Please Kiss Me♪ 第4話 by 東方不敗
「ち、千鳥、常盤。何故君たちが……」
「あ、やっほーソースケ。いやー、ちょっと新居ってやつを見てみたくて、迷惑だった?」
「い、いや、そんな事はないと思うが」
「あ、そー。ありがと、ねえ、立ち話もなんだから上がっていい?」
「俺は構わないが、……テッサは……っ!?」
わたしの方を向いたソースケさんがびくっ!? と肩をすくませているのが見えた気がする。だけどそんなことは、どうでもいい。少なくとも、今は。
かなめさん……やっぱり、来ましたね。
まだあきらめてないとは思ってましたけど……まさか、こんな直接的な手段に出てくるとは思いませんでしたけどね。
「ええ、いいですよ。どうぞ、上がってください、かなめさんも、常盤さんも」
「ん、ありがとー」
「えっと、お邪魔します」
とたとたと家に上がるかなめさんと常盤さん。
「へー、外から見ても大きかったけど、ホント大きいわねー」
「ほんとだー。二人ですむだけじゃ随分大きいんじゃない?」
「ええ、まあ……」
常盤さんの言葉に曖昧にうなずく。確かに、二人暮しで3LDKは贅沢ですよね……。メリッサも何考えてるのか知りませんけど……『これでも小さな方よ』とか言ってましたけど……。
「とりあえず、座ってください二人とも。お茶ぐらい出しますよ」
「あ、ありがと」
リビングのソファーに二人を通して台所で紅茶を淹れて持ってくる。
「しかし千鳥、何故君がわざわざこんなところまで……」
「だから、言ったでしょ。新しい家ってのを見てみたかったのよ」
「でも、何にもないですよ」
「そんなことないって。色々ある」
紅茶のカップを渡すとかなめさんが笑いながら言った。
「あ、それでね。ちょっと頼みたい事あるんだけど」
「なんです?」
わたしも座って紅茶をすする。ん、おいしいです。メリッサがお奨めっていうだけありますね。
「今日さ、この家に泊めてくれない?」
「んぐっ!?」
危うく紅茶を吹き出しそうになった。
「テッサ、大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です……。か、かなめさん。泊めてくださいって、あなた家が近くにあるじゃないですか」
「いやー、ちょっと今金髪の変な兄ちゃんが家の周りうろついててね。怖いから帰りたくないのよ」
「き、金髪って……」
その言葉である知り合いの顔が思い浮かんだけど、思い出さなかった事にしておく。
「しかし、千鳥。その程度の暴漢、君なら撃退できると思うが」
「それってどーゆー意味よっ!?」
どばんっ! てかなめさんがテーブルを両手でたたく。あ、紅茶がこぼれそうです。
「す、すまん、失言だ。しかし、わざわざ家に来ないでも常盤の家があるだろう」
「……ソースケ、もしかしてあたし家に入れるのいや?」
急にしょんぼりした声でかなめさんが上目遣いにソースケさんに聞く。
「い、いや、そんなことは……」
「なんかさ、ほら、一人暮らしって、さびしいのよ。家に帰っても、誰もいないし。迎えてくれる人もいない……。だからさ、その……」
「千鳥……」
「かなめさん……」
「ははっ、ごめん、勝手なこと言って。迷惑だよね、やっぱ」
顔を上げて、無理をして笑ったような笑顔を作る。
「そ、そんなことないです」
「その通りだ、千鳥。決して迷惑などではない」
「……ホント?」
「ええ、そうですよ」
「肯定だ」
「……ありがと、二人とも……」
顔を伏せながら言う。ぽたりと紅茶のカップに雫が落ちる。
「じゃあ、いい、かな……。泊めて、もらって」
「もちろんですよ」
できる限りの笑顔でうなずきながら言う。そうだ、一人ぼっちのさびしさなんか自分が一番わかっていたはずなのに。最初になんであんな事を考えてしまったんだろう。
「それじゃ、ちょっとキッチン使わせてよ。夕ご飯はあたしが作るからさ」
「あ、手伝います」
「いいっていいって、やらせてよ」
笑いながら手を振るかなめさん。と、そこで。
ことん、ころころん。
「あ」
「? なんです、これ……」
振ってないほうの手から何かが落ちた。拾い上げて見てみると……
あーっ!?
「か、かなめさん、これってもがっ!?」
「いやー、手伝ってくれるの? 嬉しいわーテッサ。ほら、じゃーキッチンまで二人で行こうかしら、うははのはー」
「もがーっ! もがーっ!」
やっぱり変な事考えてるじゃないですかかなめさーんっ!
「かなめさん、聞きますけど、あなた変な事考えてますね?」
台所に着くなりわたしはかなめさんに詰め寄って聞いた。わざわざあんな物――目薬まで使って、家に泊まろうとするなんてっ!
「へ、変な事って……や、やーね、そんなこと考えてないわよ。せいぜいあわよくばソースケ押し倒して既成事実でも作っちゃおうかって考えてるぐらいで……」
「思いっきり考えてるじゃないですかっ! 大体変だとは思ってたんですよなんかはっきり『諦めた』とか言ってない割には妙に静かだしっ! もしかして最初っからこのつもりだったんですかっ!?」
「だ、だからそんな事ないって。ほら、夕ご飯作るわよテッサ。材料買ってきたから今日は豪華に行くわよー」
片手に持ってたスーパーの袋を掲げながら言う。
「人の話を聞いてくださいっ!」
「はいはい、料理しながらなら聞くわよ。テッサ、このじゃがいもお願いねー」
「ちょ、ちょっと……もう」
何か言おうとして、やめる。はあ、しょうがないです。それに、何言っても帰ってくれそうになんかないですし。
「何作る気なんですか?」
もらったじゃがいもの袋を開けながら横で鍋に火をかけてるかなめさんに聞く。
「んっとね、とりあえず和食でぶりの照り焼きと、あと煮物でもやろうかなって、あ、そのじゃがいもは煮物に入れるのよ」
「へえ、和食ですか。わたしあんまり食べた事ないから楽しみです」
それに、わたしが作れるの洋食だけですし……
「ははは、期待しててねー」
「そうですね、期待します」
しばらく無言になる。じゃがいもの皮をむく音と、かなめさんの口ずさむハミングだけがキッチンに響く。
「……かなめさん」
「ん?」
「ソースケさんのこと、まだ好きなんですか?」
自分が出した声は、思っていたより震えていた気がする。
ソースケさんと付き合う事になったとき、かなめさんに悪気がなかったといえば、うそになる。かなめさんが、ソースケさんのことを好きなのはやっぱりわかっていたから。本人は認めてないけど。でも、だからって、わたしも諦められない。
ソースケさんのことは、大好きだから……
「……好きじゃなきゃ、こんなことやんないわよ」
「でも、わたしもソースケさんのこと好きです」
「わかってるわ。その辺も。それで、ソースケがテッサを選んだってことも。……でもね」
くるっとわたしの方を向いてくる。にやっと笑うと、
「人の気持ちって、変わるもんでしょ?」
「……奪い取るつもりですか」
「ふふっ、まーね。人聞き悪いけど、そーなるわね」
にやりと強気な笑みを浮かべる。ふふっ……
「わかりました。じゃあ、これからもライバルですね」
「ええ、そーね」
「はい、そーです」
「じゃ、煮物にほれ薬でも入れようかしら。そうすれば一発で片がつくけど」
「あ、ダメですよ」
「ふふっ、冗談だって」
笑うかなめさんにつられるようにわたしもふふっ、て笑った。
二人の笑い声がしばらくキッチンに響き渡ってた。
で、一方リビングでは……
「さて、それじゃあたしは帰るね」
「? 千鳥と帰るのではないのか?」
「うん、カナちゃんが一人じゃ行きづらいからって行ってたから付いてきただけだし。それに、これ以上いるとあたしはお邪魔になりそうだしね」
「? なんの邪魔になるというんだ?」
「え? えーっとね……」
宗介の言葉に眉をよせる恭子。ぴっと指を立てると、ちょっと意地悪そうに、
「とりあえず、恋する乙女の邪魔、かな?」
「? なに?」
「なんでもないよ、それじゃ、あたしは帰るけどさ……ちょっと、相良くん、伝言頼んでくれない?」
「? 俺がか?」
「うん、カナちゃんに。えっとね、こういって欲しいの」
宗介にこそこそと耳打ちする恭子。宗介はこくりとうなずくと、
「内容は良くわからんが、そう伝えればいいのだな」
「うん。そうだよ。それじゃね、相良くん、明日は……。学校ないから、明々後日かな?」
「? 何故だ?」
「土曜と日曜は今年から休みでしょ。それじゃね、お邪魔しました」
ばたん。
とまあ、そんなやり取りがありましたとさ。
続く
後書きっていう物体
なんていうか、イマイチです。うー、がんばんなきゃ……(汗)。
ていうかこのごろ微妙にスランプ気味です。うー。