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2014.02.20 10:55

Change 第1話 by 祀汰ユーの助(みかど)

 ――――― 事の始まりはすべて、宗介が遅刻してきたことから始まる。

「おっそーい!」

 よく晴れた日曜日。商店街の入り口で近くの広場で、かなめは吼えた。その声に道行く人が驚いて目を丸くしているものの、かなめは気にもせず叫びつづける。

 かなめが怒っている原因、それは毎度ながら……宗介である。

 今日かなめは、この商店街で宗介と一緒に買い物をする約束をしていた。待ち合わせ場所は、この広間にある時計台。時間は午前十時。

なのに今は十一時。もう一時間も待たされていることになっている。始めの三十分くらいは、「あーきっと何か用事でもあったのねー。しょがないなー」と、許してはいたのだが、さすがに一時間も経過するとかなめの怒りもピークに達している。

「連絡ぐらいよこしなさいよねっ!」

 かなめは片手にさっきから握り続けている携帯をギロリと睨んで言った。しかし、さっきからメールも電話もない。

「もー」

 こうなったら、こっちから連絡するしかない。かなめはすぐに短縮ボタンを押して、宗介に電話をかけた。

 プルル…プルル…ガチャッ

「宗介!あんた今どこに…!」

「おかけになった電話はただいま電波の届かないところにあるか……」

 聞きなれたお姉さんの声が、虚しくも電話の向こうから聞こえてくる。

「………」

 それが余計に怒り度を高くした。

 かなめは、ピキっと額に怒りマークを浮かべ、乱暴な仕草で通話を切る。

 もういい、こうなったら先に買い物をしてよう。かなめは、ぷーと頬を大きく膨らませてツカツカと歩き出した。

 と、その時だった。いきなり後ろから、肩を叩かれる。

「あのー」

「え?」

 かなめが振り返ると、そこには、ニット帽を深く被り、サングラスをつけた男が自分のハンカチを持って立っていた。

「これ、落としましたよ」

 すっとハンカチを差し出してくる男。普通だったら、ありがとうごさいます、とすぐに受け取るところだが、かなめはその男をみた瞬間ギッと目を吊り上げた。

サングラスの間から見える目、それとよーく聞きなれた声……。

かなめは、すーと大きく息を吸い込む。そして……

「ソー……」

「はい?」

「スケ――――!!」

「はいぃ!?」

「何が落としましたよ!ヨ!そんな映画のワンシーンみたいので私の機嫌が直るとでも思ってんの!一時間の遅刻よ!一時間!遅れるなら遅れるで電話の一つでも入れなさいよ!いつもいつも私のことを逐一通信するくせに!自分のことは点でなんだから!どーしていつもあんたはそうデリカシーの欠片、いえミクロもないのよー!」

 怒りがピークに達していたかなめは、マシンガンのごとく文句を連発させた。こうなっては、防弾チョッキも無意味である。

「え、え…っ」

「だいたいなんなのよその格好!変質者?夜中に出てきていたいけな女の子を悪夢のどん底に突き落とす気?えぇえ!」

 かなめはそう言って、ニット帽に手を伸ばした。そしてそのまま引っぱる。

「ちょ、ちょっと!」

 帽子を取られるのを相手が抵抗する。しかしかなめは容赦なく毟り取る。そのためにニット帽が取れるのと同時に、揉み合ってサングラスまでもが落ちてしまった。

 そして、その下からはかなめの思った通り、やはり、現われたのは「宗介」だった。

 が、…………何かがおかしい。

「あれ……あんた髪の毛染めてたっけ?」

 目の前の宗介の違和感に、かなめは怒りを忘れて呆気に取られた。

あの黒髪は茶色く、それに、あるはずの顔の傷もない。

「か、返してください!」

 するとその「宗介」は慌ててかなめの手から帽子を取り、サングラスを拾った。

 しかし、それを付け直す前に、近くにいた若い女の子がいきなり黄色い声を上げた。

「キャー!よう様じゃない!」

 その声に、辺りの人が一斉にかなめたちに注目した。

「なんだなんだ、芸能人か?」

「野球選手らしいぞ」

「なに?ハリウッドスター?」

 辺りが一斉に騒ぎ出し、おまけに根もはもない情報までつけるものだから、余計に人が注目しはじめる。すると、かなめの目の前にいた

「宗介」はいきなり慌て出し、すぐに帽子とサングラスほつけた。

「サイン下さい!」

 そして一番始めに声を揚げた女の子がプリクラ帳を片手に迫ってくると、すぐさま商店街の路地裏へと逃げていった。

「あ、あれ……?」

 一人になったかなめは、呆然と立ち尽くした。

「ソースケ…よね?」

 間違いなく、あれは宗介だ。なのに………なんだこの騒ぎは。かなめは訳が分からなくて、目を点にした。その時だった、また肩を叩かれる。

 はっと振り返ると、そこには今度こそ、かなめの見慣れた宗介が立っていた。

「すまない、遅くなってしまった」

 走ってきたのだろう、額にはうっすらと汗を滲ませ、格好も普段着ではあるがどこかよれている。

 しかし、いくら急いできたといえ、一時間の遅刻だ。怒っているだろうな、と宗介はかなめの顔を見つめ、緊張した。

「…………」

 しかし、かなめはじーと顔を見つめ、固まっている。あれ?と宗介が訝しく思った瞬間、すいきなり、宗顔を両手でガシット掴まれた。

「あんたソースケよね!?」

「な、なんだ千鳥!」

 ぐいっと顔を近づけられ、慌てる宗介。そのまま人工呼吸でもするつもりかっ!と思うほどの距離まで顔を近づけるかなめに、宗介はただ慌てるしかない。

「髪も黒いし、傷もある……ソースケね」

 かなめはフムと納得して、宗介の顔を離した。それから、両腕を組んで考え込む。

「俺が俺でなかったら、いったい誰だというのだ」

「そうなのよねー……でもあれは……」

 間違いなく宗介だった。顔も、声も、すべて宗介だ。

 でも、今目の前にいるのも宗介だ。

 いったい、さっきの「宗介」はなんだったんだろう。

 かなめは狐につままれたような顔をした。

 つづく

 


あとがき

 またまた、お邪魔させてもらいます。みかどです。これもまたまた続きものですが、頑張って最後まで書き上げますのでよかったら最後までお付き合いくださーい!

   みかど

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