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2014.02.20 10:55

Change 第2話 by 祀汰ユーの助(みかど)

 ――――― 事の始まりはすべて、宗介が遅刻してきたことから始まる。

「相良君にそっくりだけど、相良君じゃない男の人?」

 次の日、机を向かい合わせて弁当をつつく恭子に、かなめは早速昨日の出来事を話した。

「そうなのよー。本当に顔もそっくりで、声まで似てたんだけどね。でも、宗介じゃないのよ」

 変よねーと、先に弁当を殻にしたかなめは、最近はまっている健康飲料のボトルに口をつけ、ごくごくと喉を鳴らした。一方恭子は、好物の一口ウィンナーにプスリとフォークを刺すと、やや上目で言った。

「でもその人、なんか有名人ぽかったんでしょ?」

 その言葉に、かなめはポンとボトルから口を離すと、眉間に皺を寄せて、複雑な顔をした。

「そうなのよね。女の子がいきなり、キャーって叫びだしてさ。サイン下さいって騒ぎ出しちゃってねー」

「女の子が叫んだってことは、古い俳優とか演歌歌手とかじゃなくて、私たちの世代の有名人なんでしょ?かなちゃんは誰かわかんなかったの?」

 恭子のその質問に、かなめはピクリと眉を小さく動かすと、持っていたボトルを勢いよく机にたたきつけた。  

「あのね、恭子っ。その人はソースケに似てたのよ!私の頭の中には少なくともあんなムッツリ顔の芸能人は、記憶にないわよ!」

「そんな…そこまで否定しなくてもいいじゃない?だって相良君は結構カッコイイわけだし」

 奮起するかなめに、恭子はいたって真顔で言った。

 するとかなめの顔が、うっ、といきなり赤くなる。別に自分のことをほめられたわけではないのに、どういうわけか、宗介のことをほめられると、自分が照れてしまうのだ。

「ま、まあね…私だってちょっとはカッコイイなーとは思っちゃったりする時もあっちゃったりなんかして……」

 赤くなった顔を隠すように俯いて、かなめは指の先と先を合わせて、クルクルと回しながら呟いた。だが、恭子はそんなのまったく聞いておらず、話を進める。

「他になんか特徴なかったの?例えば髪型とか」

 その質問に、はっと我に返って、かなめは話題に戻る。

「髪型もソースケそっくりだったなぁ。あ、そういえば……」

 顔を上げたかなめは、はっとあることに気が付いた。

「女の子が『よう様』とか、なんとかって叫んでたなぁ」

「よう?」

「そう。ちゃんとは聞き取れなかったんだけど…」

「もしかしてかなちゃん!」

 何かに気が付いた恭子は、いきなりカバンの中に手を突っ込んだ。そして、中から一冊の雑誌を取り出し、すかさずパラパラとめくり始める。

「どうしたのよ恭子」

「確か……あった!これだよこれ!」

 恭子はとあるページを開いて、かなめの前に見せた。

 なに?とかなめが差し出されたページを見ると、そのページには、見開きに大きく「新人歌手!旋風を巻き起こす!」とドデカく書かれていた。そして一緒に載っている写真。まさにほとばしる汗の中、マイク片手に熱唱している歌手の姿が載っている。

 さらに顔を近づけて、マジマジと見つめる。

「この人……似てるかも…」

 写真の中ではオールバックにしているため、感じがだいぶ変わっているが、顔つきはそっくりだ。

「凄いよかなちゃん!その人インディーズバンド『シルバー』のボーカル、佐倉陽介だよー!」

「さぐらようすけ…?」

 何よその宗介の親戚みたいな名前はッ。と、かなめが変な顔をすると、恭子はいつものようにフーン♪と楽しそうに説明を始めた。

「佐倉陽介!今一番のってるって言われるインディーズバンド、シルバーのボーカル!ライブはいつも超満員で、チケットは発売と同時にソールドアウト!なんでも最近メジャーデビューするとかで、各メディアが騒いでるんだよ」

「ヨ○様の間違いじゃなくて?」

 とかなめがつっこむと、恭子はプーと頬を膨らませた。

「もー、なにおばちゃんみたいなこと言ってんのよかなちゃん。私だってCD持ってるんだから」

「よう様ねぇ……」

 かなめは恭子から雑誌を取り上げると、記事の方に目を通した。

『 ステージはいつもワイルド!その声はダイナミック!女の子はもとより、男の子にも人気があって、そしてついたあだ名が『よう様』!今話題の歌手 佐倉陽介! 』

 記事の内容はその歌手を絶賛しているようだが、どうもこのワイルドやらダイナミックやらがピンとこなかった。宗介に似ているという観点からもそうだが(いや、違う点で言えばかなり宗介のほうがワイルドでダイナミックかもしれないが)、少なくとも、自分にハンカチを差し出してきた男性は、もっと控えめで人のよさそうな感じだった。

「私が見た時はもっと優男って感じがしたんだけどなー」

「よく、芸能人って人前にでると性格が変わるっていうから、よう様もそうなんじゃない?でも、もしこのよう様本人だったら、かなちゃんラッキーだよぉ!」

「うーん……よう様ねー」

 なんかしっくりこなかったが、まあとりあえず、あの宗介のドッペルゲンガーの正体は分かったわけだ。

 だが、もし本当に恭子の言うとおりあの男性が有名人だとすれば、申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。

 有名人が、あんな格好で普通の商店街を歩いていたとすれば、きっとそれはプライベートのお忍びだったに違いない。有名人だって人間だ、休日は必要。忙しい日々のささやかな一日だったに違いない。それを、勘違いのせいで台無しになってしまった……。

 かなめの胸に、チクリと罪悪感が刺さった。

「何か悪いことしちゃったなー」

 せっかくの善意に、あんな仕打ちをしてしまったのだから。

 かなめは雑誌に映る彼に対して、申し訳なさそうな顔をした。こういう事は、きちんと謝罪しない限り心の中に位置までも残ってしまうもの。

「ファンレターの住所にでも、謝罪の手紙を書こうかな」

 本人が読んでくれるかはわからないが、せめてそれくらいはしたい。

 かなめが、ふうと溜め息をつくと、そこへ職員室に行っていた宗介が帰ってきた。

「千鳥、次の授業でこのプリントを使うそうなので、配ってほしいと神楽坂先生が言っていたぞ」

「うん。わかったわ」

 哀しげな顔のまま、宗介が差し出してくるプリントに手を伸ばすかなめ。するとこちらのソウ様が、鈍感ながらもそんなかなめの表情に気が付いた。

「何かあったのか?」

「え?ああ……ほら、昨日のこと」

「俺の分身が現われたというやつか?」

「うん。どうやら勘違いした人、有名人だったらしいの。きっとプライベートで買い物にきてたのに、私のせいで台無しにしちゃって申し訳ないなーと思って……。今すぐ謝りたいけど、、有名人なんに簡単に会えるわけないだろうしね」

「そうか……」

 宗介は、かなめにプリントを渡すと、フムと俯いた。

「千鳥、直接会える可能性はあるぞ」

「へ?」

「人間は必ず何か事件を起こした場所には、必ず戻ってくるという。もしかしたら、またあの商店街に現われるかもしれないぞ」

「あーのーね、宗介。別にその人は傷害事件を起こしたわけじゃないのよ!そういう心理が働くわけがないでしょうが!」

「いや。もしかしたらその男は数日前にその場所で強盗事件を起こし、警察から逃れるために近くに現金を隠し、そして千鳥に会った日はその現金を確認した可能性が……」

「あるか!」

 スパーン、とハリセンが決まる。

「本当にもう!見た目は同じなのに、どうしてあんたはそんな考えしか……!」

 と、いつもの説教をくらわせようとかなめは声を荒げた。が、ふとあることに気が付く。

「まてよ、宗介がこの人に似ているんだったら……」

 こんな雑誌に載っている風にかっこよくなるかも…!

 かなめの頭の中で、チュピーンと何かが光った。

「おのD!ワックス持ってない!」

 近くでクラスメイトと明日発売されるゲームの話をしていたおのDは、あ?と首を傾げた。

「持ってるけど、何に使うんだよ」

「いいから貸して!」

 はあ?と訳がわからないものの、急かすかなめに、おのDは愛用しているハードワックスをかばんから取り出した。

「ありがとう!宗介っ!あんたちょっとこっちに座りなさい!」

 かなめはプリントを近くの机に置き、おのDからワックスをばくりと取ると、かなめは宗介を自分の席に座らせた。

 すぐさまワックスをたっぷり手にのせる。

「えーと、こんな感じで、こんな感じでぇ」

「何をするつもりだ千鳥ッ」

 楽しげに自分の髪をいじりはじめたかなめに、宗介は困った顔をした。しかし、かなめはそんなこと気にせず、鼻歌を歌いながらワシワシと宗介の髪を掴み始める。

 そして、五分後……

「………あれ?」

 完成品を見て、かなめは首を傾げた。周りでその様子を見ていた恭子、おのDは腹を抱えて笑いを抑えている。

 かなめとしては、この雑誌の佐倉陽介のように、ワイルドでダイナミックな感じになる………ハズだった。

 しかし、実際に出来たのは………硬い白菜だ。

「だーははははっ!」

 笑いをこらえきれなかったおのDがとうとう噴出した。

「おのD笑っちゃ失礼だよッ」

 と言いつつも、恭子も震えている。そんな二人の反応を見て、かなめは額にたらりと汗を流しながら、あははと笑った。

「おかしいなあ。かっこよくなると思ったんだけど……」

「フム……」

 宗介は手鏡を取り出して、自分の頭を見て頷いた。

「ご、ごめんソウスケ……」

「いや、これは中々、自分でも驚きだ」

「ごめん!いますぐ直すからッ」

「気に入った」

「……へ」

「気に入った。これはなかなかイイ」

「………あんた本気で言ってる?」

「ああ」

「私がやったから、そう言ってるんじゃないの?」

「違う。純粋に気に入った」

 手鏡を何度も角度を変えては、どこか楽しげに見つめる宗介。相当気に入っているようだ。

「……あ、そう……」

だがはたから見て、明らかにこの頭はデー○ン○暮だ。かなめの複雑な思いに、頭上にカラスが飛んだ。

 しかし、いくら宗介が気に入っているとはいえ、その髪型の笑いはクラス中にまで広がってしまい、さすがにやばいかと思ったかなめは、いやがる宗介の頭に無理矢理、水道から直接水をかけた。しかし、予想以上のワックスの力に、水で濡らした程度では治らず。結局宗介は、その日一日、白菜頭で過ごすこととなる。

 ………が、本人は本当に嬉しそうだったので、かなめはヨシとした。

つづく

 


あとがき

 言い訳にしかならないのですが、なんとドラマガで似た内容が掲載されていたとか…。読んでなかったなんて言い訳にしかなりませんが、ぱくったつもりはありません!本当です!

本来はすぐにでもやめればよかったのですが、でも、せっかくさりらさんがアップしてくださったので、申し訳ありませんが最後まで書きたいと思います。

 次回より、物語の本筋スタートです!飽きずにお付き合いいただけると嬉しいです。 みかど(祀汰ユーの助

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