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2014.02.20 10:31

救ってあげたいロンリーネイバー 第5話(未完) by モチケン

PM8:38 メリダ島

―――ォォォォォォ……―――
暗闇の中を一台の車が走る。
もちろんライトはつけていない。
暗視ゴーグルからの情報を元に深い森の中を突き進む。
「むぅ……むぐぅぅぅ……」
後ろの席からはそんなうめき声が聞こえてくる。
といっても、車が走る音と後ろからの銃撃の音によってほとんどがかき消されているが。
―――タタタタンッ! タタタタンッ!―――
断続的に聞こえてくる銃弾の音。
「やはり、対応は早いな……」
彼はそう呟くとハンドルを思いきり切った。
―――ごちんっ―――
「ふにゅぅ……」
景気のいい音が響いて後ろの荷物が情けない声を出す。
「おっと。すまないな。もう少しの辛抱だぜ、お姫様」
前方を向いたまま彼は後ろの荷物にそう声をかけた。
「キャナル。あとどのくらいだ?」
今度は真剣な口調でヘッドホンのマイクに向かって声をおとして話す。
『あと1200です』
女性の声がそう答えた。
「ふむ。予定通りかなっと」
またもやハンドルを大きく切る彼。
―――ごつ―――
「みゅぅ……」
後ろの荷物は涙目になりながらも彼をバックミラー越しに睨む。
「そう、怖い顔するなよ。もうすぐで着くからな」
―――バラララララララッ―――
背後から迫るローター音。
「ち。もうヘリが来やがったか」
AH-64E。世界最高峰の戦闘ヘリであるロングボウ・アパッチの改良版だ。
相手の最高速度365km/h。振り切ろうとするにはあまりに分が悪すぎた。
「<キャナル>」
《はい、マスター》
「撃て」
――チュガガガガガガガン!!――
突如アパッチに砲弾が降り注いだ。
1km先で待つ<ゲイボルグ>からの狙撃だった。
<キャナル>は『走りながら撃つ』などといった複合動作ならともかく、単純な射撃程度なら無人でも危なげなくこなすことができる。
もとより援護用の砲台として活用することも考えていた。
十数発のAPFSDSをまともに喰らったアパッチはそのまま空中で爆発し、夜空を朱く焦がした。
暗視ゴーグルを外して一瞬だけ後ろを振り返る。
(すまんな……)
脱出する暇を与えられなかったことをヘリのパイロットに心の中で謝罪した。
後ろから吹き付ける熱風に顔をしかめながらも、彼はさらにアクセルを踏み込んだ。

同時刻 ジープの後席

(なんてことなの……。まさか、こう簡単にさらわれてしまうなんて……)
例の部屋からの出来事からここまでにいたるまでそう時間は消費していなかった。
(しかも、ひどい運転……)
さきほどから何度頭をぶつけたことか…。
だが、何故か恐怖というものをさほど感じていないのは何故だろうか。
さきほどの部屋での一件では膝が震えるほどの恐怖があったというのに。
(おかしいわ……)
テッサは今の自分に疑問を持った。
確かに、1度はさらわれているのだ。
だが、それで慣れたというわけでもない。
あの時は恐怖でたまらなかった。
ただ千鳥かなめがそばにいて、自分のように怯えない理由を問いただしただけだ。
『どうかな?もちろん怖いんだけど何て言うかそう言うものが目の前に出てくると反撃したくなるし あたしをへこませようとして迫ってくる敵ってやつ? あーいう鉄砲持ってる連中だけじゃなくってね 普通に暮らしてても敵っているじゃない? そーいう敵がきたらどーにかするしかないでしょう? たぶんあたしはそういうのりでやってるんじゃないかな?』
彼女はそう言った。
すごいと思った。
自分ではそんな風には考えられなかった。
でも、彼女の言葉を聞いて恐怖が消えたのは確かだ。
彼女にはそう言う特質があるような気がする。
そんな特質……。
(この人にも? それとも……)
『私と同じ……』
テッサはそんな考えを頭の中でめぐらせながらバックミラー越しに見える彼の顔を見ていた。

PM8:48 格納庫

格納庫はスクランブル状態にあった。
さきほどヘリが追跡のために出動していったところだ。
(自分の失態だ……)
宗介はそのことで頭がいっぱいだった。
侵入者の存在にいち早く気付いていたにもかかわらず、彼の判断によって発見は遅れ、結果としてテッサがさらわれてしまったのだ。
―――ガンッ!―――
思いっきり近くのコンテナに八つ当たりをした。
「ソースケ! そんなところでなにボーっとしてるの!」
顔を上げると同僚である、メリッサ=マオ曹長がそこにいた。
「出撃命令が出てるのよ。早く持ち場に行きなさい」
彼女の言葉の節々に焦りが見て取れる。
それはどの人物にも言えることだ。
今までに例にないことにいくらプロフェッショナルの集団でさえ戸惑うものだ。
ましてや、彼女はテッサの親友であり、姉のような存在でもある女性だ。
「……マオ、俺は」
―――パンッ!―――
マオの平手が唸った。
「あんた、何も変わってないの? 前も同じように悩んでいたことがあったわね。その時から何も成長していないのって聞いてるのよ!」
マオの口調はキツイ。
しかし、正論だ。
「……」
はたかれた頬がひりひりと痛む。
「……そう、ならそこでボーっとしてな。あんたみたいな腑抜けに戦場に出られても迷惑よ!」
マオはそう怒鳴り散らすとその場を去っていった。
「やれやれ、姐さんもキツイなぁ、おい」
「……クルツか」
マオと宗介のやりとりを見ていたのか、後ろからの声はクルツが発したものだ。
「だがな。今回は俺も姐さんと同意見だぜ。失敗したらとり返せばいい。ただそれだけのことからお前は逃げるのか?」
クルツの瞳は真剣だった。
「……そうだな。とられたものはとりかえせばいい……」
「そう。簡単なことさ」
クルツが宗介に向けてウインクをする。
「さ、行こうぜ。テッサの救出に」
「あぁ」
友人たちの言葉に励まされ宗介は重い腰を浮かせた。
(きっと彼女も同じことを言うだろうな)
そんな考えに自然と口元に笑みがこぼれる宗介。
「な~に、笑ってんだよ」
その表情に気付いたクルツが宗介の頭を小突く。
「いや。なんでもない。クルツ、感謝する」
宗介は同僚の気遣いに感謝し、礼を述べた。
「お、おぅ。いいってことよ」
背を向けて歩いてゆく友に向かってクルツはそう答える。
「あいつが、笑うとはな」
クルツはそう呟くと自分の持ち場へと歩いて行く。
その時……。
『正体不明のAS出現! 不可視モードのECSを搭載している模様! 繰り返す、正体不明のAS出現! ASは出動態勢に入れ!』
「ちぃ、なんてタイミングだ」
クルツは駆け出した。
自分の愛機が待つ場所へと。

同時刻 メリダ島森の中

「いったい、どうやって逃げるつもりなの?」
猿轡が振動によってとれたのか、テッサが後ろから彼に声をかけた。
「ん? 気になるのか?」
彼は変わらぬ表情で彼女の問いに答えた。
「当たり前でしょう。この島から脱出するなんて不可能に近いわ。諦めておとなしく投降しなさい」
テッサは気丈にも彼に降伏を促したのだ。
「投降ね……。どちらかというとあんたらに降伏して欲しいけどな、俺としては」
彼はそう言うと車を横滑りさせて停止する。
「ど、どこに……」
その振動に目をつぶっていたテッサの体が持ち上げられる。
「きゃあ!」
突然の出来事に驚きの声を上げるテッサ。
「さ、着いたぜ。ここからがお楽しみだ」
彼は茂みの中へとゆっくりと歩いていく。
「こんなところで、なにを……」
肩に担がれているテッサは疑問に思ったことを口にした。
「おいおい、俺が何の算段もなしにこんなところに逃げ込んだとでも思っているのか?」
テッサの頭は背中に回されているため、彼の表情は見ることができないが口調は笑っている。
「いったい何を……」
彼が空中で拳を振るうと、コンコンという金属を叩く音が返ってきた。
そこには確かに不可視の何かが存在していた。
あの独特のオゾン臭こそしないものの、それはまさしく……。
「ECS……」
「そういうこと。ちょっと狭いが我慢してくれ。お姫様」
彼は姿の見えぬ何かによじ登っていく。
「アーム……スレイブ」
彼女のその言葉と共にハッチが開かれる。
その中に滑り込むように入る彼。
「っと。お姫様はその辺で寝ててくれ」
彼は操縦席の真後ろに仮設した座席にテッサを下ろす。
「な、なんなの、これは……」
テッサの目が大きく見開かれる。
そう、テッサが驚くのも無理はない。
そこにはマスター・スレイブ・システムが存在していなかったのだから。
その代わり、壁面は角型のモジュールで埋め尽くされていた。
パイロットシートとおぼしき中央の椅子の上には透明なカバーがあった。
規模こそ違うが、これとよく似たものをテッサは知っていた。
「……まさ、か」
テッサの額を冷たい汗が一筋流れる。
そこは<ダーナ>の心臓部――『聖母礼拝堂』を髣髴とさせた。
それが意味することは一つだった。
「そう。このASの制御系はTAROSだ。厳密に言えばアームスレイブじゃないってことになるな」
彼はそう言いながらテッサを仮設シートに固定すると、自らはパイロットシートにもたれかかった。
「それじゃ。また後でなお姫様」
物理的に距離が離れるわけでもないのに、別れの言葉を言うというのはなんとも妙な話だと思っって苦笑した。
彼を包み込むように透き通ったカバーが被さっていく。
―――ィィィィィン―――
淡い光と電子音。
『お帰りなさい、マスター』
そして女の声。
(ただいま)
彼は心で返す。
『これからどうなさいますか?』
AIの言葉に彼は……。
(Search and Destroy)
そう答えた。

PM8:59 メリダ島森中

『どこだ、いったいどこに…うぁぁぁぁぁ!』
『テイワズ3、被弾。脱出する。ちくしょう、どっから撃ってきやがった!』
『なっ!? ローターが……上か!? 駄目だ、堕ちる!』
先ほどから聞こえてくる仲間の通信に宗介は顔をしかめた。
「どういうことだ。通信から推測すると相手は姿が見えないというのか……」
もちろん、愛機であるアーバレストを全速力で走らせながらである。
『どうだろうな。だが油断できない相手ではある。単身この基地に牙を剥くようなやつだからな』
宗介の言葉を聞いていたのか、ウルズ1―――クルーゾー中尉がそう返す。
『こちらウルズ6。狙撃ポイントに到着した……なんなんだこりゃ』
「どうした? クルツ」
クルツのもらした言葉に宗介が反応する。
『どうしたもこうしたもねぇ。ヘリが次々に爆発してやがる。だが敵影はまったく見えねぇ……』
「!?」
彼の言葉に各員の驚きの声がもれる。
『ちゃんと確認しているのか? ウルズ6!』
焦りと苛立ちの混じったクルーゾーの叱咤が飛ぶ。
『当たり前だ! 冗談でこんなことが言えるかよ!』
クルツの声にも焦りが混じる。
―――姿の見えぬ敵―――
『ECCSに反応は?』
沈黙を破ったのはマオだ。
『……ない。まったくどうなってやがんだこれは!』
ついに怒鳴り散らすクルツ。
「クルツ落ち着け。クルーゾー中尉。俺が先に先行します」
宗介はそう言うと機体のスピードを上げ隊から離れていく。
「まてウルズ7! 勝手な行動はゆるさんぞ!」
しかし、宗介はアーバレストを走らせた。
見えぬ敵に向かって。

PM9:02 同場所

(……ASが来るか)
彼――<ゲイボルグ>は1機のASの存在を捉えていた。
『AS1機接近中。あと20秒後に射程圏内に入ります』
(……後方にもASが6機。M9か。しかし、この先行してきたASは……)
明らかに識別信号がM9のそれと異なっている。
(ラムダ・ドライバを搭載したASか……)
『……………』
外で女がわめいている。
きっと、今の自分に対してのことだろうがそんなことを気にしている余裕はない。
(あとで文句はきっちり聞いてあげるよ、お姫様)
彼は心の中で笑う。
(しかし、妙なものだな)
盲滅法に放たれるアパッチのチェインガンを避けながら彼は思う。
(今まで、このような仕事をしてこなかったわけではないが……)
なぜ、こんなにも心が浮きだつのか。
戦闘を楽しんでいると解釈することもできるが……。
(それだけではないような気がするのは気のせいだろうか……)
『マスター、敵ASが射程圏内へと侵入しました』
自分の考えを遮るようにAIの声が響く。
(来たか……)
彼は最後のアパッチのテールローターを右手で握りつぶす。
そして、ゆっくりと敵ASに振り向いた。
(時間切れか……)
月の光に照らされる鮮緑のボディがあらわになる。
ステルス性を重視した鋭角的なデザイン。
M9と比べるとあまりに大仰なシルエットを持つそれは、さながら有翼の悪魔のようだった。
ゆっくりと<アーバレスト>の方へ歩き出すと、背中から生えていた2本の角が欠落し、音を立てて地面に突き立った。
戦闘機動時のECS稼働によって空になったコンデンサーを切り離したのだ。
これでもうECSは使えなくなったが、さりとて大きな問題でもなかった。
格闘戦に際し、重りを捨てた程度にしか思っていない。
(さぁ、始めようか……)
心地よい風が彼の体を抜けていく。
(ふ…ぅ……)
弾切れになったアサルトライフルを投げ捨てる。
(さぁ……始めようか!)
彼はそう叫ぶと、腿のパイロンから飛び出した単分子カッターを握り締め、<アーバレスト>目掛けて跳躍した。

 

続く


あとがき

いぃーい。戦闘だぜ~。
というわけで、もちです。
っていっても、実際の戦闘シーンは次のお話なんだけどね(苦笑)
ま、それなりに主人公とテッサの心境とか、何気に宗介の心境とかを書きたいな~とか思って、こんな風に長くなってしまったデスよ。
ま、次回はいよいよオリジナルASであるゲイボルグとアーバレストの戦闘シーンがメインっす。
というわけで今回はこの辺で~。

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