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2014.02.20 10:29

救ってあげたいロンリーネイバー 第2話 by モチケン

午後0:03 メリダ島テッサの執務室

「ふぁ……」
左手を口元に添えてテッサはあくびをした。
目じりに滲んだ涙を指で拭う。
昨日は寝ていない。
どうしても片付けなければならない仕事があったからだ。
目の前には秘書が運んできてくれたサンドウィッチと紅茶がある。
テッサは紅茶に少し多めに砂糖を入れてから、レモンをカップに浮かべた。
そして、サンドウィッチを手に取りその小さな口で一口食べる。
「……モグモグ」
ここ数ヶ月、こんな調子だった。
この前の自分自身の暴走事件の始末書に追われ、やっと最近になってそれを片付け、今はそのために遅れた通常業務をこなしている。
休暇はこの仕事が通常のペースに戻ったらとろう。
そうして、休暇を全て使って日本のあの人の元に……。
「………」
そう、思いをはせてからテッサの表情が一気に曇った。
あの人……いや、あの人だけじゃなくもう一人の友人にも迷惑をかけてばかりだ。
そして、あの人達の絆の強さはこの前の事件からも、その前からもずっと強くなっている。
正直、今あの人の顔を見るのは辛い。
あの人をこの基地内で見るたびにあの人の隣にはテッサではなく別の少女が佇んでいる。
どんなに遠く離れていてもあの少女は彼の隣に居る。
実際に彼女はその場には居ない。
だが、直感的にわかるのだ。
隣に居てずっと彼を見守っている。
私はその間に入ることはできない。
入れたとしてもそれは『恋人』ではなく『友人』。
しかし、それを認識してから自分自身に何度も問いかける言葉がテッサにはあった。
『私は彼のどこが好きなんだろう』
彼のちょっとした心遣いや、言葉、行動にいつもドキドキしていた。
自分のことを少しでも想ってくれるように努力をした。
彼を振り向かせるために。
自分を見て欲しいから。
『でも……』
それは、彼じゃなくてもできることではないのか。
わざわざ彼にわかってもらう必要がどこにあったのだろうか。
そうテッサが思うようになったのはレナードに身を委ねたとき。
とてつもない安心感が自分を包み込んだことだ。
そして、いつもは心の奥底にしまっていたものを全て吐き出してしまったこと。
それは、たった一人の肉親というだけではなく一人の異性としてもレナードを認めたこと。
今まで、憎くて仕方がなかった兄を愛するという気持ちが生まれたこと。
それは、バニが身をもって教えてくれたような気がした。
でも、今のレナードを許せることはできない。
そして、レナードの行いを止めたいと切実に感じるようになった。
憎しみからではなく、愛情を持って。
バニもそれを望んでいるような気がした。
「…少しは強くなれたのかしら、私」
誰も居ない執務室の中でテッサはそう呟いた。

午後4:13 TDD-1 ブリッジ

「テロ組織が瞬時に壊滅したのですか?」
ここはTDD-1のブリッジ。
そして、居るのはテッサ、カリーニン、マデューカス、その他のクルーである。
「はい、大佐。ミスリル本部からの通達により戦闘態勢を発令。その後、コールサイン『ウルズ』の特殊部隊が現場に到着したときにはすでに壊滅状態だったそうです」
カリーニン少佐が淡々と報告する。
「信じられないわ。そんなに簡単に壊滅できるほどの規模だったのかしら…」
「いえ。こちらはM9を4機投入しました。かなりの大規模な組織だったようで、それを短時間で壊滅状態にするのはこちらの武装では無理でしょう」
テッサの意見にマデューカスが答える。
「こんなことができるのは『アマルガム』しか、いないでしょうね」
テッサは三つ編みににした自分の髪の毛を口元に持っていく。
「はい。そして、衛星が捉えていた映像がこれです」
大きなディスプレイにその映像が映し出される。
「……戦闘機?」
テッサは見たままの感想を口に出した。
「はい。初めの数分はこの形態で戦闘が行われています。が…」
カリーニンの言葉が途切れる瞬間にその戦闘機が変化を起こした。
「!?こ、これは…」
その戦闘機が変形したのだ。人型に。
「変形可能なASを作り上げるなんて……ナンセンスだわ」
テッサの言う通り、ASに変形機構を取り入れた場合、間接部分のギミックの弱体化、装甲の薄さなど様々な問題が生じる。
「しかし、汎用性は上がります。厄介な敵であることには間違いありません」
カリーニンの言葉にテッサはますます顔を曇らせた。
「そしてこの後、この正体不明のASはECSを使い姿をくらました模様です」
「その後の追跡はどうなんですか?」
カリーニンの解説にテッサがすぐさま反応する。
「ペルシャ湾においてこの可変ASは墜落。その後は消息を絶っています」
カリーニンはそう告げると自分の席に腰を下ろした。
「墜落、ですか?」
「はい。正しくは潜行と言って良いかもしれません。その後はどのレーダーにも感知されていません」
テッサの言葉にマデューカスが答える。
「潜行?」
マデューカスの言葉にテッサは怪訝な顔をした。
「衛星からの映像だけでは確定はできませんが、墜落なら機体の残骸が何らかの形で海面に浮上してくるはずです。しかし、見たところそれがないのです」
「確かにそうですね……」
マデューカスの言葉にテッサは納得した。
「……調査に向かいましょう。幸い海に墜落したのですもの。TDD-1で向かえばすぐです。ウルズ小隊を回収の後、現場に向かいましょう」
『アイ、マム』
テッサの提案にその場に居る全員が了承した。

午後4:32 アフガニスタン国内

『ソースケ!撤退だってよ』
哨戒任務にあたっていた宗介の元に同じく哨戒任務を共にしていたクルツから連絡が入る。
「むっ、そうか…」
その言葉を聞いても宗介は気を緩めない。
『クルーゾーのおっさんとマオ姐さんの方も俺達に合流するってさ』
宗介とは正反対に完全に気を緩めた口調のクルツ。
といっても、彼の口調は気を緩めようが緩めなかろうがあまり変わらない。
「しかし、情報ではたった1機のASがここを壊滅させたらしいな……」
宗介は現場の惨状を見てそう呟いた。
『確かに、んなこと言ってたな。まったくたいしたASだなソイツは』
ふざけた口調で言うクルツ。
しかし、表情はふざけてはいなかった。
わずか数分の間でこれだけの規模の基地を壊滅状態にするのは難しい……いや、普通のASなら絶対に不可能である。
『こりゃまたお前とアーバレストの出番が近いんじゃねぇのか?』
「あぁ、俺もそう思っていたところだ」
宗介の乗るAS『アーバレスト』はクルツやマオが乗るAS『M9』とは比べ物にならない力を持っている……いや『積んでいる』と言ったほうがいいだろうか。
『ラムダ・ドライバ』
パイロットの意思により、何らかの力場を発生させるその装置は通常では考えられない作用を発揮する。
その装置により宗介やミスリルの面々は数々の修羅場を体験していた。
『あ~あ、まったく無駄足かよ。さっさとメリダ島に帰ってゆっくりしたいぜ』
クルツが不満を込めた言葉を紡ぐ。
『ほら、ぶつぶつぼやいてんじゃないよ。さっさと輸送機まで歩きな!』
「マオか…早かったな」
クルツに罵声を浴びせるマオに向かって宗介が声をかける。
『まぁ、哨戒って言っても歩き回るだけだしね。クルーゾー中尉には先に輸送機に行ってもらったよ』
「なぜ一緒に行かなかったのだ?」
マオの言葉に宗介が不思議そうな顔をする。
『クルツを急かせろっていう中尉殿直々の命令を承ってきたわけよ、あたしは』
もう、ウンザリといったような風にマオが言う。
『へ~、うれしいな~。姐さん直々のお出迎えとは♪宮崎アニメオタクもたまにはいいこと言うじゃん♪』
クルツが浮かれ口調言う。
『……あんた本気でいってんの?』
マオの額に怒りマークが浮かぶ。
「下らん話はそれまでだ、マオ、クルツ」
その二人の仲裁という形で宗介が言葉をかける。
『あとで、楽しみにしときなよクルツ。さっきの会話、クルーゾー中尉にも聞かせるからそのつもりでいな』
『げぇ!姐さんそれだけは……』
マオの言葉にクルツの口調が変わる。
『何の話だ曹長』
そこに先に輸送機についていたクルーゾーが声をかける。
『あとでちょっと話があるのさ。それだけ』
『ね、姐さん…』
『ふむ、了解した…』
マオの言葉に素直に頷くクルーゾー。
しかし、TDD-1に帰還した後の彼の行動は言うまでもなくクルツの抹殺であったことをここに書き留めておく。
「どうしたのさ、ソースケ?」
輸送機にASを収容した後、ターボプロップ機の窓から離れていく地上をじっと見つめていた宗介にマオが話し掛けた。
「……いや。任務中、何者かにずっと見られているような感覚があったのだが、気のせいだったようだ」
話し掛けてきたマオに向かって宗介はそう答えた。
「見られていた……ねぇ。気のせいだろきっと。あんなところにお前に思いをはせる女の子なんて一人も見なかったぞ?」
宗介とマオの会話に割ってはいるクルツ。
「はいはい、よかったわね、おめでとう」
そのクルツをマオが冷たくあしらう。
「なんだよ、姐さん。冷てぇなぁ…」
そんなやり取りをよそに、クルーゾーは自分で編集した『宮崎アニメ音楽集~愛と友情の物語編~』に聞き惚れている。
「……気のせいであればいいのだがな」
宗介はそんな機内で一人呟いた。

 

午後4:57 アフガニスタン国内 テロ組織跡

宗介たちがここを離れた後、一匹の銀色のカブトムシがその場から飛び立ち、海に向かって飛んでいったのを誰も見たものはいなかった。
そう、誰も。

続く


あとがき

どうも!モチケンこともっつぃ~です!
現在4月14日0:30ジャスト!
ここに『救ってあげたいロンリーネイバー』の第2話が完成しました!(ドンドンパフパフ♪)
今回はやっとフルメタルパニックに出てくるキャラが登場しましたねぇ。よかった、よかった(汗)。
んにしても、本当に暇なのよね~。だからこうやって小説書けるんだけどさ(笑)。
そして、足が治りません。入院が延長されました(大涙)。
あ~あ、このままどうなるのやら私。まさにこの小説とおんなじ立場に立っています(えぇ)。
ちなみに『ロンリーネイバー』は孤独の隣人と訳しますのでご了承の程を(突然だな)。
それではみなさん!第3話で会いましょう!
では~♪

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