ある日の夕飯 by ドイワー
至って普通な夏、気温もさほど高くはない日だ。時計の針は夜7時を示している。
そして自宅のキッチンの奥で片手にナイフを持ち、なべの前で脂汗を流す男がいた。その男の名は相良宗介。
「・・・・・・」
無言ではいるが間違いなく彼は焦っている。普段はそっけない食事で済ます彼にとって本格的な自炊はほとんど体験したことのない、いわば未知の領域である。そもそも何故彼が自炊などしているのか。
それはさかのぼる事今日の昼食時――――――――。
「ソースケ!あんたまたその食事なの!?」
いきおいよく人差し指を突きつけしゃべりかける女子生徒、千鳥かなめである。そしてその指先には片手にナイフ、そしてもう片方の手にはナイフを装備し、昼食を取っている宗介の姿があった。
「この食事に問題はない。基本的栄養素は取れている。また価格も安く君が今もっているその焼きそばパン一個を買う資金があれば・・・」
「そういう問題じゃない!」
「・・・・・・・・・?」
今一体何故自分が怒鳴られているのか全く宗介には理解できない。この食事に何か問題点があるかどうか彼は即座にチェックし始める。そして出た結果―――『ない』である。
「千鳥、俺には君が今なぜ怒っているのかがいまいち理解できないのだが・・・」
「直接いってやるわよ!もっと『人間らしい食事』を取れって言う事!」
「人間らしい食事・・・?」
「そう!そんな得体の知れない肉とトマトの繰り返し・・・食は人間の至福の一つ!もっと美味しいものとか珍しいものとか食べようと思わないの!?アンタがそういうの食ってるとこっちの食欲も無くなってくるのよ!」
その言葉を聞き、若干宗介は考えこう言い返す。
「千鳥、それは君の大いなる偏見だ。」
「・・・・・・・は?」
「君は今『人間らしい食事』といったが俺から言わせればこの食事は十分に『人間らしい食事』に値する。
昔、とあるジャングルの奥地で食料が尽きたときなどはだな、」
そこまで言いかけたときかなめのハリセンが宗介の後頭部を直撃した。
「 だぁかぁらぁ!!何だってアンタはいっつも国の枠を取った考え方するのよ!ここは日本なの!!
そこら辺に地雷もなけりゃ、小型拳銃装備してる奴もいないの!ジャングルの奥地と学校を一緒にするな!」
そういい終えるとかなめはこれぞとばかりに、もう一発ハリセンをお見舞いする。
「むぅ・・・千鳥、前から聞いているがそのハリセンは何所から・・・」
そう言った時にはすでにかなめのエルボーが宗介の顔面に炸裂していた。
「カナちゃん、今日はやけに手が出るの早いね。」
「う・・・・」
痛いところを突かれたといわんばかりにかなめはその発言者、常盤恭子を凝視する。
「とぉにかく!ソースケ!これからはもちっとマシなもの食べなさいよ!」
「了解した・・・」
そういうとかなめは教室を出て他のクラスへ行ってしまった。
(しかしさて・・・どうしたものか・・・)
了解したものはいいがいまいち宗介にはかなめの言った事が想像できない。自分自身今の食事になにか不満があるわけでもない。ましてや部外者の彼女が何故・・・
「相良君、もしかしてカナちゃんの言いたい事理解できなかったとか?」
突然常盤が顔を出す。
「うむ・・・俺にはいまいち理解できんのだ・・・」
「カナちゃんはね、相良君に手料理食べてもらいたいんだよ。きっと。」
「手料理・・・?」
思い当たる節があるのか宗介は今朝のかなめとの会話を思い出す。
「ソースケ!ボルシチって知ってる?アレ私作り方覚えたんだ!」
「ボルシチか・・・知ってるには知っているが・・・・」
ボルシチというと宗介はふとカリーニン少佐を思い出し。
「あの料理は好きではないが・・・・それがどうかしたか?」
「・・・・・・いや、別に。」
そういうとかなめは小走りに行ってしまったのだった。
「まさか・・・そういうことだったのか?」
「そういうことだよ、きっと。」
常盤には宗介が何を考えたかは分からないがきっと思い当たる節があるのだろうと思った。
その証拠に宗介のこめかみには若干汗が出てきている。
「今日、カナちゃん家行ってみれば?もしくは自分で作るとか。」
「・・・そうだな。」
そして夕方、宗介はかなめの家を訪ねたのだが・・・・
「ボルシチはあまりお好きじゃないんじゃないの?残念だけど私はこれからプライベートな時間を過ごすから。
じゃぁね。」
と、言われ扉を閉められてしまったのである。
「・・・まずったか・・・?」
鈍感といえど宗介には観察力がある。いましがたのかなめは間違いなく不機嫌だった事が分かる。
そしてこうなると自分とは話さなくなる事も体験済みだ。そう考えていると唐突に常盤の言葉が脳をよぎった。
(自分で作るとか。)
「・・・」
その後宗介は買い物に行き帰ってきたときには料理の本やその食材らしきものが手にあった。
そして今宗介はある意味あの巨大化け物ASと戦っときの以上の窮地を迎えているかもしれない。
『鍋に切った材料を入れ沸騰するまで待ちましょう。』
本にはそう書いてある。しかし宗介にはどうもその文章に信憑性を感じられなかった。
(・・沸騰するまで待つだと・・・おかしい。前にかなめにご馳走になったときかなめは短時間のうちに作り上げていた。と、すると・・・これはいったい・・・?)
ちなみにそのときかなめがご馳走してくれたのは単なる玉子焼きだが今現在宗介が作ろうとしているのは事もあろうに『ミネストローネ』である。また微妙なところを・・・
(まさか・・先ほど入れた材料のなかに一定以上の温度を越えると爆発する敵の新兵器でも・・・!?考えてみればこの本を購入した店のあの店員の態度・・・ク、これは罠か!?)
そう考えた矢先、鍋の中の液体がぷわっ、と膨れその一滴が宗介の頬に当った。
「~~~!!」
気がつけば鍋に粘土のような物を取り付け急いで玄関のドアをぶち破りかなめの家のドアをもぶち抜いた。
「!?な、なによソースケ!」
「急げ千鳥!ここは危険だ!もっと安全な場所へ・・・」
「ちょ、ちょっと!話が見えないんだけど・・」
「先ほど俺が自炊をするために集めた材料の中に敵の新兵器が混入していた。恐ろしいものだ。突然鍋の中で暴発し中の液体を飛散させた。」
「・・・・・・ハァ?」
「あのままだと爆発する。爆発力が計り知れないうえいつ爆発するか分からない。なのでこちらから爆発させ被害を最小限に抑える事した。」
「・・?ってつまり・・」
「プラスチック爆弾を使用する。時間が無い。かなめ伏せていろ!」
「いや・・だからそれは勘違いだって・・やめなうわっ」
かなめの体は半ば強引に宗介によってうつぶせの形にされた。その後けたたましい爆発音と共に宗介の部屋のキッチンだった部分は全壊していた。
「任務完了・・・!?」
そういい終えた直後かなめのハリセンが火を吹いた。
「千鳥?いったいなにを・・」
「それはこっちのセリフじゃあああああああああ!!!!!」
その後かなめは大家への説明と宗介への説明に約一時間ほどの時間を要した。
「つまりは・・・俺の早とちりと。」
「それ以外に何があるの!!」
「いや・・てっきり敵の新兵器かと・・・とある話では某国の役人がファーストフード店で軽い食事をしていたところその中に高性能の小型爆弾が混入されていたという話も・・」
「だから国の枠を外した意見を言うなあああああ!!!」
そしてかなめのハリセンが火を吹いた。
「う・・うむ。以後気をつける。」
「はぁ・・・まったく・・それより宗介。あんたもしかして今ので夕飯食べ損ねたとか?」
宗介は若干ためらったものの無言で首を縦に振った。
「はぁ・・・。・・・実は夕飯作りすぎちゃったんだけど食べてく?」
「千鳥・・・いやしかし・・」
「あっそ。いやなら結構。」
そういうとかなめはくるっと後ろに振り返った。宗介は慌ててそれを追いかけた。
「まったく・・・結局食べたいのね。」
そういうかなめの前にはかなめの作った、いや作りすぎたボルシチにむさぼる宗介がいた。
「しっかし・・・よく食べるわね。ボルシチ嫌いじゃなかったの?」
「いや・・・ただ単に俺が食ったのはボルシチではなかったらしい。」
宗介は苦笑しながら食事を続けた・・が、かなめの表情に気がついたのか
「千鳥。怒っているか?」
かなめは目線を外し「別に」と言うが頬を膨らませ顔を赤くしている。誰が見ても怒っているのは容易に想像できる。
「千鳥。あの・・・そのだな、」
なにか言おうとしているのか。宗介が突然口ごもる。
「なによ。言いたい事があればさっさと言えば?」
「その・・・」
若干宗介はためらったが
「やはり、君の食事が一番・・・だな。」
「・・・」
かなめは無言のまま宗介を見た。頬の赤みが僅かに増し、それは怒り以外のなにかに反応したかのように見えた。
あとがき
初めてフルメタの小説書きましたが読み始めてホント僅かなのでキャラの性格などがまだ完璧につかめてないかもしれません。
設定とかも違うかなーと思いつつ書いてみました。最初は「慌てて追いかけた。」で終わりにしちゃおうかなーと思ってたんですが続きを書いてよかったかは実際分かりません(汗。
こんなのですが誰か一人の人でも面白く思ってもらえれば、と願います。