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2014.02.20 10:53

どうしようもないテロリズム 第3話 by 量産型ボン太くん

あたりを静寂が支配する。 テロリストによって語られた衝撃の事実に、クルツとマオの思考は完全に停止していた。
「え~と…あいつ今何て言った……?」
操縦席の中でクルツが顔を引きつらせながら同僚に聞く。
マオはまだ硬直したままだ。代わりに宗介が答える。
「どうした、聞こえなかったのか?あいつらは……」
「いや、やっぱり言わなくていい」
クルツは耳を塞いだ。
男は自分達のことをこう名乗った。【バレンタインを無くし隊】と………。
まるで一昔前に日本で流行ったアイドルグループのような名前だが、それに気付く者はここにはいなかった。
いや、この中で1名だけ、日本好きなドイツ人がその存在を知っていたが、彼は目を点にして呆けていた。
そのあまりにもアレなネーミングを聞いて、緊張感を無くすなというのは至難の業である。
確かに男の言う通り、クルツとマオは目の前の敵を攻撃する事を忘れていた。
しかしそれは彼らの目的に感銘を受けているわけではもちろん無く、ただ単純に脳が麻痺していただけである。
男は続けてこう言った。
「くっくっく。驚きのあまり声も出まい。我ら【バレンタインを無くし隊】は、バレンタインデーなどというくだらない事を考え、
それに追従する連中に裁きを与えるものだ!そもそも、我らが狙っていたのはただの食品加工工場ではない。このシーズンになると
バレンタインデー用のチョコを生産している工場ばかり狙っていたのだ。よいか、バレンタインデーなどという物があるおかげで、
どれだけ悲しむ者がいると思っている。ある所ではチョコの数を競い合い、悲惨な結果を招くことになり、チョコを貰えない者は
少なくとも3日間はそのことでからかわれ続け、惨めな思いをするものなのだ。わかるか?つまり、バレンタインデーさえなければ
世界は平和。即ち我々は世界の平和を守るために戦っているのだ!って、聞いているのかおまえら!?」
男が熱弁をふるっているその横で、クルツとマオのM9は頭を抱えていた。
「なあ…俺帰ってもいいか?」
クルツがぼそりと呟く。
「だめよ…。こんなのが相手でも一応任務には違いないんだから…」
マオも疲れた声で返事をする。
脱力のあまり、2人ともスピーカーのスイッチを切り忘れていた。
そのため、2人の会話は外に丸聞こえだった。
それを聞いて男が叫ぶ。
「何だと!貴様ら、我々の聖戦を愚弄するのか!?」
「聖戦って言ったって、要するに自分達がバレンタインデーでチョコ貰えないもんだから、逆恨みでお菓子工場を襲撃しているっていうだけの話でしょ」
マオの発言にクルツも頷いて言う。
「何か俺やる気なくしそうなんだけど……」
「同感ね。やってらんないわ」
「クルツ、マオ、職務怠慢だぞ。任務を遂行しろ」
宗介が2人に注意する。彼らの至極当然な反応に、男はさらに激昂する。
「ぬうう、馬鹿にしおってぇぇ……ならば我々の実力を見せてやろう。もてない男の執念、思い知るがいい!!」
情けない叫び声とともに、2機の<サベージ>が3人に突っ込んできた。

30秒後、宗介達の足元には<サベージ>の残骸が転がっていた。
「でかい口叩いてたわりにあっけなかったわねー」
マオが肩をすくめて言うと、その隣で宗介が頷く。
「確かに執念はなかなかのものだったが、技量が全く伴っていないな」
さっきまで喋っていたテロリストも、今は操縦室から引きずりだされて他の連中と一緒の所にいる。
「くっ、確かに今回は我々の負けだ…。だが、世界にはまだまだ我らの同志がいる。この世にバレンタインデーがある限り、
我々は決してチョコなどに屈したりはせんぞ!」
「屈してくれ、頼むから……」
クルツは心の底からそう言った。

帰りのヘリが到着した。3人ともヘリに向かって歩いていく。
クルツはこの作戦に不満たらたらだった。
「ったく、俺たちゃこんなしょーもない連中の相手するためにわざわざこんなとこまで来たってわけかい」
そう毒づくが、ある可能性を思いついたらしく、一転して楽しそうに喋りだした。
「いやでも待てよ、逆に考えれば俺が帰ってきたら俺の机の上にチョコが山のようにと置いてあったりして…。
そう思えば今日任務で基地を出てたのも悪くはなかったな。帰りが楽しみだぜ」
「あんたの机の上にあるのはせいぜい山のような報告書よ」
マオが半眼でクルツに言う。
「ひでーなぁ、俺ぁてっきり姐さんから熱~い気持ちのこもったチョコが貰えると思ってたのによ」
「今すぐ黙らないと熱~い気持ちのこもった鉛弾をプレゼントするわよ」
「・・・・・・・」
クルツは溜め息をついた。
「あ~あ、その点ソースケはいいよなぁ。貰える当てがあってよ」
「何をだ?この仕事の報酬ならお前も俺と同じように支給される筈だぞ」
「相変わらずのニブチンだなおまいは。チョコだよチョコ。出撃前に言っただろ?」
「俺がチョコを?何故だ。そもそも先程の男達もそうだったが、今日チョコを貰う事がそんなに嬉しい事なのか?」
「ああ、バレンタインってのはな、女の子が好きな男にチョコを渡して告白する日なんだよ。おまえはそういうの貰っても嬉しくないのか?」
宗介はしばらく黙考してから、こう答えた。
「分からん。だが悪い気はしない」
「へえ、中々言うじゃねえか。んじゃ早く帰ってやれよ。きっとカナメちゃん待ってるぜ」
「ああ、そうしよう」
宗介がヘリに乗り込むと、クルツは携帯でどこかへ電話をかけた。

宗介がマンションに帰ってくると、マンションの前にかなめがいた。
「おかえり、ソースケ」
宗介は少し驚いた様子だった。何故彼女が自分のマンションの前にいるのだろう、と。
「何故俺が今日帰ってくると知っているんだ?」
「クルツくんからさっき電話があったのよ。それからええと……これ」
かなめは躊躇っていたが、意を決したように後ろに隠していた手を前に出した。
その手には綺麗に包装された箱が握られていた。
「言っとくけど、義理だからね」
宗介は黙って手渡された箱を見つめていたが、やがて顔を上げてこう言った。
「感謝する。ありがたく頂こう」
宗介はいつも通りの無表情に見えたが、心なしか表情が和らいでいるようにも見える。
それを見たかなめは、いつも通りの何気ない口調で言った。
「よかったら、うちでご飯食べてかない?」
「ああ、そうだな。ご馳走になろう」
宗介は頷くと、かなめと一緒にマンションへ帰っていった。

おわり


あとがき

断っておきますが、あのテロリスト達の主張は俺の主張じゃありませんよ(汗
俺はあそこまで卑屈じゃないつもりです。まあ、確かに小学校以来バレンタインデー
とは無縁の生活でしたが…。
あ、すいません。ちょっと電話が…。
「もしもし…なに?…次の標的はヤ○ザ○パンか。ああ、分かった。すぐに行く。」
(注)嘘ですよ、念のためw

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