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2014.02.20 11:01

曇りと雨の後には 第1話 by がい

最悪だ。
俺は今の今まで・・・・・・こんな敵に出合ったことがない。
下手をしたらヤツ以上の・・・・!
口はへの字にむっつりと、そして髪を短く刈りこんだ青年―――相良宗介はそんなことを呟きつつも真夜中の東京をひたすらに走っていた。
住宅街。商店街。
そんな表の顔の裏に存在する、胡散臭い連中が集まるような場所。
構うことなく走り続けた。

くそっ。振り切れん・・・・!
街灯すら届かぬような、暗い路地裏。
月の光だけがこの世を映す光ではないか?それくらい薄暗い場所に。
「そいつ」はいた。
「ちっ・・・・・・!何故追いつかれ・・いや、先回りできる・・・・?」
宗介は舌打ちし、銃をホルスターから抜きつつ言い放つ。
だが、しかし。
愛用のグロック19には弾が一発しか残っていない。
他の武器は手元に無い。
「くそっ・・・・・・。」
・・・・俺はゲリラ戦であれば・・・自分自身をそこそこの使い手だと思っている。
そこそこ、というのは俺以上の使い手ならこの世界にごまんといるからだ。
最も、アフガン・・・いや、アフガンだけではないが紛争地帯を渡り歩き、それなりに戦えていた。
生き残り続けた、という自負だってある。
それゆえに「そこそこ」と思える。
しかし、平和なはずの日本に。
東京にこれだけの使い手がいるとは。
気配を消し、こちらの行動の先を読み・・・確実に追い詰めてくる。
こいつは・・・・あの血みどろの戦場を渡り歩いた俺以上の使い手だというのか?
カリーニンやガウルンと同じくらい、或いはそれ以上の使い手だとでも・・・・?
宗介は現在自分の置かれている状況が、相当危険であることを理解しないわけには行かなかった。
そして「そいつ」はこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
(武器は持っていないようだが・・・・。しかし、隠し武器の類が無いとも言い切れん・・・。)
汗が頬を伝う。
とんでもない重圧感だ。
「・・・・っ!!!」
・・・・重圧感が増えた!!?
目の前に意識を取られすぎていたのだろうか?
もう1人の「そいつ」がいつの間にか後ろに立っていた。
「なっ・・・・2人・・・?」
なんてことだ・・・・。
重圧感に飲まれ、意識を前にのみ集中しすぎたせいで、いつの間にか背後を取られてしまうとは・・・・・・とんだ失態だ。
前に進むことも、後ろに下がることも出来ない。
完全に逃げ場を失うとは・・・・・!
後ろからも、そして前からも。
じりじりと「そいつ」が歩いてくる。
攻撃は後一回しか出来ない。
その一回で「そいつ」を2人纏めて倒すことは出来ない・・・・。
最早・・・・ここまでか・・・・・?
宗介が死を覚悟した瞬間―――

「酷いです、相良さん!なんでそんなに逃げるんですか!?」
「ソースケ!あんたさっきからあたしたちが「待ちなさい!」って言ってるのにどーして逃げまくるわけ!?」
「・・・・・・・は?」

聞きなれた声が前後から聞こえてきたのであった。

「・・・・・た・・・大佐殿・・・・。そ・・・・それに、千鳥?何故・・・」
宗介は呆然としつつも、途切れ途切れの声で疑問を口にする。
「あのねぇ・・・・あたしたちから思いっっっきり逃げといてそれを言う?」
「そうですよ。何で逃げるんですか・・・?」
「いや・・その、何がなんだか・・・・・。」
宗介は頭の中で物事を整理しようと勤めるが・・・・どうもうまく行かない。
そんな宗介の目の前にいるのはアッシュブロンドの髪を三つ編みにしている少女。
普段見慣れたカーキ色の制服ではなく、大き目のTシャツと丈が短めのGパンを着ており、ナイキのシューズを履いている。
宗介の上司であり、トゥアハー・デ・ダナンの艦長、<ミスリル>大佐、テレサ・テスタロッサ。通称テッサ。
そして後ろにいるのは、宗介の護衛対象であり、同級生でもある少女。
腰辺りまでの長さの黒髪を今はポニーテールにしている。
こちらはTシャツの上にカーディガンを羽織っており、テッサとは逆に丈の長いGパン。
なぜかツッカケを履いている。
千鳥かなめ。
それが宗介の後ろにいる少女の名前だった。

そうだ、何故俺は逃げていた?
この2人を相手に逃げる理由など無いはずだ、なのに何故?
そんな疑問が脳裏によぎった瞬間――――
「で。間違いなく答えてもらうわよ、ソースケ?」
「はい。答えてもらいますからね、相良さん?」
「?な、何を・・・。」
「「お嫁さんにするならどっちを選ぶ(のですか)?」

その理由を一瞬で理解した宗介であった。

「は・・・はぃっ!?何故そんな――――」
「聞こうとしたらあんたが逃げたんでしょうが!」
「そうです!簡単じゃないですか、私か、かなめさんのどちらかを選ぶだけなんですよ!?」
いや、難しい。
難しすぎる。
千鳥も、大佐殿も・・・・俺から見ても魅力的な女性だと思う。
俺は・・・どちらが好き?と言われてもよく解らない。
両方とも守りたい。
ただそれだけだ。
だが・・・・好きと言う感情がよく解らない。
こんな半端な考えを言えるわけが無い。
いや、それ以上に。
どっちを選んでも何故か、自分は明日の朝日を見ることが出来ない。
そんな予感、というか確信に近いものを宗介は感じていた。

「そう・・・・簡単なことだろう、相良軍曹?」
「・・・・・?」
いつの間にか・・・・テッサの後ろに見覚えのある人物が立っていた。
黒縁の眼鏡、冷たい視線で宗介を見下ろすその人物。
それは宗介も良く知っている人物であった。
トゥアハー・デ・ダナン副長。リチャード・マデューカス中佐であった。

「ちゅっ・・・・・中佐殿まで!?」
「相良軍曹・・・・君はどちらを選ぶのかね?」
「そっ―――――」
「確か、私は君にこう言ったはずだな?「大佐がなんらかの・・・物理的、および心理的苦痛を味わった場合・・・・・・。私は断固とした措置を取る」と。」
「・・・・・・。」
そう、そんな事を言っていた。
考えうる限りの処罰を覚悟しろ、と。
そして、まだ他にもあったような気が・・・・・。
宗介は必死になってその後を思い出す。
そうだ・・・・確か・・・・・・。
(万が一・・・1つ屋根の下で暮らすのをいいことに君が彼女に対して、何らかの破廉恥な行為に及んだとしたら。)
(・・・・八つ裂きにするとか・・・なんというか、猟奇的な行為を猟奇的な順番で行う、と・・・。)
宗介にとってはあまり思い出したくないことだったが、思い出さないわけには行かなかった。
「さあ、軍曹。どちらを選ぶのかね?」
「うっ・・・・・。」
「ソースケ・・・・・。」
「相良さん・・・・・。」
大丈夫、絶対に私を選んでくれる。
そんな想いを、願いを抱いた目で、かなめとテッサは宗介を見つめている。
宗介は僅かな時間で頭をフルに回転させて考えた。
考えうる選択肢、というやつを。
もしもだ。
もしも千鳥を選んだ場合。
「さっすがソースケ!やっぱ私を選んでくれたのねっ!」
「そんな・・・・嘘・・・・・。相良さん・・・・。」
・・・・・・こうなるはずだ。
大佐殿が泣かれるだろう。
なんというか、確実に。
そうなると、マデューカス中佐が、
「軍曹・・・・。私はこう言った筈だ。大佐が物理的、および心理的苦痛を味わった場合、私は断固とした措置を取ると。」
・・・・・おそらく、こうなるだろう。
この場合は心理的苦痛、というやつだろうか?
そして間違いなく八つ裂きから始まる猟奇的フルコースを実行に移す・・・だろう。
駄目だ、これでは駄目だ。
では・・・大佐殿を選んだ場合、どうなるだろうか?
「相良さん・・・・。私・・・信じてました・・・。」
「え・・・・?ちょ、ちょっと待ってよ。私・・・・じゃないの?ソースケ・・・・。」
・・・・・まあ、こうなるだろう。
だが、この場合、
「軍曹・・・・・。私はこう言った筈だ。一つ屋根の下で暮らすのをいいことに君が彼女に対して、何らかの破廉恥な行為に及んだとしたら・・・。」
・・・・・・・やはり、間違いなく八つ裂きから(以下省略)。
そして、両方を選ばなかった場合。
「そんな・・嘘でしょ?どーしてあたしでも、テッサでもないの?」
「相良さん・・・・まさか、他に想う人がいるのですか・・・・!?」
「軍曹・・・(以下省略)。」
・・・・・・・言わなくても解るだろうが、八つ裂き(以下省略)。
ちなみにマデューカスを選ぶ、というのは論外である。
・・・・おそらく、かなめからもテッサからも非難があると思われる。
テッサに至っては泣くかもしれない。
もしも泣こうものなら八つ裂き~カミカゼアタックまでの全工程が実行に移される・・・はず。
1番目の工程で死ぬんじゃないか?という疑問を持ってはいけない。
(・・・・・・・・どの選択肢を選んでも・・・・・俺に残された道は1つではないのか・・・・?)
宗介の思う通り。
まさに人類に逃げ場なし、であった。
「ソースケ・・・あたしとテッサ・・・どっちなの?」
「相良さん・・・・。かなめさんなんですか?私なんですか?」
「軍曹・・・・・。」
駄目だ、どれを選んでも、俺は死ぬ。
三すくみというか・・・ここはある意味、魔の三角地帯。
バミューダトライアングルだ・・・・。
「じ・・・自分は・・・・!」
「ソースケ?」
「相良さん?」
「軍曹?」
駄目だ・・・言っては駄目だ。しかし言わなくても死ぬ。
「自分は・・・自分は・・・・!」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
目の前が真っ暗になっていく。
意識が朦朧としているのだろうか?。
「自分は・・・う・・・ぅうう・・・!!!!」

そこで、宗介の意識はぷっつりと途切れた。

「うぁぁああああああぁぁああっっっ・・・・・・・・」
薄い掛け布団を「ばっ!!」と跳ね除け宗介はベッドから身を起こす。
「・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・・・はぁっ・・・・。」
息が荒い。頭がぼんやりとする。
汗は・・・それほど掻いていないようだ。
「くそっ・・・・・なんて夢だ・・・・・。」
小さな声で悪態をつき、右手で自分の髪をかきあげる。
「ところで・・・・ここは・・・・俺の部屋・・・・か?」
見覚えのある風景。
いつもと同じベッド。
間違いない、ここは俺の部屋だ。
「今・・・・何時くらいだ?」
窓の外を見れば真っ暗だった。
今は夜中だろう、ということくらいしか解らない。
そして近くにある目覚まし時計を見ようと目を凝らす。
最初は良く見えなかったが、暗さに慣れるまでそう時間はかからない。
時計の針は深夜の3時20分前後を指していた。
「ふぅ・・・・・少し早く起きすぎたようだ。もう一眠りするとしよう・・・・。」
少しは落ち着いてきた。
思いつつ、掛け布団を引き寄せる宗介であったが。
左手に何か柔らかい感触を感じた。
というか、「今ようやく気がついた」といったほうが正しいだろうか。
最初からその「柔らかい何か」を宗介は左手で掴んでいた。
「む・・・・・?」
何だ・・・・?この柔らかくて、暖かい何かは・・・?
じっっと目を凝らしてみる。
そこには――――だぶだぶのTシャツを一枚、そして下着を着ているだけのテッサの姿があった。
うつ伏せになり、すやすやと静かな寝息を立てて眠っている。
そして、掴んでいたのは・・・・・Tシャツが捲り上がり、丸見え同然の彼女のお尻であった。無論下着をはいているが、そのお尻を宗介は思いっきり握ってしまっていた。
「・・・・・・っ!?な、ななな・・・・大佐殿っっ!?」
大声で叫ぶ宗介。
その瞬間、寝室のドアが開き、部屋の電灯に光が灯る。
「ちょっと、ソースケ?目が覚め―――――」
そこにはかなめの姿があった。

凄まじく気まずい雰囲気・・・・・・というか沈黙がその場を支配する。
かなめはまるで凍りついたがごとく、瞬き一つしない。
テッサはまだすやすやと眠っている。
宗介は、なんというか「浮気真っ最中に恋人に出会った」ような顔をしている。(恭子あたりに言わせれば「真っ青なボン太くんっぽい」とか言ったかもしれない。)
ちなみに、テッサのお尻をまだ左手で揉んだまま。
「ソースケ・・・・・・・・。」
我に返ったのか、かなめが喋りだす。
体がワナワナと震えているのは・・・・怒っているからだろう。
「あんたってヤツは・・・・・!」
「ま、まて千鳥・・・・・。これはだ、その・・いつの間にか大佐殿が俺のベッドで・・・。いや、それ以前になぜ君まで俺の部屋に」
「あんたがっ!学校で気絶して!あたしとテッサでここまで連れて来たのよっ!!!」
「そ、そうか。感謝する。」
かなめの、ほぼ絶叫に近い怒鳴り声に脂汗というか冷や汗というか、もういろんなものがごちゃ混ぜになったような汗をかきつつ宗介は感謝の言葉を述べる。だがしかし。
「それなのに・・・・あんたは・・・・何テッサのお尻揉みまくってんのよっ!?」
「ち、違う!それは誤解」
「あんたが今やってることが事実を証明してるでしょうが!」
宗介の弁明を全く聞かず、かなめはまくし立てる。
まあ、こんな状況になれば誰でも言い訳の1つや2つするのが普通と言えるだろう。
「まったく!何だって言うのよっ!2人であんたを担いで看病して。テッサは疲れてソファーにもたれて眠っちゃうし。ほとんど一睡もせず看病したあたしって何?」
「いや、それは感謝する。し、しかしだな千鳥。大佐殿が何故俺のベッドで寝ているのだ?ソファーで寝ていたのではないのか?」
「あ・・・・そ、そっか。じゃあ・・・・テッサがソースケのベッドにいつの間にか潜り込んで・・・・。」
「あ、ああ・・・・おそらくは。」
「で、でも、だからってお尻を・・その・・・。」
かなめもようやく誤解だと言うことに気がついたようだ。
だが。
「う・・・・ぅん・・・。駄目ですよ、相良さぁん・・・・。私・・・怖いです・・・・。こんなの、初めてなのに・・・・。」
「は?」
千鳥の怒りが解けかかっているというのに、大佐殿・・・・・!
その瞬間。
かなめの忍耐袋の緒が「ぶちっ」と音を立てて切れた。
宗介にも聞こえるぐらい・・・・、いや、幻聴かもしれないがとにかく聞こえた。
「ソースケ・・・・・あんた・・・・・・・。」
「ち、違うと言っただろう!大佐殿は寝言を仰ってるだけだ!」
「ぃやかましいっ!この!女の敵めぇぇええええっっっ!!!!」
そう叫んだ刹那、かなめの真空飛び膝蹴りが宗介のコメカミにヒットしていた。
「ぐぁうっ!?」
それだけに飽き足らず、エルボーを肩に。
フックを頬に。
顎、腹、鳩尾に拳を突き入れる。
「ぐっ、ごうぁっ、頼む、話を聞いてぶるぁっ!?」
まさにどこぞの高名な挌闘家がのり移ったが如く。
神速の打撃を宗介にお見舞いしつつ、最後に十分に捻りを加え破壊力を増した「踵落とし」を宗介の脳天にお見舞いする。
ごがぁっ!!!!
「かふっ・・・・・。」
そして、宗介はベッドの上で崩れ落ちた。
「今のあたしにはね・・・アンディ・フ○様が降臨なさってるのよっ!」
いや、そんなわけは無いのだが、とにかく見事な踵落としであった事に間違いは無い。
ここがリングの上であったら、レフェリーは速攻でかなめの腕を上に掲げ、勝利したことを声高々に告げていただろう。
「ん~・・・・・。私、ジェットコースター初めてなのにぃ・・・・。ホワイトサイクロ○なんて・・・無理ですぅ・・・。」
「・・・・へ?」
かなめは、テッサの寝言を聞いてまたしても誤解していたという事実に気がつき、
「きゃーーーーーっ!?ちょっと、ソースケ!?ソースケーーーー!?」
と叫ぶのだが、時既に遅しだった。

「ぅ・・・・う?」
その後、宗介が目を覚ましたのは朝、7時ごろだった。
どうもあちこちが痛い。
特に頭にはたんこぶができてるような気がする。
「むぅ・・・・・。」
ベッドから抜け出し、頭をさすりながらリビングの方へ向かう。
「お、ソースケ。やっと目が覚めた?」
「あ、お早うございます。相良さん。」
リビングには、かなめとテッサがいた。
どうも朝食の用意をしていたらしい。
かなめは3人分のトースト、ハム、ジャム、マーガリンを用意しており、テッサもコップやら何やらを用意しているようだ。
テレビもついており、ニュースを放映していた。
それを見ながら用意していたらしい。
「お体のほうはもう良いのですか、相良さん?」
「え、えぇ・・・。なんというか、体と、あと頭が随分痛むのですが・・・・。」
「・・・・さ、さーそんなことよりも食事にしましょうよ、ね?ね?」
・・・・ソースケは夜中のこと覚えてないようね。思い出しませんように・・・・。
「む・・・・。そうだな。」
「うふふ、それじゃ頂きましょう。」
その後数分間、3人とも食べることに集中していた。
「ふぅ、ご馳走様っと。」
「ご馳走様でした。」
「うむ、美味しかった。」
かなめが席を立ち、食器を流しのほうへと持って行く。
テッサも持って行こうとしたが「あー、あたしがやるから。」と言われたので大人しく宗介と一緒に座っていたのだった。
「ところで、千鳥。」
「んー?なーに?」
「何故、君がここにいるのだ?」
「はぁ?覚えてないの?」
「?何をだ?」
「あー・・・・・ま、覚えてないなら良いけど。あんた、昨日学校で倒れたでしょ?で、あたしとテッサがあんた抱えてここまで連れてきたのよ。」
「む・・・そう言えば、確かに学校にいたあたりから記憶が無いような。」
「重かったんだから。あたしたちに感謝しなさいよ?ね、テッサ?」
「うふふ、そうですね。重たかったです。」
「なるほど、それはすまないことをした。ありがとう。」
素直に感謝されるのは嫌ではないが・・・・。
かなめは少しだけ後ろめたい気持ちだった。
理由は、テッサにちょっと言えない様な行為をしたと誤解して、宗介をK・Oしたからだったが・・・・。
(で、でも・・・ソースケだって悪いんだから。テッサもいつの間にかソースケのベッドに入り込んでるし・・・。)
そうやって自分を無理やり納得させるかなめであった。
「あの・・・・・。」
「なんでしょうか、大佐殿。」
「んー?どうかした?テッサ?」
テッサが遠慮がちに宗介とかなめに声をかける。
「あの・・・・今日って、学校お休みですよね?」
「あー。そだね、今日はお休み。ま、だからこんなゆっくりしてられるんだけどねー。」
笑いながらかなめが答えた。
「でしたら、そのぅ・・・。お2人にお願いがあるんです。」
「お願い?」
「私も・・・ですか。」
テッサの言葉に2人が聞き返す。
「はいっ。その・・・・私、東京に来たのこれで2回目ですけど。あまりこのあたりの事知らないんです。ですから、観光・・・とは違いますけど、案内をして欲しいんです。」
「ふむ、なるほど。この辺の地理を理解し、また何か非常事態が起こった時に備えるということですね。」
「え・・・・その、違う・・・・と思います。」
「ソースケ・・・あんたって本当に・・・・。」
宗介の勘違いな発言にテッサがしょんぼりとし、かなめは「駄目だこりゃ」という感じの反応を返す。
「と、とにかく。案内・・・お願いできませんか?」
「あー・・・ごめんね、テッサ。今日はあたし・・・・ちょっと予定があって・・・。」
「あ・・・そうですか。それじゃ仕方ないですね・・・。」
少しだけがっくりとうな垂れるテッサ。
それを見たかなめも「悪いことしたかな」とは思ったものの、仕方が無い。
恭子と遊ぶ約束があるのだ。
「では、私が案内いたしましょうか?」
宗介が遠慮がちに言う。
「え・・・。いいのですか?」
「はい、大佐殿が宜しければ、ですが。」
「その・・・嬉しいです、けど。」
ちらりとテッサがかなめを見る。
「ん?あたしに遠慮することないよ?」
「そうですか・・・・。」
「というか、あたしはソースケが案内することのほうがずっと怖いんだけどね・・・。」
「何?俺は別に」
「そりゃ何もしないでしょうけどね。あんたは事あるごとに迷惑行為をかますんだから。そーいう意味でテッサが心配だわ・・・。」
「・・・むぅ。」
流石に宗介も反論できない。
かなめに迷惑をかけっ放しであることは事実だからだ。
「あ、あの、大丈夫だと思いますよ。ね?相良さん。」
「・・・・はっ。」
「なーんか、すっごい不安なんだけど・・・・。」
「な、ならば必要最低限の武器以外は置いていこう。それならばいいだろう?」
「・・・・・まぁ、いいんだけどね。テッサ、あんたもこの馬鹿が暴走したら思いっきりぶん殴っていいんだからね?」
「あ、あはは・・・・。」
「・・・・・・・・。」
テッサの笑顔は引きつっていた。
その後、かなめは自分の家に帰っていった。
「いい?ちゃーんと案内するのよ?暴走してテッサに迷惑かけないようにっ!」と言って。

その時、宗介もテッサも、かなめを玄関まで見送っていたため知らなかったのだが――――――
ニュースは天気予報に切り替わっており、天気予報士は「東京地方は曇りのち雨、夕方から夜半ごろには晴れる所もあるでしょう」と言っていた。
最も2人とも外の天気を見て「少し天気が悪いかな?」程度にしか思っていなかった。

「あー!ソースケー!?今ー!まだハチジョー島なんだけどー!」
「まだそこにいたのか・・・・?」
その後、メリッサから電話がかかってきた。
どうも、未だに八丈島にいるらしい。
「うーーーーん!てかねー!なんか台風がー!ハチジョー島超えたあたりで速度落としたらしくてーー!まだ暴風圏内とかで飛行機が出ないらしいのーーー!だからー!今日も行けないっぽいー!」
「な、何!?」
「今日もここで泊まって行くからーー!」
「お、おい、それは困るぞ・・・・。」
「でー!もちろんテッサを押し倒したんでしょうねーーー!?きゃー!ソースケ君ったらエッチなんだからー!若いわねー!お姉さん恥ずかしーーー!」
「ふざけるなっ!」
「まーそーゆー訳だからーーー!じゃあねーーーー!」
「お、おい、待てメリッサ・・・・。」
プッ。ツーッツーッツっー・・・・・・
「・・・・・ふぅ、全く。」
ため息をついて受話器を置く。
どうやら今日もメリッサの援護は期待できそうに無い。
だが台風であれば仕方ないだろう。
無茶をされるのも困る。
「あの、相良さん?メリッサはなんて言ってました?」
十数分後、テッサがバスルームから出てきて聞いてくる。
既に身支度を整えておりノースリーブのワンピースを着ている。これは彼女の外出着なのだろう。
そして、まだほんのりと顔が赤い。彼女は化粧の類もしていない。
それでも十分、可愛らしく、そして美しい。
そんな彼女を見てドギマギしてしまう宗介だったが・・・まあ、それはいいだろう。
ちなみに、シャワーを浴びていたので、メリッサと話した内容は聞こえなかったらしい。
「は、は・・・・・台風の影響で今日も来れそうに無い、と。」
「そうですか・・・・でも、それは仕方ないですね・・・。」
「はぁ・・・。」
「さあ、それよりも相良さん。身支度速く終えてくださいね?」
「・・・は、ははっ。申し訳ありません。」
どうも、テッサ早く街を見て回りたいようだ。
宗介を急かす形になっている。
しかし、彼女の娯楽というのは・・・・考えてみれば、メリダ島付近のグァムに遊びに行ったりする程度でしかない。
娯楽施設に溢れてる場所を知らないわけではないが、やはり日本という国の娯楽も知っておきたいという本音がある。
前に来たときは、<ベヘモス>絡みで観光などする時間は少しも無かった。
ただでさえ、大佐という立場が休暇をとったり、個人の時間を作るのに大いに邪魔になるのだから。
それ故、心はやるのも致し方なし、である。
「もう、早く!相良さん、あと10分しか待ちませんからね!?」
「お、お待ちください大佐殿。」
あたふたと(銃器の)準備をさせられる宗介であった。

「うゎぁ・・・・・・凄い人の数です・・・・。」
テッサが目を輝かせて言う。
行き交う人、人、人。
グァムもだが東京という都市は大抵「賑やか」だ。(場所にもよるが。)
調布はそこそこ賑わっているほうだろうか。
人が多い、娯楽も多い。
無論犯罪だって多いが、それも外国とは比較にならない。
近頃は日本も犯罪が多くなったとは言うが、それでも外国に比べれば大人しいものばかりだった。
「そうですか。確かに自分も最初のほうは人の多い場所だ、とは思いましたが。」
「ふふ・・・・いつも登校して、学校が終われば放課後に皆さんと遊びにも行ってますけど・・・。やはり、休日ともなれば人が多いのですね・・・。
「ええ。閑散とした場所もあるようですが・・・。」
「住宅街のあたりはそうみたいですね・・・・。でも本当に人が多いです。グァムとかも多いですけど・・・。」
「はぁ・・・。」
そんな会話をしつつ歩き続ける。
「しかし・・・・随分と雲行きが怪しいような。」
宗介が少しだけ上を見上げる。
確かにどんよりとした灰色の雲が空一面を覆っている。
今日の天気予報を聞き忘れていたな・・・・傘を持ってくるべきだったろうか?
「そうですね。でも、雨が降るとは限りませんよね?」
「それはまあ、そうなのですが。」
「なら行きましょう?こんなチャンス滅多に無いですし・・・。」
「チャンス、ですか」
「あ・・・・う・・・な、何でもありません。気にしないでくださいね?」
テッサがしまった、という顔をする。
そんな事にも気づかず宗介は「はぁ」と気のない返事をするだけだ。
「あ。そうだ。相良さん。」
「はっ、なんでしょうか?」
「昨日は学校で倒れてしまいましたよね?・・・・体調が悪かったのですか?」
「・・・はい。実に情けないことですが・・・。」
「もう・・・・。体調管理はきっちりとお願いしますね?」
「はっ。しかし・・・・その、言い訳がましいことですが、ストレスというものはなかなか油断なりません。」
「ストレス・・・ですか?」
テッサが首をかしげる。
さて、彼にストレスがあるように見えなかったけど・・・・。
「はい。中佐殿に色々と言われ、大佐殿が来られて・・・・・なんというか、それに対して色々と付随する問題がありまして。」
宗介はげんなりとした様子で答えた。
実際そうなのだ。
マデューカスにネチネチと小言を言われ、テッサが押しかけてきて、「大佐殿に何かあったら覚悟しておけ」というようなことを言われれば――――。
宗介でなくとも果てしなく疲れるだろう。
また、テッサの周りには人だかりがすぐにできる。
学校でならまだ良い。
問題は学校の外だ。
解りやすく言えば、ナンパ、という行為だ。
テッサが街で「ナンパ」された回数など、数え切れないくらいだ。
僅か3日4日のことなのに。
そのたびに宗介はそういったナンパする輩を追い散らしたり、テッサの身に何かあってはならない、という事実上「最優先任務」としか言いようの無いマデューカスの命令を守るために、常に全方位に対して気をつけねばならない。
ストレスが溜まるのは当然だ。
しかし、疲れていたために、今日の宗介は少々考えが足りなかった。
それ故、今の言葉がどうテッサに受け止められるのか?ということも考えられなかった。
普段の彼であればもっと言葉を慎重に選んでいただろう。
「それって・・・・・どういう意味なんですか?」
「・・・・は・・・?」
「私・・・・・。そんなに相良さんに迷惑かけてました!?」
「・・・・!」
そうなのだ。
宗介の言葉はテッサにとって「テッサのせいでストレスが溜まる」ととられてしまったのである。
マデューカスのことはあっさり忘却されているようだが。
周りを歩く人々もテッサの怒鳴り声を聞いて興味津々といった感じで・・・・つまり、野次馬だ。
「そんなに・・・・・。そんなに!迷惑だったなら・・・・・・。」
「た、大佐殿。その」
「最初に断ってくれれば良かったんです!!!『迷惑ですから』って!」
「大佐、殿・・・・。」
宗介は呆然としてしまった。
ちょっとした一言。ほんの少し配慮を忘れたがために、誤解されてしまった。
宗介はテッサのことを迷惑だと思っていない。
むしろ身分の上下関係なく気軽に接してくれることに感謝しているし、頼られて悪い気だってしていない。(なぜ親しく接してもらえるかは解っていない。)
マデューカスの一言のせいで必要以上に疲れ、昨日の様に倒れてしまったことは事実だ。
しかし、それはテッサのせいではないだろう。
必要以上に気を張りすぎ、そのせいで疲れていた。
それだけの事。それは解っているはずなのに。
「・・・・・その・・・。」
「・・・・・私、帰ります・・・・。」
「え、その、大佐。そちらはマンションでは――――」
「離して・・・・!触らないでください!!!!」
マンションとはまったく別方向へと歩き出したテッサの左腕を掴んだ宗介であったが、テッサは激しく身をよじり、離れようとする。
「・・・・っ。大佐殿・・・・!」
「離して・・・・・離せぇっっ!!!!!」
その瞬間、テッサの右手が宗介の頬を思い切りはたいた。
「ぐっっ・・・・・・がふぁっ!?」
「相良さんなんて、大嫌い・・・・・!」
そう言い放ってテッサは走っていった。
その目に涙を浮かべて。
ちなみに宗介は張り倒された勢いで、すぐ側の電柱に頭突きを仕掛け、本日2度目となる「崩れ落ち」を体験し、その場で昏倒してしまったのだが―――――
後ろを振り返る事なく走り去ったテッサには知る由の無いことであった。

雨が、ほんの少し降り始めていた。

 


あとがき

いやぁ、ちょっとした修羅場でしょうか(汗
この話は前後編の前編に当たります。
ちょっとした説明をしますと、今回のお話は「女神の来日 受難編」の次の日という設定です。
無論IFのお話なので、ちょっとしたオリジナル要素を入れるつもりですし、むしろ勝手に「休日」にしたりしてますが(汗
まだまだ未熟ですが後編もどうぞお付き合いくださいませ。
・・・・お願いだから、かなめのお話も頭の中に浮かんでください、私orz

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