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2014.02.20 11:02

クルツくんのスナイパー教室 by 深夜

 「はい、みなさんおはようございます。わたくしが本日みなさんを教えるクルツ・ウェ―――」

 勢いよく会議室に宗介を引き連れ飛び込んできたクルツ・ウェーバーは、目の前のパイプイスに座るメンバーを一瞥。そして目をジトーっとさせて、

「―――解散」
 
 何事もなかったようにそのまま通り過ぎようとする。

『ちょっと待て』

 クルーゾーを筆頭に、キャステロ、スペック、ヤンといったSRTのメンバーから、ウーといった一般隊員達が異口同音にクルツを言い詰める。

 その様子を端から見た宗介は、陣代高校での俺のようだな、と内心で冷静な感想をこぼした。

――――――――クルツくんのスナイパー教室――――――――

「最初に『俺が狙撃について説明する』と言い出したのはウェーバー、お前だったな。実に、まことに、不本意だがこれでも俺はお前の狙撃の技術はミスリルで随一だと認めている。
 だからお前が『姉さんに対抗して俺も教室を開く』なんてふざけた発言も俺は許した。だがその結果―――女性がいなくてやる気が出ないから解散だと……!?」

 パイプイスに両手両足を手錠で繋げられたクルツを見下ろし、クルーゾーはこめかみに指を当てて体を小刻みに震わす。

 ヤンや他の隊員達は二人から離れた場所で声を潜めて、

(やっぱりクルーゾー中尉怒っちゃいましたよ、伍長)

(いつものことだからしょうがないよ。それにしても今回のはかなり質が悪いね)

(これで本日四回目だぜ。ったく、クルツも大尉もよく飽きないな。ところでヤン、俺に五万預けてみないか? 二週間後にゴムひもの相場が急上昇するとあの二人を見て思いついた)

(…………スペック、君の株に対する勘どこか間違ってない?)

 雑談に興じていた。

(軍曹、あの二人を止められるか?)

(否定であります、中尉殿。止められるとすれば中佐殿でしょうが……)

(我々の方にも火の粉飛んでくるということだな)

(肯定です)

 マデューカスの説教は小姑のようにどこまでもしつこく、年寄りのように話が逸れて、校長のように長い。

 それはマデューカス本人以外の全員が認識している西太平洋戦隊の暗黙の知識だ。 

 二人を尻目に全員が話し合った末に、マオやテッサを呼ぶことが決定された

              ◇

「で、クルツに狙撃の講座をさせるためにマオやレミングなんかを呼んできたってわけか?」

 女性隊員達を連れてくる際、宗介が必要と思い連れてきた人物―――エド・サックス中尉は首を縦に振る宗介の姿に呆れてしまう。

 ちなみにクルーゾーとクルツは、マオとテッサにより強引に話に決着をつけさせられお互い離れた場所で顔を向け合わずにいる。

「あのなぁ、マオは分かるがレミングの奴は技術部だぞ。狙撃なんか全く縁がねぇじゃねぇか。
 いや、百歩譲ってレミングも有りとしよう。けど俺は、男な上に技術部だぞ? 何でこんなもんに出なきゃならんのだ」

 顔を真っ赤にして怒鳴るサックス。

 怒鳴ってしまうのも仕方がない。年に数回もないぐらい貴重な休日をこんな訳の分からないことで潰されてるのである。怒らない方がおかしい。

「お言葉通りです、サックス中尉。しかし必ず中尉殿の御力が必要な状況があるので、もうしばらく付き合って下さい」

 頭を下げて必死に説得を試みる。

 基地の酒場のツマミ四品で、ようやくサックスを折らせることに成功した。

 全員がパイプイスの上に座りクルツに視線を向ける。その中にはまだどこか納得が行かない人も何人かいた。

 だがそんなことは全く気にせずクルツは話始めた。

「え~まず、狙撃で目標に当てること以外で重要なことは何だと思う? んじゃあヤン答えてみ」

「相手にバレない……こと?」

「はい、その通り! さすが影の薄いヤン君。お前に当てた俺の勘に狂いはなかったぜ。
 スナイパーは当たる当たらない以前に、相手に自分の存在がバレちゃマズイ。当たり前だけど相手に警戒されちゃ成功率がグンッと下がっちまう。
 だから狙撃ポイントを選ぶのは重要になる。理想的なのは、相手の監視がしやすく相手側からは見えない失敗した場合の逃走距離が稼げる場所だ。ま、どっかのことわざじゃないけど、失敗を考慮すれば成功するものも失敗しちまうけどな。
 って、あれ? ヤンの奴どこいった?」

 すぐ近くで座っていたヤンの姿がいつの間にか消えている。

「軍曹。ヤン伍長なら、軍曹の言葉に傷ついて部屋の隅で泣いてます」

 部屋の端っこには確かに体育座りをしてしくしく涙ぐむヤン伍長の姿があった。時々『どうせボクは影が薄くて、未だに活躍してないさ』なんてかすかな呟きが聞こえてくる。

 何とも言い難い哀愁が周りを漂い、近くにいた一般兵たちはどんな顔をしたら良いか困っている。

(メリッサ、ウェーバーさん妙にはりきってますよ)

(っていうか、だんだんアイツが何言ってるのか分かんなくなってるんだけど……)

「ピィーンときてグヮンと出て、シュピーとこうしてそこでクァってやるんだよ」

 身振り手振りを混ぜてクルツなりに分かりやすい説明をする。

 だが、一人を除いて誰もがクルツの説明に頭の上にはてなマークが浮かべ『つまりどういう意味だ?』と言いたげな表情を作る。その一人であるサックスは顔をしかめ、

「なぁ、サガラ。俺を呼んだ理由って、まさか、クルツの言葉を訳せなんてつまらないもんじゃねぇだろうな」

「……残念ながら肯定です」

 額に玉汗が滲んでいる。

「ツマミに生ビール大ジョッキ2杯追加しとけ。それぐらいがなきゃ、こんなどうでもいいことで休日を潰された俺の怒りが収まらん」

「……了解しました」

 ずかずかとパイプイス群を進み、クルツが立つ教壇の近くで立ち止まる。

「あ~クルツの奴が言いたいのは、とにかくイメージが大切なんだとよ。
 分かりやすく言えば狙うとき頭に瞬間的に、目標との距離感に高低差、肌で感じた風の強さ、目標の行動パターンや歩幅なんかを計算するらしくそれに合わせて銃口を動かしてトリガーを引く、と。
 そう言ってるんだよな、クルツ」

 頭を乱暴に掻きムスッと話すサックス。他の人達はクルツの反応に注目する。

「さすがブルーザー! 分かってるなぁ、俺はそう言いたかったんだよ」

 瞬間。全員が心の中で『嘘付け。何がシュピーだよ』と悪態吐いた。

 次々と出てくるクルツの意味の分からない説明も、サックスの翻訳のおかげでどうにか頭に叩き込めれた一同は、いよいよ実際に銃を持って訓練を始める。

「あの~ウェーバーさん。私も銃を持って参加しないとダメですか?」

「テッサちゃんは別に良いよ。かわいいテッサちゃんにケガはさせたくないから俺らの側にいててくれ」

「クルツ。お前が渡した物を言われた通りにセットしたぞ。だが、あのふさふさした物はなんだ?」

 説明の途中どこかに行っていた宗介の質問に、クルツは必死に笑いをこらえて顔を崩す。

「くっくっくっ……あとのお楽しみさ。俺が言えるのは、今回こんなことを開いた動機の三分の二がそれにあるとだけ言っておこうかな」

              ◇

 一同は格納庫へ移動した。

 普段は整備員達やAS、ヘリなんかでごったごったになっているのだが、クルーゾーの事前の計らいで格納庫の一角に何もないスペースが出来ていた。

 しかし、一同が注目するのはこの空いているスペースではなく自分達が立つ場所から一番離れたところにある布が覆い被さった何かだ。

 大きさは小型テレビぐらいだろう。布越しから見える頂上付近の二つのでっぱりが気になる。

「んじゃあ、中尉どのトップバッターお願いします」

 満面の笑みを浮かべ銃を渡すクルツに、クルーゾは不信感を抱かずには居られなかった。クルツの笑みの意味、布で隠されてる何か―――どうも引っかかる。だが、行動せねば何も起きはしない。

 銃を受け取り布の方へ体を向ける。

「宗介、布を取ってくれ」

「了解した」

 横でスタンバイしていた宗介は、布をガシッと掴み、布ごと握った手を勢いよく上にあげる。

 露わになる布に隠れていた物。その正体は――――――――ト○ロとメ○やサ○キのぬいぐるみ。

「な――――――――っ!!」

 ジブリマニアのクルーゾーの表情が見事に強ばる。 

「どうして的が子供ぬいぐるみと変な生き物のぬいぐるみなんだ?」

「スナイパーってのは場合によっちゃあ小さい子でも容赦なく撃たなきゃならない仕事だ。だから、これは目標に当てる射的訓練じゃなく目標を撃てる精神訓練なんだ。わかったか?」

 言っていることは至極真面目だ。笑いで歪みきった顔で話さなければ。

(ウェーバーさん、いくら精神訓練を積みたむでもあのぬいぐるみでやるのは酷すぎますよ)

 ひそひそ声で話しかけるテッサ。

 即座にクルツも声を下げて話す。

(良いんだよ。これはクルーゾーの奴に葬られた秘蔵本たちへの弔い合戦なんだ。酷すぎなきゃアイツらも逝けないってもんだ。ひひひ、ざまあみやがれクルーゾーめ)

 おかしくて仕方がない。そんな様子で、今回の本当の目的を話す。

 そう全てはクルーゾーにジブリぬいぐるみを撃たせる状況へ導くための伏線。

 クルーゾーは大のジブリ好きだ。

 だから例えぬいぐるみでも銃でジブリのキャラクターを撃つことはできない。だが今は部下の前だ、ここでぬいぐるみを撃たなければ上官として部下に示しがつかない。

 ぬいぐるみを取るか?

 部下への姿勢を取るか?

 クルツが仕組んだ復讐は、この究極の選択なのだ。

(はぁ……しょうもな……。アンタ、そんなことなんかのためにこんな手の込んだことしたの……)

(そんなことだと! 姉さんはアレの価値を知らないからそんなことが言えんだよ)

(じゃあ、どれくらいの価値か言ってみな)

(そうだな……だいたい、さだまさしのギターぐらいかな)

(―――やっぱりくだらないわね)

 マオはそう言い捨てて、テッサと宗介を連れて格納庫を後にする。

「おい、ちょっと待ってくれよ、姉さん」

 手を伸ばし出て行こうとするマオを呼び戻そうとするクルツ。その背後で何かの気配を感じた。

「――――――――見事な、戦術だ。ウェーバー」

「は、いつの間に居たんだよ」

「お前が大佐殿と話している時からずっとだ。よくも、そんなくだらないことに俺を巻き込んだな…………」

「けっ! 俺の宝物を捨てたそっちがわるいだろうが」

 お互いの周りには険悪な空気が吹き流れ、間ではピリピリと敵意がぶつかりあう。

 一触即発。瞬きをして次に両者を見たときにはどちらかが倒れていてもおかしくない状況だ。

 おいてけぼりにされているヤンたちにはどうすることもできず、見ているだけしかできない。

「以前は中佐に止められ決着がつかなかったが、今回こそは決着をつけ、上官に対する態度を引っくるめて貴様のその腐った性根をねじ治してやる」

「望むところだぜ」

 拳を構え、睨み合う。

 勝負は一瞬。どちらかが動けばそこで勝敗は決まる。

 周りはつばを呑み瞬きもせず両者を注視する。

「…………………………………………」

「…………………………………………」

『…………………………………………』

「――――――――――――――――」

「――――――――――――――――」

『――――――――――――――!?』

 両者同時に前へ疾り拳をたたき込もうと腕を弓矢の要領でめいいっぱい後ろへ引く。

 そうして限界まで引かれた拳をお互いの顔面に放とうとした瞬間―――

「――――――――何をしとる、貴様ら……!!」

 マデューカスの怒鳴り声が両者を殴り伏せた。

 結局、その後マデューカスの三時間に渡る説教を全員で聞かされ『クルツくんのスナイパー教室』は解散した。

 ちなみに次の日、クルツはメリダ島の全隊員に追い回され袋だたきに遭わされたそうだ。

 終わり


 あとがき
 この話は個人的な二時創作で、原作と少々キャラの性格などが違うので細かいツッコミどころは微笑んで言わないで下さい♪
 いや~今回ので分かったけど、やっぱ私はコメディは向いてないや。素直にコメディを書いてるSS書きや同人作家さんを尊敬してしまう。
 でも、二時創作は今回でしばらくお休み。当分はオリジナルの『ある騎士の話』の方へ集中しようと思います。
 縁があれば、境界のない空のように広がるネットどこかでお会いしましょう。
 P.Sスナイパー教室なのに全然何も教えてな~い(笑)!
 by深夜

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