その頃のレイス by 量産型ボン太くん
真っ暗な倉庫にただ一つぽつんと置かれたトレーラー。
倉庫内には他に目立った物も置いてはおらず、いる者といえばアサルトライフルを構えた男が3人、にこやかな笑みを浮かべるビヤ樽のような体格の男、それに怜悧な風貌の女性の計5人だけだ。
ミスリル情報部の“元”エージェント。
それがこの女性の肩書きである。
名は━といってもコードネームだが━レイス。
東京で任務についていたが、先のアマルガムによる襲撃によって所属する部隊その物が崩壊したことにより、また任務である監視対象を拉致されてしまったため彼女はやむなく単身国外へ退去したのだった。
そして今は連絡しておいた連中と落ち合い、港の片隅にある倉庫へとやってきたところだった。
レイスを倉庫内に案内したビヤ樽男が倉庫内に置かれたトレーラーに積まれたコンテナを開けると、中にはASが一体収納されていた。
暗いためその詳細を知ることは出来ないが、レイスはそのフォルムから『第三世代型AS』だろうと推測した。
全体的な外観はM9に似てはいるが、これはM9ではない。ましてやソ連で開発中のZy-98<シャドウ>でもない。
レイスはそれを見上げると、隣にいた男に視線を向けた。
「こいつの名前は?」
「ないそうです。もともと存在しない計画だったそうですからな。ただ、まあ、強いて番号を付けるなら……『ARX-8』です」
ARX-8。
ミスリルがラムダ・ドライバ搭載型として開発した試作ASであるARXシリーズの流れを汲むASだろう。
彼らが唯一保有したラムダ・ドライバ搭載型AS『アーバレスト』の試作番号はARX-7だ。
コンテナに格納されたASは、レイス達の頭上から見下ろすように鎮座していた。
その姿は何か言い知れぬ迫力を放っていたが、起動していない現在、その目に光は灯っていない。
しかしそれ以上にこの機体を異様たらしめているのは、この機体が未完成だからでもある。
彼女は少し眉を寄せて隣の男に問いかけた。
「さきほど未完成といっていたが、それはこのことか?」
視線を機体の腰の辺りに向けながら言う。
その機体の腰部付け根には、本来あるはずのものがなかった。
このASには【足】がないのである。
「確かに開発者はこれを『未完成』だと言っていました。しかし……」
突然男は顔を上げると、先程までのにこやかさはどこへやったのか、大声で捲くし立て始めた。
「しかし!完成度80%などというのは奴らの戯言!冗談ではない!この機体は現状で100%の性能を発揮できるのだ!足がないのがどうした!?足などただの飾りだ!お偉いさんにはそれが分からんのだ!!」
男の豹変ぶりに、さしものレイスも冷や汗を流す。
「……足が無くては動けんではないか」
彼女の至極真っ当な呟きも耳に入らないのか、男はなおも続ける。
「元来ロボット物といえば試作機!仲間達のピンチに颯爽と試作型に乗った主人公が敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。これが常道というものだ!我々の窮状を救ってくれるのはこの機体以外にはない!パイロット候補のサガラ軍曹がロボ系主人公にあるまじきネクラ野郎である点は確かに心配だが案ずることはない。ちゃんとシートの下に“マカダミアナッツのような何か”を用意してある!いざというときこいつを割れば人外のパワーを発揮して必ずや敵を殲滅してくれよう!私は個人的にこの機体にはミスリルの名を冠して是非とも【ミスリング】という名前にしたいと常々……」
延々と続くビヤ樽の話を軽く聞き流しながら、レイスはレイスで真剣に考えていた。
こめかみを押さえてブツブツと呟き続けている。
「ラムダ・ドライバで重力を遮断しての空中浮遊……駄目だな。メリットがないうえに非現実的だ。しかし足がなくても平気ということはそれなりの理由が……」
かたや宗介が中東の某国に向かい孤軍奮闘し、テッサ達が迫真の演技で敵に一泡吹かせているころ、地球の裏側ではこんな馬鹿みたいなことが行われていたのだった…。
後にARX-8は改良の結果、足が増設されて“パーフェクト・ミスリング”となり宗介の手により獅子奮迅の活躍をすることとなるのだが、これはまた別の話である。
おわり
あとがき
元ネタは言わずと知れた初代ガンダムとSEEDです。
ぶっちゃけ俺自身初代は殆ど見てませんが(ぇ
俺はARX-8の今後に相当期待していますw