Please Kiss Me♪ 第6話 by 東方不敗
「か、かなめさん、そんな怒んないでくださいよ」
「いいえ別に怒ってなんかないわよえーもう怒ってなんかないんだから」
うう、絶対怒ってます……
さっきからずっとこんな調子です。そりゃあまあ、なんていうか、あんなところで、その……ソースケさんと、キスしちゃったのは、悪いと思いますけど、でも、わたしとソースケさんは恋人同士なんだから、別に、その……
と、とにかく、そんな怒るような事じゃないはずなんですっ。
ちなみに今わたしとかなめさんがいるのは寝室の中。わたしは自分のベッドに腰掛けて、かなめさんはソースケさんのベッドに腰掛けてる。で、ソースケさんは今お風呂。
「とにかく、そんな怒んないでくださいよかなめさん、その、わたしとソースケさんはそーいう関係なんですから、別にそんなことしても変じゃないんですから」
「でも人の目の前であっつ~いキッスをするのはどうかと思うんですけど」
う、そ、それは……
「え、えとですね、アレは、その、その場のノリって言うかなんていうか」
で、でもまあ、確かにあれはやりすぎちゃったとおもうですけど……
「ふ~ん……その場のノリねえ……」
じと~っとした目でかなめさんがわたしを見つめてくる。うう、怖いです……
で、でも、ここで主導権を取られちゃったらヤバイですよね……。ここで調子に乗られたら、ホントにかなめさん何するかわかったもんじゃないですし……だ、大体、あんなことまで考えてるんですよ!?
「そ、そーです、その場のノリです」
「じゃああたしもその場のノリでソースケ押し倒しちゃっても文句はないわよねえ?」
へ……そ、その場のノリって……
「じょ、冗談じゃないですっ! そんなこと絶対ダメですっ!」
そ、そんなことされたら押しの弱いソースケさんの事ですからきっと場の雰囲気に流されて……
…………
ぜ、絶対させませんよそんなことっ!
「か、かなめさんっ、絶対そんなことしちゃだめですからねっ!」
「でも、別にライバルに遠慮する必要はないんじゃないの?」
うっ……た、確かに理屈は通ってますけど……
「で、でもフェアじゃないですっ!」
「フェアってどーいうことよ?」
うっ……そ、それは、だから……
「だ、だから、そーいうことは……互いの気持ちと気持ちがあってこそ初めて成り立つんですから……だから、その……ごにょごにょ……」
「テッサー。顔真っ赤よー」
「だ、誰のせいですかっ!?」
そんなこと言わせようとしたのはかなめさんですよっ!
「あはは。相変わらずねー、テッサは。二ヶ月ぐらい会ってなかったけどさ、全然変わってないわ」
「な、なにがですか……?」
「そんな冗談真に受けちゃうところ」
…………へ?
「じょ、冗談だったんですか今の?」
「うん、半分ぐらいね」
へー……そーなんですかー……って。
「半分はってもう半分は本気ってことじゃないですかっ!」
「あ、気付いた」
「気付きますよふつーはっ! と、とにかくそんなこと絶対しちゃダメですからねっ!」
「別にライバルに気使う必要はないけどね」
「……っ!」
じゃ、じゃあ……わたしがどうにかして阻止してあげますっ!
絶対にそんなことさせないんですから。
その、ど、どんなことをしても、止めてみせるんですからっ!
で、でも……
…………
ぼんっ!
あ~ん、や、やっぱりできませんよあんなこと……どうしたらいいんですかぁ……
そんなこんなでソースケさんがお風呂から出てくる。
「空きましたよ、テッサ、千鳥」
「は、はいっ」
「あ、ありがと、ソースケ」
「ああ。……それで、どちらが先に入るんだ?」
「あ、えっと……。どーしよっか、テッサは?」
「あ、か、かなめさんが先に入ってください。わたしは、後でいいですから」
「? そう、じゃ、先に入らせてもらうわね~」
かなめさんが笑顔でうなずくと部屋を出ていく。入れ替わるようにソースケさんが自分のベッド――ていうかわたしの目の前――に腰掛ける。
いつものざんばら髪が微妙に濡れている。それに、黒のシャツの間から微妙にソースケさんの体が見えて……
どきどきどきどき。
だ、ダメです……なんか意識しちゃう……
「それにしても、一人多いだけでこうもにぎやかになるんですね」
「あ、そ、そうですねっ」
完全にいつもと違う調子で返事をしてしまう。
「……テッサ?」
う、な、なんだか不思議そうな顔してこっち見てる……そりゃそうですよね、絶対今顔真っ赤になってるでしょうし……
で、でも、これだけは言っておかなきゃ……。別に、信用してないってわけじゃないですけど……やっぱり、ソースケさんは、あーいう押しに多分弱いですし……
「そ、ソースケさんっ」
「な、なんでしょう」
「あの……えっと……」
もごもごと口を動かす。ううっ、は、恥ずかしいです……
「その、か、かなめさんが……」
「……千鳥、ですか?」
「は、はい。……かなめさんが、へ、変なことしてきても、その……えっと、な、流されないでくださいね」
「…………は?」
こっちの意志が伝わらなかったらしく、怪訝そうな声が返ってくる。
「だ、だから……。そ、ソースケさん、ちょっとこっち来てください」
「は?……別に、盗聴はされてないと思うのですが……」
「いいからっ、こ、こっち来てくださいっ!」
ぐいっとソースケさんの腕を引っ張って、すぐ近くまで寄ってこさせる。
「だから……その、一回しか言わないから、良く聞いてくださいね。……こういうことです」
ごにょごにょと耳打ちする。
…………
「……わ、わかりましたか?」
「……了解しました。が……」
ソースケさんがちょっと不機嫌そうにわたしのことを見てくる。そして、
「……テッサ。自分は、そんなに信頼できないでしょうか?」
……え?
「確かに、俺はあなたと違ってあまりしっかりしているとは言えません。言えませんが、それほど信頼できないんでしょうか……?」
「ち、ちが……」
「テッサ。俺は、君にとって、そんなに信頼できない存在なのか?」
「ち、ちがう、違うんですっ!」
思わず自分も驚くぐらい大きな声で叫んでしまった。
でも、これだけは、誤解されたくなかった。
信頼してないだなんて、思って欲しくなかった。
「しかし、テッサ。俺は……」
「……ソースケさんっ」
ふっと腰を浮かして。
ソースケさんの唇を、わたしの唇で塞ぐ。
「っ!……ん、んうっ!? ん……」
そのままベッドの上にどさっと倒れこむ。そのショックで唇と唇が離れる。
「テッサ、何を……っ」
ぎゅっ。
「てっ……さ……?」
怪訝そうなソースケさんの声が頭越しに聞こえる。
そんな声を聞きながら、わたしは肩を震わせていた。
「ごめんなさい、違う、違うんです……」
「テッサ……」
「怖かったんです……。ソースケさんが、大切な人がいなくなっちゃうかと思うと、怖くて、それで。考えがどんどんいやな方行っちゃって……」
「……テッサ……その、自分は……」
「……ごめんなさい、わたし、嫌な女ですよね……」
素直じゃなくて。
いつも大切な人をひどい目にばっかり合わせて。
大切なときに、なにもできなくて。
迷惑ばっかりかけて。
大切な人も信用できなくて、立場が悪くなったらこんなお願いなんかして……
……でも。
「でも、わたし、あなたの事、大好きなんです……」
「…………」
ぎゅっ。
手に無意識に力が入ってくる。涙声のまま、必死に言う。
「大好きなんです。だから、嫌いに、ならないでください……」
「……テッサ」
ぎゅっ。
「ぁ……」
背中に柔らかい感触。顔を上げると、ソースケさんが優しくほほ笑んでくれている。
「……大丈夫です。俺は、あなたの事を嫌いになったりはしない。だから……だから、俺の事を信じてくれ。……君に比べたら、確かに俺は弱いが、だが、君のことを裏切ったりは絶対にしない。絶対に……」
「……ソースケさん……」
じわっと、また視界が潤んできた。ぽたぽたと涙が流れていく。
「ひっ……うっ……そーすけ、さぁん……っ!」
「…………」
ぎゅっと、暖かい感触がわたしを抱きしめてくれる。
そんな感触が、嬉しくて、とっても愛しくて……
わたしは、子供みたいに、ちょっとの間だけ泣いた。
続く
後書きっていう物体
どもども、東方不敗です。ここに第6話お送りします~(ぱちぱち)。
にしても、随分シリアスチックになりました、ラストが。でもまあ、テッサならきっとこんな行動を取るんじゃないかと思います。恋する乙女って言うのは不安になるもんですしね。多分ですけど(笑)。
それでは、今度は第七話でお会いしましょう、東方不敗でした~。