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2014.02.20 11:00

愛と勇気のイグナイテッド 第4話 by 南 東西

「ふぅむ、とどのつまり、その子猫を生徒会に引き取って欲しい、と。そういうわけなんだね。相良君」
「ハッ! 全くその通りであります。生徒会長殿!」
「ふんふん。で、何故我が生徒会に頼もうと?」
「愛と勇気であります!!」
「・・・・・・なるほど」
「あたし、時々アンタらのこと超能力者より凄いって思うんだけど」
一切の声もない。時計の音だけが延々と響く生徒会室。まだ昼間だといのにどことなく夕べの集いのような緊張感がある。というか、林水先輩もお蓮さんも、今やっている授業はどうしているのだろうか。まぁそれはこちらにも言えたことなので、この際変に詮索はしない。
一声も言葉が出ないままに過ぎていく、ただ無言だけの空間。静寂という単語が、これほど似合うことはない。
生徒会長林水敦信と、その部下相良宗介。
二人の視線が絡み合い続けてから、もう五分と経過しようとしていた。少しずつ冷や汗をかいてきている宗介に対して、林水先輩の顔は涼しいものだった。
そして、ゆっくりと林水先輩の視線が、宗介の頭の方へと上がっていく。徐々に、徐々に上がった視線が行き着いたのは、宗介の頭に乗った、話題の子猫だった。今度は、その子猫と、林水先輩による睨めっこが始まる。
閉じた扇子で口元を隠すようにして視線を送る林水先輩に対して、子猫の反応は冷ややかなものだった。先輩を無視して毛繕いを始め、落ち着いたところで目を閉じて大欠伸をする。そんな調子で、また時間が過ぎていこうとしたその時、子猫の視線と、林水先輩の視線が絡み合う。
ニャー。
キラン。と、会長の眼鏡が一度光る。
そして、バッと勢いよく開かれた扇子には、流暢な毛筆でこう書かれていた。
「LOVE&PEACE」。
「会長殿!!」
感激の意をあらわに、宗介が林水先輩の手をしっかりと握る。奥で感涙をこぼすお蓮さんを尻目に、林水先輩もそれに応えるようにぐっと手を握り返してきた。
かなめは顔中の筋肉を痙攣させながら、ただぐったりとその場に倒れこんでいた。
「全く、負けたよ。君たちの言う愛と勇気というものは、どうやらそうとう強大なものらしいな。その熱意に応えようと思っただけさ、だからこの言葉を贈らせてもらった」
そう言うと、林水先輩は先程の扇子をパタパタと振る。「LOVE&PEACE」の文字が、それに併せてヒラヒラと揺れる。
「有難きお言葉、身に余る光栄です。私はただ、書物を通じて得た、愛と勇気の大切さを訴えたまでです」
「それが、素晴らしいことだというのだよ。愛と勇気、まさしくLOVE&PEACE。君たちはそれを私まで届けたのだ」
「ハイ! LOVE&PEACE、いつも、心にはそう刻んでおきます!」
「うむ!」
「どーでもいーけどサ。・・・・・・アンタら、本当に英語分かってる?」
かなめが冷ややかな視線を送ろうとした、その時だった。林水先輩が突然扇子を閉じ、思い出したように言った。
「おっと、そうだ。二人に伝えねばならんことがあったのだ。危うく忘れるところだった。えーっと、蓮クン?」
「ハイ」
そう言うと、お蓮さんがなにやら一枚の書類を林水先輩に手渡した。そしてそれを、林水先輩が読み上げる。
「二人は今回の避難訓練をサボったバツとして」
え? と、かなめが小さく疑問符を漏らすが、特に意味の無いものだった。
「今日の放課後特別にグラクンドの掃除を担当してもらうそうだ」
ハァ? と、かなめが真っ白になるが、特に意味は無いので無視される。
「まぁ、頑張ってくれたまえ」
そう言って広げられた扇子には、一言。
「FAITH&CLEAN」。と書かれていた。
かなめにはもう、叫ぶ気力すら残っていなかった。

余談だが、この三日後。市内のあらゆるペットショップから、最高級のペット飼育器具がこの生徒会宛に届いたといふ。

終わり

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