終わりの後 第2話 by 紅夜
一体、何が起きたのだろうか? ――全く分からない。
校庭に残ったASの残骸を見て、白いASが惨敗した事は理解出来た。
しかし、オノD達はそんな事よりも――千鳥かなめが連れていかれた事に、非道く動揺していた。
それもしょうがない事だ。オノD達は、ウィスパードやミスリル、相良宗介が傭兵だと言う事、自分達が二度――いや、三度大きな事故に遭った原因が、親友だと思っていた千鳥かなめと相良宗介だったと知らなかったのだから……。そんな事が思えない程、とても楽しく充実した日々だったのだから。
かなめが連れて行かれた後、校長は生徒達に下校するよう指示したが、オノD、風間と言ったかなめと馴染みのある生徒達だけは、その場から動かず、ただ、空を見上げていた。
次の日の朝、病院から学校に一本の連絡が来た。内容は、常盤恭子が大怪我を負い重態と言う物だ。
担任の神楽坂恵理を筆頭に、オノD、風間、稲葉、蓮と言った面々が、車に乗り込んだ。ずっと前に、宗介が分解した車だ。
「先生、常盤さん…大丈夫だよね?」
助手席に乗り込んだ風間が、悲痛な声で力無く呟いた。後ろに座っているオノD達もその事がとても気になるのか、恵理の方をジッと見ている。
「だ、大丈夫ですよ!! ちゃんと、病院に居るんだから。後ろの人達も心配しないで。ね?」
生徒達を心配させないように明るく振舞う恵理だが、かなめがさらわれた事と恭子の事の相乗効果のせいで、声は明るいが――顔は非道い有り様になっている。目は泣きすぎたのか赤く腫れ上がり、髪の毛はグシャグシャ。化粧も涙のせいで変な風になっている。
オノD達にとっては自分達の心配よりも、恵理自信の心配の方が深刻に思えた。
一〇分ぐらいだろうか、それぐらい車を走らせていると、町の様々な惨状が目に写ってゆく。ビルは所々削れて、鉄骨や部屋が遠くからでも余裕で見えるほど目立っている。道路の方も所々ヒビが入っていたり、コンクリートが少しせり上げているが、山道みたいにボコボコになってはいないし、穴が開いてると言う状態でもない為、運転には何の影響を与えてはいなかった。
「なぁ、相良はどうしてるんだ?」
「えっと…………連絡が取れないのよ。昨日の朝から連絡が出来なくなってるの…どうしてかは分からないけど……」
「じゃあ、相良君は千鳥さんがさらわれた事を知らないのかな…」
『…………』
風間の一言に、全員の顔が曇っていく。
全員、かなめが連れて行かれた事が未だに信じられないのだ。心の何処かで、昨日起きた出来事の全てが夢だったと思っている。しかし町の惨状が非情にも『全て現実だ』と全員に告げている。
全員が黙りこくっている間に、目的の病院が見えてきた。
病院は、さっき見たビルよりは被害は無さそうだが、屋上にある看板や壁などは黒焦げになり、窓ガラスもたくさんでは無いが結構割れていた。正面の入り口には、大勢の怪我人達がごった返しになっていて、とても入れそうにない。
「どうやって入るんだよ?」
「確か…連絡してくれた看護士の人が言うには、裏から入れるようにしてくれるらしいんだけど…」
「じゃあ、すぐ行きましょう」
瑞樹が、勢い良く車の扉を開けようとした。その時、後ろの座席から、
「皆さん、少しお待ちください。病院の方々が裏から入れるようにしたのは、表に居る怪我人の方々が…興奮と言うのでしょうか? そういう風にならないようにする為の措置では無いのでしょうか?」
やんわりとした口調で、蓮が全員を静止させた。瑞樹は、勢いが余って扉に顔を押し付けている。
オノDと風間が、確かにそうだなと言う表情で、蓮の方を見ている。
「それなら、僕達はこっそりと裏口に行かないとマズイよね?」
「そうなりますね。でも、車を駐車場に置いて裏口に行くと目立ってしまいますね」
「だったら、あなた達は先に行きなさい。私は目立たない場所に車を停めてから行きますから」
恵理はそう言って、オノD達を車から下ろし、車を動かした。
「――何なんだよ!? コレ」
何とか、恭子の病室に着いたオノD達の目に入ったのは――体、口、腕に管を付けた恭子の姿だった。
風間、蓮、瑞樹は黙って恭子の方に近づき、オノDはその場で呆然としていた。
恭子の顔半分は血で赤くなった包帯で包まれ、口にはドラマに出てくる様な呼吸器が付けられている。ベッドの右には、見たことも無い機械が置かれている。
「お……かあ…さん」
酷く擦れた声で、恭子は母親を呼んでいる。
「相良…くんに……頼まれたの。カナちゃ…ん……ハムスターの…お世話を……」
震える手をゆっくりと上げて、母親の手に何かを渡した。
「…っうう……恭子」
母親は恭子の手を握って静かに嗚咽を漏らした。オノD達は――ただ見ているだけしか出来なかった。
四日後の朝、相良宗介が教室に姿を現した。
そして――全てを話した。
自分が現役の傭兵で、白いASに乗って戦っていた事。
二度の修学旅行と有明海での事件に、自分が関わっていた事。
かなめを狙っている組織の事。
恭子がケガをした原因。
長い時間を掛けて、一つ一つ繊細に説明していく。宗介の説明を頭に入れるごとに、オノDの中で何とも言えない焦燥感が溜まっていく。
たぶんオノDだけでは無く、他の生徒たちも。
「すまなかった」
その言葉で、オノDの限界が越えた。
「ふざけんなよっ!! 結局は、お前らのせいで常盤や俺たちは危ない目に遭わされたのかよ!?」
宗介の胸倉を掴もうとオノDが手を伸ばした。
「止めなよ、オノD!!」
風間や恵理などが取り押さえた。宗介は表情を変えずに全員を見ている。
「離せよっ!! 俺は、コイツを許せねぇ!! お前知ってるか? 子供やお年寄りが凄く苦しんでるのを。全部、お前らのせいなんだよ!」
宗介の顔色が変わった。
「違う!! 千鳥は何も悪くは無い。千鳥も巻き込まれただけだ。悪いのは――俺一人だけだ。だから――」
「だから、何だよ!?」
「千鳥が帰ってきた時は、温かく迎えてくれ。俺が――必ず!! 必ず千鳥を連れ戻してみせるから」
そう言い残して、宗介は教室を去った。
宗介が去った後は、普通に授業が行われ、普通に学校が終った。いつもは一回ぐらいは騒ぎが起こるハズなのに、今日は起こらない。次の日も。そのまた次の日も。
騒ぎが日常茶飯事だったため、騒ぎが無いと別の学校に居るような気分になってしまう。
非常に楽しく充実した夢のような日々は、もう戻っては来ない。
「ねぇ、オノD」
「何だよ風間?」
「相良君、どうしてるかな?」
「知るかよ。あんな奴」
ガラッ。
教室の扉が静かに開いた。二人は、反射的に入り口の方に顔を向ける。
立っていたのは――林水敦信だった。
「あ、林水先輩。こんにちは」
「やあ、そんなに緊張しないでくれ。もう、相良くんの事は聞いたようだね」
いつもと違う雰囲気を出しながら、近くの机に座る。
ああ、と言う返事をしてオノDは窓に顔を向ける。風間はどう対応したら良いのか分からないのか、おろおろとした表情で二人の顔を交互に見つめる。
「君達は、彼の話を聞いてどう思ったかな?」
「…………ムカツイタ」
「そうとしか思えなかったのかね?」
扇子を広げて、冷たく言い放つ。オノDはムッとした表情で、
「何が言いたいんだよ!? アンタに、俺の気持ちが分かるのか!?」
「私は君では無い。だから理解はできない。――だが、彼らからすれば、君に彼らの苦しみが理解できるのかな?」
「なっ……!?」
こんな反論が返って来るとは思わなかったのか、オノDの顔が引きつった。
「私は彼らでも無い。だから、誰かに狙われる恐怖、いつ死ぬかも知れない恐怖、仲間が傷ついてしまった結果、全員からの冷たい視線をどう感じたのかは分からないが――とても苦しかったと、私は思う」
林水の言葉の一つ一つが、オノDの何とも言えない感情に、冷酷に突き刺さる。
そうなのだ。苦しいの自分だけでは無いのだ。あの二人は、今までもっと苦しんでいたのに――なのに、自分はあの二人を恨み、憎んだ。
彼らを軽蔑した。
「もう――遅ぇよ」
肺に長く溜めていた空気を一斉に吐き出すように、言葉を絞った。
「まだ、遅くないよ。オノD」
「……風間。無理なんだよ!! もう手遅れだよ」
「相良君が言ってたじゃないか! 必ず、千鳥さんを連れ戻す。だから温かく迎えてくれって。だからさ? 僕らは、相良君達が帰って来るのを待とうよ? それで、帰ってきた時に謝って、前みたいに騒ごうよ」
オノDは、目が熱くなっていることを感じる。
「……ああ」
目に溜まった涙を拭いて、短く頷いた。
全てが終った訳では無い。希望は、まだ残っている。
宗介とかなめが帰って来た時に、温かく迎えてあげる為に、オノD達は二人を信じ続けた。
終わり
あとがき
『後半は前半の数倍で仕上げなければ行けない』と言う偏見から生まれた作品――終わりの後を送ります。…疲れたよぉ~(泣)
おっと、書き忘れていた。『この話はOMOとツジツマが合わない所があるかも知れませんが、気にしないで下さい』っと、良し、
これで文句は来ないだろう(笑)。えぇ~次にSSを作る機会があれば、マオねえさんに対抗して、『クルツにいさんのすないぱーきょうしつ』でも作ろうかな。そんな妄想を抱いて、私は今日も生きていく。読んでくれた方、ありがとうございます。 by紅夜