しみの涙ではなく、うれしさの涙。
その美しい涙はいつまでも、美しいままでい続けるだろう。
『愛』という、輝きを秘めたままで。
続く
あとがき
どうも!モチケンです。
やっと、終りました『銀涙』。
初めての投稿小説が完成しました~~~。ばんざ~い!ドンドンパフパフ!!
なんか、最初の趣旨と全然違うものになってしまった……(汗)
でも、最後がハッピーエンドでよかったかな?とも思います。
えっと、俺のわがままで残り話の数を変更しまくってもらった管理人のさりらさんに深くお礼申し上げます。
それから、チャットのお仲間のみなさん。色々な意見と要望や感想ありがとうございます。
みなさんの「読んだよ~」の声がどれほどの励みになったことか(感涙)
本当にありがとうございました。
次の投稿小説も考えておりますので、楽しみにしててください。
今度こそはテッサのラブラブ話にしたい!と強く願うモチケンこともっつぃ~でした~。