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2014.02.20 10:23

Smiling With You by 東方不敗

がたん、がたん。

雪景色が次々と電車の動きに合わせて前から後ろへと移り変わっていく。宗介は少し座席に体をうずめると小さく息を吐いた。電車の中は暖房が効いてるせいか随分暖かかった。

「どしたの、ソースケ?」

隣に座っていたかなめが声をあげた。白のセーターにフレアスカート。髪をポニーテールに結ってあり顔はもう幸せ一杯といった感じにほほ笑んでいた。

「いや、なんでもない」

「そう……。ならいいんだけどね」

にっこりと笑うとかなめはリュックの中から緑の包みに入れられたお弁当を取り出した。ソースケに突き出して、

「お弁当、作ってきたんだ。旅館につくまで随分あるみたいだし、食べちゃおっか」

にっこりとほほ笑む。ポニーテールの髪が彼女の顔に合わせて嬉しそうにゆれた。

「……そうだな」

「うんっ♪」

かなめはぱっとうれしそうに顔を輝かせると弁当の包みを開けて蓋を開けた。中にはおいしそうなたこさんウインナ-やらなんやらが大量に入っている。どれを見てもおいしそうだった。

「あ、ちょっと待っててねソースケ♪」

かなめはうれしそうに声をあげるとリュックの中を再度ごそごそと探り始めて割り箸を取り出す。宗介はそれを受け取ろうとしたが――

「へへへっ、だーめ♪」

なぜかかなめは割り箸を背中に隠してしまった。

「?」

「ねえソースケ、これ、食べたい?」

「……なに?」

「食べたい?」

「……ああ」

「へへっ、じゃあねえ……」

かなめは割り箸をぱきんと割ると適当にお弁当の中の具(ちなみに宗介がおいしそうだと思ったたこさんウインナーだった)をつかみ、宗介の顔の前に持ってきた。そして、

「はい、あーん♪」

「…………(真っ赤)」

顔を真っ赤にして狼狽する宗介。ほんのり頬を赤くして嬉しそうなかなめ。

さあどうする宗介?(笑)

「か、かなめ、いくらなんでもそれは――」

「これじゃなきゃ食べさせてあげない♪」

「……くっ……」

何故か舌打ちする宗介。

「はい、あーん♪」

「……あ、あーん……」

ぱくっ。

「へへっ、おいしい、ソースケ?」

顔を赤くしながら上目使いにかなめが聞いてくる。こんな顔で見られてまずいといえる奴は人間じゃない。宗介はこくりとうなづくと、自分の顔が熱くなるのを感じながら、

「ああ、……美味い」

「へへっ、ありがと♪ じゃあ次は――」

「…………(滝汗)」

……彼女は、こんな性格だったんだろうか?

昔の彼女の事をそこはかとなく思い出しながら宗介ははずかしさとなんとも言えない心の安らぎとの間で苦悶するのだった。

幸せそうな恋人二人を連れた列車は、少しづつ目的地へと近づいていく――

二人は今北海道の温泉宿へと来ていた。

なぜそんなところに来ているのかというと、それはかなめが当てた商店街の温泉旅行券のおかげでという奴である(しかもペアチケットだったりする)。

無論宗介と二人で行く事にしたかなめ。ちょうど学校も冬休みに入ったので一泊二日でこの北海道へと来ていたのだ。

やっと恋人同士にもなれたし、これが初めての二人っきりの旅行ということもあって、かなめははたから見てもかなり嬉しそうだった。

無論、宗介も心の底ではひそかにうれしがっていたのだが……

「いらっしゃいませ、千鳥様ですか?」

街の中心部から少し離れた日本風の旅館。二人がロビーに入るとしっとりとした雰囲気の女将さんがでむかえてくれた。

「あ、はい。二人一部屋で予約が入ってると思うんですけど……」

「うかがっています。寒い中ようこそいらっしゃいました」

ぺこりと女将さんが頭を下げる。

「いやあ、こっちこそ、よろしくお願いします」

「はい、それでは、お部屋に案内しますので、あ、荷物は持ちましょう」

「え、でも……悪いですよ」

「いいんですよ、それが女将の仕事なんですから。やらしてください」

「はあ……。それじゃ、お願いします」

ぽふっと宗介とかなめが二人分の荷物を女将に手渡す。二人分の荷物を両脇に抱えると『それじゃ、案内します』といってすいすいと歩き出した。

「あの、重くないんですか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

にっこりと笑って答える。女将は歩きながら少し旅館の構造について話し出した。

「この宿は外から見れば分かりますけど二階建てになってます。千鳥様のお部屋は『203』号室ですので、東館の2階ですね。ロビーには近い位置にありますのでなにか不都合がありましたら気兼ねなく私かだれか近くを通った従業員に申し出てください。それと露天風呂ですけど――」

ぺらぺらと、まあ歌でも歌ってるかのごとく綺麗に繊細な声で話していく。なんともいやはや手馴れたものだった。

「えっと、その位ですけどなにかご質問は?」

「え、いやその、特に」

「質問があります」

宗介が声をあげた。ついでにいうとなんとなくかなめは嫌な予感がした。

「なんでしょうか?」

「はい。自分とかなめはこの旅館に余暇を楽しむために来ました。無論身の安全にも気を配っているのですがやはり見知らぬ部屋に防犯もなにもせずに泊まるというのにはいささか抵抗がありますので宿泊する部屋に防犯装置を設置する許可を――」

すぱんっ!

どっから取り出したのかかなめが例によって例の如く宗介をはりせんではたき倒した。

「痛いじゃないか」

「やかましいっ! この……戦争ぼけっ! いったいいつになったらその頭を元に戻すのよっ! あんたわーっ!?」

「しかし、かなめ。俺は君の身の安全を――」

「どやかましいっ!」

すぱぱんっ!

二連続コンボが炸裂。宗介はもんどり打って床に倒れ伏した。

「あの……大丈夫でしょうか?」

女将さんが心配そうに宗介に声をかける。宗介はむっくりと起き上がると、

「大丈夫です。なれておりますので」

「あらまあ……。それは、大変なんですねえ……」

「ええ、大変なんです」

なぜか妙に意気投合する二人。

「あのー、ちょっと?」

かなめがぱたぱたと手を振る。

「まあ、人生色々ありますから。たとえ尻に敷かれたとしても我慢するのが大切なんですよ」

「あたしがいつソースケを尻に敷いたんですかっ!?」

「あら、違うんですか?」

「違いますっ! きっぱりとっ!」

「そうは見えませんでしたけど……」

「なんでっ!?」

「あら良い天気。雪がやんだみたいですわね。ほら、雲の間から太陽が顔を見せてますわよ。そう、まるで……まるで闇に射した一条の光明のように」

「いやあのちょっと。軽やかに無視しないで欲しいんですけど……」

「はあ、そういえばあの手紙は彼に届いたのかしら……?」

「あのー、もしもーし?」

「あら、ここが部屋ですわね」

と、女将が立ち止まる。木造の扉には確かに『203』と入っていた。

かちゃりと女将が扉を開ける。促されるままに宗介とかなめが部屋に入り、次に女将が続く。

「それでは、夕御飯は七時頃にお持ちしますので。それまでゆっくりとお過ごし下さい。ああ、それと……」

女将がぱたぱたとかなめを手招きした。近づくとこっそりと女将が耳打ちしてくる。

(それと、あれは小棚の中に入ってますから)

「へ? あれ?」

(まだ高校生なんでしょう? 避妊には十分注意してくださいね」

「あ、あのちょっと?」

「それじゃ、ごゆっくり」

「ね、ねえ女将さん!? もしかしてなんだか多大な勘違いしてない!? あたしとソースケは、そのそりゃまあ恋人同士だけどまだまだそんな事は――てあのちょっと!?」

ぱたん。

閉まる扉。かなめはがっくりと肩を落とした。ついでにため息一つ。

「どうした、かなめ?」

「ううん、なんでもない……。ただ、人生って難しいんだなって……」

「?」

「はあ……。ね、ソースケ」

「なんだ?」

「良い部屋だね」

「……ああ」

言って、窓の外を二人で眺める。

白い雪景色で彩られた静かな町並みがそこからは見えた。遠くでは白い雪をかぶった山が見える。中腹ではスキーに興じている人たちの影も見られた。

「来て良かった……。て、思える旅行になったら良いね」

「……大丈夫だろう、きっと。……根拠はないが、そんな気がする」

「……うん……」

言って、今日初めてのキスをする。

久しぶりの大好きな人の唇の感触は、とても暖かいものだった。

ぺたぺたとスリッパの足音を響かせながらかなめと宗介は廊下を歩いていた。手には着替えとおぼしき浴衣とシャンプーやらなんやら。ちなみに浴衣はこの旅館にあったもので部屋の押入れの中に入っていたものを引っ張り出したのだ。

「えっと……こっちで良いのかな?」

かなめがぽりぽりと頭を掻きながらつぶやく。

「……わからんな。ところでかなめ……」

「なに?」

「なぜ俺達は手を組みながら歩いているんだ?」

宗介の言うとおりかなめの手は宗介の手に見事に絡まっていた。おまけにかなめが宗介にすがりつくような感じで歩いているので端から見ればもう完全にあつあつな恋人同士だ。

「いいじゃんべつに。それとも、ソースケはこういうのヤ?」

「いや……その、おれも、まあ、嫌な気分はしないというか、その、むしろ落ちつくような気が……」

「え? なに?」

「いや、その……なんでもない」

「ほら、なんて言ったのよ、よく聞こえなかったんだけど、ねえ、ねえったら……!」

ぐいぐいとかなめが宗介の腕を引っ張る。なにやら彼女の柔らかい体が自分の腕に押しつけられてなんともいえない感覚がした。

(いかん、これは、非常に良くない……)

だらだらと脂汗を流しながらそんなことを考える宗介だが結局なんにもできないのが現状であった。

「あ、あったあった。あれじゃない?」

かなめが角の先を指差す。扉が二つ。それぞれ赤いのろしと青いのろしが下げられており『男』『女』とそれぞれ入っていた。

「む、そうみたいだな」

「うん、それじゃ。出るときは声かけてよ。先に出たりしたら怒るからね」

「了解」

そんなこんなで、二人は別れそれぞれ違うのろしをくぐっていった。

この後すぐに再会することになるとも知らずに――

「ふえ~、結構広いわね~」

かなめがぐるりと脱衣所の中を見まわし感嘆の声をあげる。木造の床を踏みしめ、脱衣用の籠に荷物を投げこむ。人は他にいないらしくかなめ以外の人の服が入った籠は見うけられなかった。

「? なんで誰もいないんだろ……」

ぶつぶつとこぼしながら服をさっさと脱ぎ籠の中に放りこんでいく。下着も脱いで、バスタオルを羽織ろうとして……やめた。人がいないのならわざわざ隠す必要もないだろう。ということで持ってきたシャンプーだけ手に取り風呂に向かう。

がらり。

「おお~けっこう広いわね……」

ぐるりと見まわす。奥の方には大きめな長方形の湯桶。左手には洗面用のシャワーがずらりと壁に取り付けられて並んでいる。右手も同様だが、壁一面に富士山の絵がかかれていた。

ちゃぽん。

「お?」

水音。良く見ると自分のほかにも誰かが風呂に入ってるようだった。湯煙で少し見えにくいが、髪は短い。年頃も恐らく自分と同じぐらいだ。

(はて……?)

首をかしげる。誰か自分のほかに入ってるのだろうか? 脱衣所に自分以外の服がおいてあった覚えはないのだが……?

不審に思い、考えもなしに近づく。話しかけようかと思ってるとその人が先に振りかえり……

「か、かなめ……?」

なぜかそれは宗介だった。

かなめはしばらく目をぱちくりさせていたが自分の今の格好――なんにもつけていない体をくるりと見回し――それから顔を真っ赤にさせると息をすうっと吸いこんで――

「っきゃあああああああああああああああっ!!??」

びりびりと壁に響かんばかりの叫び声をあげた。

「か、かなめ、なぜここに――」

「し、知らないわよっ! ちょ、ちょっと見ないでよばかっ!」

「す、すまない」

宗介がそそくさとそっぽを向く。かなめはあたふたとしながら、

「あ、あたしはただ普通にお風呂に入ろうとしただけで……そ、そもそもなんであんたがここにいんのよっ!?」

「いや、俺も普通に入ろうとしただけで……」

「う、うそっ……」

「本当だ。右手の引き戸から中に入って風呂に入ってたら君が左手の引き戸から――そういえばなぜこの風呂には入り口が二つあるのだ?」

「へ?」

いわれて、くるりと後ろを振り向く。良く見ると確かに扉が二つ。自分が入ってきたのと、もう一つ左に三メートルほど言ったところに同じ形の扉があった。もしかして、この風呂って混浴……?

「と、とにかく、あっち向いててよソースケっ、て、み、見てんじゃないっ!」

「りょ、了解」

「ああもう、あ、そういえばバスタオル脱衣所に置いたまんまだ」

「俺が持ってきている。投げるか?」

「う、うん……。で、でもこっち向かないでよっ」

「わかっている」

宗介が投げたバスタオルをキャッチ。そそくさとバスタオルを体に巻きつける。

「も、もういいわよ」

「うむ……」

宗介がくるりとこちらを向いた。良く見るとなんだか宗介の顔もほんのりと赤い。自分はすでに真っ赤になっているが。

「ちょ、ちょっと、じろじろ見ないでよ」

「あ、ああ、すまない」

ざばっと宗介が風呂から上がった。どうやら体を洗うみたいだ。自分が入れ替わるような感じに風呂に入る。

「あ~気持ち良いわ……」

きゅっと身が引き締まるような感じの暖かさ。とろんとした感じのにごり湯がなおかつ心地よいし檜の木造の風呂の香りが更に心地よさを増幅させた。

「ふむ、そうか……?」

「うん。まあ、あたしがお風呂好きってのもあるんだけどね……。は~、なんか体がとろけそう……」

「そういうものか……」

きゅっと宗介がシャワーの栓をひねる。シャワーから勢い良く水が飛び出て音を部屋の中に響かせる。

シャーーーー。

「ね、ねえソースケ……」

しばらくしてからかなめが口を開いた。どこか恥ずかしがってるような響きがある。

「なんだ?」

「そ、その、あたしが背中流そうか?」

ぴたり。

宗介の動きが、ぴたりと止まる。しばらく何か考えるような素振りをしてたが、やがてくるりとかなめの方に振り向くと、

「では、頼む」

「う、うん……」

ざっとかなめが上がりぺたぺたと宗介の背中の辺りに座りこむ。手ぬぐいにボディーソープをつけてしゃかしゃかと泡立てると、

「じゃ、洗うよ」

「ああ、頼む」

ごしごし。

「…………」

「どう、気持ち良い?」

「ああ……。もう少し、強くても良いが」

「ん」

ごしごし。

「こんぐらい?」

「ああ……。そうだな」

「分かった。ふふっ……」

「?」

ごしごし。

「よい……しょっと」

「む……」

ごしごし。

「……ソースケの背中って、傷とか多いね……」

「ああ……。昔から怪我をしてたからな」

「そうなんだ……」

ごしごし。

「……ねえソースケ……」

「なんだ?」

「この、わき腹の傷って……あの、修学旅行のとき……」

「ああ……。あの時、破片が刺さった時の傷だ……」

「ん……。あたしを、守ってくれたとき……ついたんだよね……?」

「……ああ、そう、だな……」

「…………」

ごしごし。

「……ねえ、ソースケ?」

「なんだ?」

「あたし、あんたのこと、信じて良いんだよね……?」

ごしごし。

「ずっと、一緒にいてくれるんだよね……?」

「…………」

ごしごし。

「いなくなったり、しないよね……?」

「かなめ」

すっ。

「えっ……?」

気付いたとき、かなめはソースケに抱きかかえられていた。

ぎゅっと、力強く彼の腕に抱きかかえられていた。

「……大丈夫だ。俺を、信じてくれ……」

「…………」

「俺は人類全てを救えるほど強い男じゃない。でも、君だけは守ってみせる。絶対に……」

「……うん……」

「いなくなりなどしない。だから、信じてくれ……」

「……うん……」

すっと顔を上げる。宗介の瞳がこちらを見つめていた。

暖かい、瞳。

「ソースケ……」

「かなめ……」

すっと、二人でキスを交わす。

溢れる程の幸せと愛しさが、そこにはあった。

30分後。部屋の中にて――

「あー良いお湯だった……」

湿った髪をバスタオルでごしごしと拭きながらかなめがぼやいた。今は浴衣姿で白と青の縦じま模様といった良くある感じの服装になっていた。

「ああ、そうだな」

畳に腰を下ろしながら宗介が同意する。宗介も同じ浴衣姿だ。右手には何故かコーヒー牛乳(しかもビン)。

「ねえソースケ」

テーブルの向かいがわに座りながらかなめが笑顔で問い掛ける。

「なんだ?」

「明日どうしよっか?」

「明日か?」

「うん、電車は夕方だからさ。帰るまでしばらく時間あるし。どっか行く?」

「そうだな……いや、君に任せるとしよう」

「? なんでよ?」

「君のほうがこういうことに関しては知識は上だろう? 戦場での効果的な休憩ポイントなら的確に指示できるが――」

「ああ、もういいわ、わかった。納得」

宗介の言葉をぱたぱたと手を振りながらさえぎるかなめ。宗介はコーヒー牛乳をこきゅっと口に含むと、

「そういえば常盤などに土産物を頼まれていたな。会長閣下も俺に買出しを命じてきたし――」

「ああ、そういたそうだったわね」

頬杖をついてつかれたようにつぶやく。どっから話しが漏れたのか冬休みに二人っきりで旅行に行く事がしっかりと学校のほかの人たちに知れ渡っていたのだ。おかげで土産物を大量の人から頼まれ土産物ノートまで作成する羽目になった。

「ったく、キョーコの奴もどこでこんな情報仕入れたのかしらねえ……」

「常盤に話したのなら俺だぞ」

すぱんっ!

異次元から取り出した(笑)はりせんでかなめが宗介を張り倒した。

「痛いじゃないか」

「やかましいっ! なあんであんた言っちゃったのよっ! おかげでこんなノートまで作る羽目になって――くぬっ、くぬっくぬっ!」

げしげしげし。

「痛いぞ、かなめ。やめろ」

「やかましいっ! 大体あんたはいっつもそうやって人の努力を水の泡にして――」

「あらあら、喧嘩はダメですよ」

「やかましいっ! あんたがいえたせ、り……え?」

突然聞こえた声に、思わず振り向く。見ると扉の側にお盆を両手に持った女将さんが立っていた。お盆の上には夕御飯とおぼしき器の数々。

「お、女将さん?」

「はい?」

「えっと、あの、なんでここにいるんです?」

「ええ、それはもちろん、夕御飯を運んできたからですよ」

言って、しずしずと部屋の中に入ってくる。テーブルの上に一つ一つ器を置いていき、最後に御飯の入ったひつを置く。

「あ、あの、もしかしてずっと見てました?」

「ええ、一部始終しっかりと」

くすりと笑う。と同時にかなめの顔がか~っと真っ赤になる。

「な、なんでなにも言ってくれなかったんですかっ!?」

「だって、見てた方が面白いじゃないですか」

「あ、あのねえっ……」

「ええ、若いのは良い事ですけど、喧嘩もほどほどにね。あ、それと、お風呂どうでした?」

「そう、そうですよっ!」

かなめが『がたんっ!』とテーブルを叩いた。ショックで少し器がゆれて味噌汁がこぼれそうになる。

「なんで混浴なら混浴って先に言ってくれなかったんですかっ!? おかげであたしは、あの、その……あう……」

語尾がだんだんと小さくなっていくのと反比例するようにかなめの顔がか~っと真っ赤になっていく。耳まで真っ赤だ。

「あらあら、それは良かったですねえ」

「よくありませんっ!」

「大丈夫ですよ、若いんですから」

「関係ないっ!」

「ああ、それと、するときはちゃんとあれをつけてくださいね。避妊はしっかりと。苦労したくなかったらね」

「なにいってんですかあっ!?」

「それじゃ、ごゆっくり」

ぱたん。

「うう、なんなのよあの人……?」

「……恐ろしいくらいにマイペースだな。なんとなく美樹原を彷彿とさせる」

「ああ、お蓮さんね、確かにそうかも……」

「ところでかなめ」

「なに?」

「『ヒニン』とは一体なんの事だ?」

「んなことあたしに聞くんじゃなあいっ!」

すぱんっ!

はりせんの良い音が部屋の中に響き渡った。

「……もう寝よっか?」

「ああ」

「……結局、今日は風呂入って御飯食べただけだったね」

「そういえば、そうだな」

「まあ、こういうゆっくりした旅行も良いもの……かな?」

「そうかもな」

「……布団、引いたのあの女将さんだよね?」

「だろうな。トイレに行って帰ってきたらいつのまにか引いてあった」

「……なんか、布団が一つしかないきがするんだけど」

「……うむ」

「……あの人は……一体なに考えてるのよ?」

「もう一つ布団を引けば良いのではないか?」

「んなことできるんなら最初っからやってるわよ……」

「……なぜそれをやらない?」

「押入れの中がいつのまにかからっぽになってるのよ」

「…………(汗)」

「はあ……まったく……」

「……とにかく、寝るか」

「……うん……。でも、変なことしないでよっ」

「? 『変なこと』とはなんのことだ?」

「…………」

「……かなめ?」

「いや、良く考えたらあんたがそんなことするわけないもんね……」

「?」

「とにかく、寝よ」

「ああ……」

ごそごそと二人で狭い布団の中に入る。

「うう、狭い……」

「我慢しろ……電気を消すぞ」

「うん……おやすみ」

「おやすみ」

ぱちっ。

明かりが消され、暗闇が部屋を支配する。

月明かりだけが、うっすらと部屋の中に入りこんだ。

なんていうか、寒い。

「うう……」

「…………」

「……ね、ソースケ」

「……なんだ?」

「……ちょっと、そっち寄って良い?」

「……なぜだ?」

「……いや、寒いから」

「……ああ、構わんが」

「ん。ありがと」

ごそごそとかなめが身をよじらせて、宗介の背中に張りつくような感じになる。

「……あったかい……」

「…………」

「……ねえ、ソースケ」

「…………」

「……寝ちゃったの? まいっか。……あたしさ、たまにこの世界が夢なんじゃないかって思うんだ」

「…………」

「だって、そうでしょ? こんな幸せに暮らしてて、危険な目にはまだ合ったりするけど、ちゃんとあんたが守ってくれて、一緒にいてくれて……」

「…………」

「……なんか、幸せすぎて、たまにちょっと怖くなる」

「…………」

「……いなくなったりしたら、承知しないからね」

「……もう寝ろ」

「……やっぱ起きてた。……うん……おやすみ……」

「……ああ……」

穏やかな寝息が部屋を支配した。

月明かりが照らす中、二つの人影が幸せそうに寄り添っていた……

君と一緒なら。

俺は笑っていられるような気がする。
笑ってこれからを過ごしていけるような気がする。
……君と一緒に。
ずっと笑って生きていこう。
この道が終わるまで、ずっと一緒に生きていこう……
それが、俺の願いと、
君との約束だ。

Fin――

 


あとがき

はいどうもみなさん東方不敗ですー。
はいどうでしたかー? そーかな小説『Smiling With You』。実はこの小説昔ある大会に投稿して見事に敗北したやつなんですよね。で、それを加筆修正――え?

なに? そーてっさはどうなった? 予告と違う?

ああ、そのことですかあ。気にしちゃ行けませんよー、長い人生いろいろあるんですからー。
気にしてたら禿げますよー(笑)。

大丈夫です。次回は、次回こそはそーてっさですから。ええ、多分っ!

それでは、東方不敗でしたー。

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