勘違いのfarewell party by UNA
「むう……」
さっぱりわからん。
むっつり顔に脂汗を浮かべ、相良宗介は今日も頭を抱えるのだった。
『我が背子を大和に遣るとさ夜ふけて暁露に我が立ちぬれし』
万葉集の中の短歌である。
「ほれ、あと1分だぞぉ」
教卓の前に立つ「古典Ⅱ」の藤崎教諭は授業に来るなりこう告げた。
「あー、今日はだなぁ、抜き打ちで小テストをやるぞぉ」
『えぇぇーー!?』
と、いう訳で早速、小テストに取りかかった宗介だが、
(く、任務失敗か……!?)
案の定、この通りである。
もともと、幼いころから海外の紛争地帯で育ってきた宗介にとって古典は最大の苦手教科だった。
小テストの解答欄はほとんど白紙。たった一つ苦し紛れに「るーるーるー」とだけ書かれてあったりした。
大半の生徒が鉛筆を放り投げたところで、
「ハイ、そこまでぇ」
他の生徒と同じように、宗介は勢い良く机に突っ伏した。
六時間目が終わり、掃除時間になり、
「それで?結局、一問も解けなかったの?」
宗介の隣で窓を拭いていた常盤恭子が言った。いつもと同じとんぼメガネにおさげ髪である。
「……肯定だ」
ちりとりで集めたゴミを取る宗介は、そこはかとなく悲しそうに見えた。
「あのような歌を教えてくれる人間など、俺の周りには誰もいなかったからな」
と、その折り、
「二人で、なーに話してんの?」
クラスメートの千鳥かなめである。腰まで届く黒髪、少し大人びた風貌のする少女である。
「それより、ソースケ、覚えてるんでしょうね?今日の約束」
「む……肯定だ。今日の放課後、1830時からだったな。問題ない」
宗介はちりとりに集めたゴミをくずかごに入れながら答えた。なぜか宗介の顔が名残惜しそうにも見えた。
「おぉ!ちゃんと覚えてんじゃん。感心感心」
そう言ってかなめは笑いながら教室のドアの方に歩いていった。心なしか、リボンで結わえた髪がいつもより大きく揺れていた。
「かなちゃん、楽しそーだね」
クスクスと笑う恭子の横で、宗介は「理解に苦しむ」といった表情でかなめの後ろ姿を見ていた。
そして、何も起こらなかった。
普段ならドタバタ騒ぎがあるのだが、なぜか宗介が大人しくしていたのである。
いや、書く時間もないし。
「まるで、嵐の前の――」
そこまで言ってかなめは口をつぐんだ。そうなってもらっては困るからだ。
(いやいや、滅多な事を口にするもんじゃないわね)
「いや、まぁ何にせよ、何もないことに越した事はないわよね」
ここは生徒会室である。
今日は3月1日、陣代高校の卒業式前夜である。生徒会では毎年恒例の卒業生の送別会が催されるのである。
いまも何人かの生徒が部屋の忙しくあちこちを行き交っている。
無論、誰が張り切ってこう言う事になったかは言わずも、がな。である。
「うっし、完璧ぃ♪」
妙なガッツポーズを決めて、かなめは生徒会室を出ていった。
ソースケも暴れないし、順調順調~♪
ややあって、かなめは調理室の前に着いた。ドアをガラガラガラと開けて、
「どぉー?調子は」
「ええ、とどこおりなく」
「ふむ、問題ないよ」
中にいたお蓮さんこと美樹原蓮と会長であり、今日の主役でもある林水敦信がそれぞれ答えた。二人ともエプロン姿である。
調理室内をざっと見渡して、何も問題がない事を確認したかなめは、近くにいた蓮の耳元でささやいた。
「せっかく二人っきりなのだから、上手くやんなさいよ」
彼女が耳まで真っ赤にするのを確認してから、かなめは「それじゃーね♪」と言い残し、調理室を去った。
このあと、二人がここでラブコメモード全開になるのをかなめは知らない。それはまた、次ぎの機会にでも。
(……にしても、先輩のエプロン姿、なんか似合っていたなぁ……)
「……相良君?」
そう言ったのは恭子だった。いつものとんぼメガネとおさげ髪ではなく、コンタクトに、髪は下ろしてある。いつもの制服なんだが、女子大生かOLにも見えた。
もしもこの格好をクラスメートに見せることがあろうなら、どこかのだれかは、
「絶対イイ!前のポニーテールの時よりも!絶対カワイイって!」
などと涙ながらに熱弁するだろう。いや、マジで。
ともあれ。
恭子は生徒会ではないのだが、「生徒会全員と面識があるから」と言う事でかなめが呼んだのである。
「なんだ?常盤。危ないぞ。半径1m以内に近づくな」
恭子は困ったような笑顔を見せてから、宗介の前にずらっと並べられた、数本のビンや試験管を指差して
「それ……なに?」
「これか?これはつい最近開発された粘着剤だ」
そう言いながらも宗介はなにやら怪しい液体を混ぜ合わせている。
「いや……そうじゃなくてね。カナちゃんが見たら怒るかもよーって」
そこまで言われて宗介の手がはたと止まる。しかし、振り返りながら、
「甘いな、常盤。会長閣下を始め、この学校の高官達が一堂に会する食事会だぞ?それを狙わないテロリストがどこにいる」
異様に自信たっぷりに、宗介が説明した。
的外れに。
とことん。
「いや、それはないと思うけどなぁ……」
「無理もない。君は素人だからな」
恭子は呆れ顔になり、
「あっそ。カナちゃんに怒られても知らないよー?」
全く噛み合ってない会話が成立した、次の瞬間――
ドンッ!!
宗介の背後の、試験管が爆発した。
突然の衝撃に反応する間も無く宗介が前のめりに、恭子に覆い被さるようにして吹っ飛んだ。
(このままでは彼女が!)
とっさの判断で、空中で宗介が恭子をかばう様にして動き、壁に激突した。
「く……ぅ」
背中を強打したらしい宗介が小さくうめき声をあげた。
「相良君!大丈夫!?」
宗介に抱きかかえられている恭子が悲痛な叫び声を上げた。
「く……大丈夫だ。心配ない」
「でも、相良君……!」
恭子が涙目になって叫んでいた、その時、
ドサッ……
二人が一緒に音のした方に顔を向け――
「千鳥……!?」
「カナちゃん!!」
お約束とばかりに無意味に手に持っていたファイルを取り落としたかなめが、そこに立っていた。半開きになった口をわななかせ――
そこまできて、恭子は自分の格好に気がついた。
ミニスカで彼の腰に座るようにして、抱かれ、あまつさえ目の端に涙を浮かべて……
「ち、違うの……カナちゃん!」
恭子は顔全体を真っ赤にさせ、しどろもどろになりながら説明しようとする。その様子はまるで浮気が見つかったかのようだった。
宗介は宗介で、脂汗をぶわーっと滝のように流していた。
(……これは良くない。非常に良くない)
以前(疾るONS参照)の、テッサの時以上に……。
そして、かなめは……笑っていた。自分が恭子に変装させたのも忘れて。
「うふふふふ……あなた、だーれぇ?フフフ」
可憐に、もとい身も凍るように。
後から音を聞きつけて風間信二や岡田隼人が到着したところで、
――ぷっつん。
辺りに聞きなれない音が響きいた。
「ソースケを殺して、私も死ぬ……」
ボソリとかなめが呟いく。
「カナちゃん、違う!」
「落ちつけ、千鳥!わかれば話す!」
「千鳥さん!?」
「カナメちゃん!?」
その場にいた全員が叫び、かなめが跳躍した。
信二と隼人が止めに入り。恭子が逃げようとして。宗介の持っていた試験管が割れて。ついた粘着材のせいでまた、抱き合う形になり、かなめが顔をさらに引きつらせ、泣きだして――
結局、かなめが落ち着くまで2時間、粘着材を取るのに、また2時間かかった。
もちろん、その年の送別会はお流れになった。ただ……
――その頃、
「先輩、お口をあけてください。ハイ、アーン」
「よしてくれたまえ、蓮くん。私は子供ではない」
「いいじゃないですかぁ、せっかく二人きりなんだし。ね、センパイ♪」
「ふむ……まぁ……あーん」
そんな会話がされたとかされてないとか。
あとがき
ども、小説、パロディともに初めてのUNAです。それにしても、ヘタクソですねぇ。
いや、まったく。
ソースケ×カナメを書きたかったんですが、どうなんでしょー。書けたのかな?
(……スチャッ)
そ、それよりも、カナメさんには悪いことをしましたね。
(カチャリ……)
いえ、ソースケさんにも、です……!(滝汗
次からはちゃんとしたものを書きますから!許して!!(泣
――でもさぁ、キョーコちゃんのあのカッコ、絶対カワイイと思うのだけどなぁ。ポニーも……そうだけど。
お願い。誰か描い――
(パララララッ)
――ぇ
(キョーコ!?)
(常盤!?どこでそのマシンガンを!?)
嗚呼、世間の喧騒が遠のいて行く……