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2014.02.20 10:34

桜の咲くころ by ともやん

「この場所に足を運ぶのは何回目だろう。
あの日のことを思い出したくてあの日の君に会いたくて
俺は気がつけば毎年ここへ足を運んでいた。」

「桜の咲くころ」

相良宗介は毎年この時期。桜が満開になるこの季節。
仕事の合間を見つけては日本へやってきていた。
目的は桜の花を見るために。
そして彼女と始めて話をした桜の木の下で彼女のことを一人思い出していた。

宗介は駅のホームのベンチに腰をかけ
停車する電車の中から懐かしい制服を着た少女たちが
楽しそうに話しながら降りてくる姿を見ていた。

宗介はそんな女の子たちの姿をみて昔のことを思い出していた。
『自分もあんなふうに普通の高校生をしていただろうか?
あの頃の自分はただ彼女を守ることで精一杯だったような気がする。』
そんな自分の姿を思い出して空を仰いだ。

電車が発車し、人が入り口へと流れていき人影が少なくなった頃
宗介を呼ぶ声が聞こえた。

「ソ・・・・・・・スケ?」

宗介は声の聞こえる方へと視線をやった。

「千鳥?」

一瞬時間が止まったように宗介はその声の主を凝視した。

「あんた、どうしたの?なんでここにいるの?」

声の主はただ驚くばかりで――――少し声が震えていた。

「君こそこんなところで何をしている?」
「何をって、あたしはマンションへ帰るところよ。
そんな事よりあたしの質問に答えなさいよ。あんたこそ日本を離れたんじゃなかったの?
なんでこんなところにいるの?」

宗介はどう答えたらいいかわからなかった。
まさか、ここでまたこんな風にかなめと会うなんて想ってもいなかったからだ。

桜を見にきてたんだ。」
「桜?」
「そうだ。俺は毎年、ここへ桜を見に来ている。」

そして2人は桜の花を見上げた。

「なんでわざわざこんなところで桜なんか見てんのよ。」
「俺はここの桜が好きなんだ。」
「好きだ・・・ってこんなところの桜じゃなくてももっと他にきれいなところがあるじゃない。」
「それもそうだが・・・でもここが気に入っている。」
「あんたって相変わらず変よね。」
「そうか?」
「そうよ。」
「あたしだったらもっと桜が満開に咲いている公園にでも行くけど。」
「君はそうなのかもしれないが俺はここが気にいっている。」

かなめはきょとんとした顔で宗介を見た。

「こんなところが気に入ってるの?」
「そうだ。」
「またなんでこんな駅のホームの桜なんか・・・・」

かなめはまた桜を見上げた。
そんな姿をみて宗介はポツリと小声でいった。

「たぶんここは俺にとってとても大切な場所だからだ。」

小さな声でもかなめには宗介は何を言っているのかちゃんと聞こえていた。

「大切な場所?」

かなめは不思議そうに宗介に聞き返した。

「そうだ。」

そして宗介はかなめに今まで思っていた自分の考えを話し出した。

「君は覚えているか?
君を護衛してから初めてここで君と話をした日のことを。
きっとあのときから俺の心は君にとらわれていたのかも知れない。」

宗介の口からこぼれた言葉にかなめはただ驚くしか出来なかった。

「君とここで暮らし、戦い、守り、護衛をして・・・・・いろいろな君を見てきた。
そして、俺は少しずつ人間としてかけてた気持ちを手に入れることが出来た。
あの時の任務がもし俺ではなくほかの誰かであったら・・・・
もし、任務を放棄して日本に行くことを承知していなかったら
きっと俺は戦うことしか知らないバカな人間でしかなかったに違いない。」

宗介は桜の木の下であの頃のように立っているかなめを見つめていた。

「君と別れてから俺はいろいろと考えた。
なぜあの時君の手を離してしまったのか俺はただ後悔するしかなかった。」

宗介は心の内を淡々と語った。

「じゃ、なんで私が止めるのを無視してあんたはメリダ島へ戻ったの?」

かなめはポツリと言った。

「あの時の俺は君を幸せに出来る自信がなかった。
あのまま俺がここに残ることで君には迷惑をかけることしかできないと思った。
だから俺はあの時、ここを離れることを決意したんだ。」

「じゃ、なんで戻ってきてたの?」

 

「戻ってきたのではない。ただ、俺はここにくればあの頃の君に会えると想い
毎年ここへ足を運んでいたんだ。」
「毎年?」
「そうだ。
あの時の君の笑顔が忘れられなくて
あの時の君の言葉が忘れられなくて
俺はあのときから一歩も動けないでいる。」

宗介は風に舞う桜の花びらの中にあの頃と変わらず立っているかなめを見つめていた。

「君はあの時俺に言った言葉を覚えているか?」
「あたしがソースケに言った言葉?」

かなめは首をかしげ聞き返した。

「そうだ。」
「君が俺の話を聞いていってくれた言葉だ。」
「そんな言葉もう随分前だから忘れたよ。」

いや、かなめは忘れてはいなかった。
あの時宗介に言った言葉をはっきりくっきり覚えていたのだ。
でも、あえて自分の口からは言わなかった。

「じゃ、ソースケは覚えてるの?」

かなめは宗介に聞き返した。

「あぁ。」

宗介はぶっきらぼうに返事をした。

「あたし、あんたになんて言った?」
「あの時、あの時君はこういった。
『あんたのことわかってくれるいい人が見つかるといいね』っと。」

宗介は目の前に立っているかなめに向かって言った。
かなめの姿はあの時のままで桜の花が舞う中、宗介の目の前で
髪をかきあげ宗介を見ていた。

「ちゃんと覚えていたんだ。」
「あぁ。」

2人はしばらくの間黙り込んだ。

「あの時の俺は君のその言葉の意味がどういうことなのか理解できていなかった。」
「じゃ、今は?」
「今はわかるような気がする。」
「そうなんだ。」
「あぁ。」
「そっか・・・・じゃ、ソースケそういう人見つかったんだ。」

そしてかなめはまた宗介から視線をはずし桜の木を見つめた。
宗介はかなめの後姿に向かって返事をした。

「あぁ。」

かなめは宗介を見ようとはしなかった。

「うまくはいえないが多分俺はその人に傍にいて欲しいと想っている。」
「ふ~ん。じゃその人のこと幸せにしてあげなさいよ。」
「もちろんそうするつもりだ。
だから俺は今こうやってここへ戻ってきている。
いつか、また君にここで話をすることが出来たら君に伝えたいと想っていた。」

宗介はベンチから立ち上がりカナメの隣へと向かった。

「千鳥。」
「なに?」
「俺はあの時君の言葉を聴いて一瞬想ったことがあった。」
「・・・・・・。」
「心のどこかでそれが君だったらいいのにと――――だ。
でも、あの時の俺はその意味が自分自身でも理解できていなかった。」
「じゃ、今は?」
「今は、ほんの少しだがわかるような気がする。」

かなめは何も言わずただ宗介の話を聞いていた。

「今の俺はあの頃に比べると少しぐらいは君を幸せに出来る自信がある。」
「少しだけ?」
「・・・・・・・。」
「あのね、あたしはあんたにはじめから幸せにしてもらおうなんて想ってないわよ。
あたしは少しなんて嫌よ。あんたは何もわかってない。
あんたがあたしを幸せにするんじゃない。
あんたがあたしを幸せにできるわけないじゃない。あたしがあんたを幸せにするのよ。」
「千鳥?」
「何よ。」
「俺がいなくなった事を怒ってないのか?」
「怒ってるわよ。」

かなめはそういって宗介を睨んだ。

「あんたはバカよ。あたしを幸せにする自信がない?迷惑ばかりかける?
そんなのはじめから百も承知なのよ。
あんたはあたしに幸せにしてもらえばいいのよ。
余計なこと事を考えないであんたはあたしの傍にいればいいのよ。」

そういってかなめは宗介の袖の裾を握った。。

「すまない。」
「なんで誤るのよ。」
「君には寂しい想いをさせてしまった。」
「もういいわよ。時間はかかったけどあんたはここに戻ってきたんだから。」

かなめは桜の木を見上げた。

「これからどうするの?」
「2~3日は日本にいるつもりだ。」
「あっそ。じゃ、これからあたしん家来る?」
「いいのか?」
「いいに決まってるじゃない。久しぶりに夕飯一緒に食べよ。」
「そうだな。」

そういうと2人はホームを後にした。
つないだ手がほんのりと暖かくて今まで離れていた時間を
少しずつ少しずつ埋めようとしていた。

2人は言葉には出さなかったが

「来年も再来年も君と一緒にこの桜を見れればいいな。」

っと心の中で想っていたのだった。

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