もしもクルーゾーが…… by 量産型ボン太くん
彼の名はベルファンガン・クルーゾー。SASの出身で、がっしりとした体格の黒人である。階級は中尉。ASの操縦は勿論、生身での戦闘能力はトップクラス。戦術判断にも優れており、非常に優れた軍人といわれている。
いわれているのだが…………。
作戦会議室のホワイトボードの前で、クルーゾーがSRTの面々を見渡し口を開く。
「それじゃ、今から今日の作戦の反省会を開くわね♪」
『うぃーす……』
顔を青ざめさせ、まるでここが地獄の底だとでもいうような陰鬱な雰囲気を放つ隊員達。それを過酷な任務が終わったことによる一種の気の緩みだと勝手に解釈したクルーゾーは、彼らにウィンクしながら話しかける。
「もう、疲れちゃったのは分かるけどぉ、もうすぐ終わりなんだから、ちゃんとしてよね」
そう言う彼の唇には真っ赤な口紅が、それはもうマリリンモンローも裸足で逃げ出すほど厚く塗りたくってあった。
その口から紡がれる言葉は聞くもの全てに恐怖と混沌を与えるほど凶悪な破壊力を有しており、より具体的に言うなら、やたら舌っ足らずで、しかも変に声が高かった。
そして今にも「ぷんぷん」と頬を膨らませて「わたし、怒ってるんだぞ?」と言いたげな表情を隊員達に送っていた。
そう。
SRTのトップことクルーゾー中尉は………オカマだった。
それも何かを勘違いしたようなオカマっぷりだった。
そんな中、気色悪い空気の漂う会議室内でボソボソと話をする連中がいた。宗介、クルツ、マオの3人だ。
「うっぷ……いつ見ても気持ち悪ぃ」
「クルツ、あんな男でも一応は上官だ。もっと敬意を払え」
「あんなのを敬えるかってーの」
クルツを嗜めた宗介だが、彼自身も言いようの無い不快感に襲われていた。
「だが確かに中尉ほど女装の似合わない人はいないな」
「それなんだけどよソースケ、実はあいつが傭兵になった理由ってのがさ、自分の正体が上官に知られて除隊させられたかららしいぜ」
「入隊時には隠していたということか。しかしどの様な経緯で発覚したんだろうな」
「もしかしたら新兵のカマ掘ったのがバレたとかいうことだったりしてな」
「バカねぇ。ベンは見ての通り『受け』なんだからカマ掘られた方に決まってるじゃない」
「姐さん…?(汗」
「冗談よ。ホントのところはよく知らないけど、どうも部屋にレディコミを置きっ放しにした時に疑われたらしいわ」
「あのおっさんがレディースコミックを……」
顔を真っ青にして震え始めるクルツ。
とそこへホワイトボードの方を向いていたクルーゾーが、「きゅるん♪」という謎の擬音とともに振り向き、クルツ達を指差して言った。
「こらそこぉ、お喋りしてたらぁ、反省会が進まないでしょ!んもう、ホントにしょうがないんだから。あ、そーだ!ねぇねぇ、反省会が終わるまで静かにしてられたら、みんなにチューしてあ・げ・る(はぁと」
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『い……いやだぁぁぁああぁぁあぁぁっ!!』
数秒の静寂の後、その場にいた全員が出口へと殺到していった。
「あっ、こらぁ!まだお話は終わってないでしょう!」
後から聞こえてくるクルーゾーの声を無視し、彼らはSRTの技能を最大限に発揮して逃走を図ったのだった。
後日。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
基地内に轟く野太い悲鳴。
「ゴキブリが、ゴキブリが出たのよぉ!」
といって通路を走り抜けるクルーゾー。
しかし誰も助けるものはおらず、それどころか彼を見かけるなり悲鳴をあげて逃げ出す始末だった。
そんな光景を、苦々しげに見つめる二人の白人男性。
ここの戦隊長を勤めるテッサの副官であるリチャード・マデューカス中佐と、陸戦隊指揮官のアンドレイ・カリーニン少佐である。
「少佐、あれは本当に優秀なのかね?」
「彼は兵士としては非常に優秀です。人間として優秀かどうかは保障しかねますが」
「また頭痛の種が増えたな。それにこのままでは色々と問題が出てくる可能性がある。つい先日など、SRTの隊員数名が辞表を提出したそうではないか」
「……いちおう後任の人間を捜しておきましょう」
「今度はマトモな男を連れてくるようにな」
クルーゾーの後釜が決まる日も、そう遠くはない………かもしれない。
おわり
あとがき
書いてる途中、鳥肌が立つほど気持ち悪かったのを覚えています。