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2014.02.20 11:04

ある一幕 by 深夜

 放課後の生徒会室。今日は林水敦信と美樹原蓮の二人の姿しかなかった。
 相良宗介と千鳥かなめはオノDや恭子たちに誘われカラオケへ。他の役員も部活や用事でいない。幸い、片づけなければいけない仕事はほとんどなく。林水一人で片づけられる量だったが、たまたま生徒会室へやってきた蓮が手伝い、そのお礼に彼女に勉強を教えていた。
 放課後の学校はやはり不思議な感じがする。人気のない廊下に不気味さを感じれば、少し前まではいた大勢の生徒がいないことに妙な寂しさを抱かせられる。窓から入り込む光は白から少し赤みが混じりやわらかさを帯びて温かく。遠くの音楽室から聞こえてくる吹奏楽部の練習、校庭から掛け声やボールが金属バットにぶつかる音は学校を眠らせる子守歌のようにやさしい響きが込められている。
 問題集から時計へ視線を移す。あと少しで四時になる。今は十一月の上旬、あと三十分もすれば大分暗くなってしまう。
 暗くなる前に切り上げた方がいいだろう。そう判断し、問題集に集中する蓮に声を掛ける。
「美樹原くん、今日はこれぐらいにしよう。あまりやりすぎても返って身に付かない」
「え、あ、そうですね先輩。では、今日はこの辺で。ありがとうございます」
少し名残惜しそうに表情を曇らせる蓮だが、すぐにいつもの穏やかな表情で丁寧におじぎする。
 そんな蓮のお礼に林水は少し困ったように笑い。
「いや、礼を言うのはこちらの方だよ。美樹原くんが手伝ってくれたおかげで仕事の方も思っていたよりも大分早く終わった。ありがとう」
「いえ。むしろお邪魔になってしまいました。その上、勉強まで教えていただいて……」
「受験勉強の丁度良い息抜きになったよ」
 荷物をまとめ始めた。廊下から相変わらず遠いせいで少しぼやけた吹奏楽部の演奏が聞こえ、窓から入る光はどんどんとオレンジ色へとなっていく。
「そうだ先輩。今、お腹すいてませんか?」
 蓮がカバンから何かを取り出そうとしている。
 大丈夫だと答えようとしたが、言葉を飲み込み少しと短く答える。
 蓮の笑顔が花開くように強くなる。
「よろしかったらこれをどうぞ。今日作りすぎて余ってしまったんです」
 そう言って渡したのは小さな弁当箱だった。おにぎりに、玉子焼き、唐揚げ―――余ったという割には小さな弁当箱に隙間なくおかずが収められている。
 ありがとう。短い言葉を口にし、おにぎりを手に取り口へ運ぶ。
 海苔に巻かれたご飯は冷たく、少し固いがそれでも塩が混ぜられたご飯は美味しかった。おにぎりも作る人でこうも違うのかと驚いてると、不意に―――

『敦信、おにぎり作ってきたぞ』
 知子が渡してきたおにぎりはとにかく形が歪だった。三角なんて問題外、丸にすらなっていないとにかく無茶苦茶な形だった。
 知子の隣では日下部が必死に笑いを堪えている。
 嫌な予感は充分した。だが、食べるのを拒否することが出来る雰囲気ではなかった。
 じっとおにぎりを見つめ。恐る恐る一口かじった。
 ……とにかく甘すぎる。ご飯に塩が混ぜられているのに、具がジャムなせいでなんともすっきりしない嫌な味になっている。
 顔をしかめる林水を見てとうとう日下部の我慢が限界になり噴き出す。
『すごいだろ林水!? 俺も一個食ったけど、これはさすがにないな。つーか、なんでジャム入れたんだよ?』
 ぽんぽんと頭を叩く日下部に知子は不満そうに
『うるさいな! サンドイッチにジャムが入ってるんだからおにぎり入れたっていいでしょ。パンもご飯も同じようなもんなんだから』
『いや、それはさすがに違うだろ』
『違くない!』
『違う!』
 また二人の言い合いが始まった。顔をしかめる林水を尻目に、二人の言い合いはどんどんと激しくなっていく。そして最後は、

『どう思う林水!?』
『どう思う敦信!?』

 こんな風に自分に聞いてくるのだ。
 いつもと同じことを繰り返す二人にうんざりしつつ。とりあえず、
『……驚いた。おにぎりでも作る人でこうも変わるとは……』
 食べた感想などを口にしてみた。
 林水の言葉に二人は顔を見合わせ、

『『なんだよそれ』』

 お互い呆れて、笑っていた。
 いつもこんな感じだった。

 ―――そんな昔のことを思い出していた。
「あのーお口に合いませんでしたか?」
 おにぎりを持ったまま、固まる林水に不安を感じ心配そうに顔を覗いてくる。
「いや、違うよ。ただ、少し、懐かしいと思ってね」
 そう答える林水の表情は少しだけ笑っていた。
 林水の答えに不思議そうな顔をするが、すぐに嬉しそうに笑顔を浮かべる。

『生徒会長の林水敦信くん。至急、職員室に神楽坂の所に来て下さい』

 突然の放送での呼び出し。
「今のは神楽坂先生ですね。何かあったんでしょうか?」
「おそらく、また彼が何かをしたのだろう。済まないが美樹原くん、先に帰っていてくれ。それとこの弁当箱持って帰っていいだろうか? せっかくだから残りは家で食べさせてもらおう。お弁当箱は明日洗って返そう」
「はい」
 答える蓮はとても嬉しそうだった。
 生徒会室を出て鍵を閉め、蓮に別れを告げ、林水は職員室へと向かう。
もう自分がこの学校にいられる時間は少ない。不安は―――宗介とかなめの姿が過ぎる―――ある。彼らが抱える問題はとても軽視できるものではない。だからといって、自分に出来ることがあるとも思えない。二人の未来がどうなるのかは分からない。
 だが願わくば、この穏やかな楽園が変わらないことと彼らの未来が明るいことを。

あとがき

勢いのまま書いて燃え尽きた……と、とりあえず誰か林水とお蓮さんのお話を書いてクレー。
とまあ今回は閣下を書いたんですが、たぶんこの人がフルメタ作品のなかで人間として一番強いんじゃないかなぁと。ソースケやテッサ、マデューカスやカリーニンは戦う戦士としては強いかもしれないけれど、人間として強いかと考えるとどうなんだろうと思ってしまうんです。どこか不完全だからこそ戦士としての道を選んだんではないかと少し偉そうに考えてみました。
たぶんこの人なら、もし過去がやり直せて死んだ人が生き返ると言われても、迷わずに首を横に振るそんな強さがあるような気がします。理由はないけれど、そう思わせる何かが閣下にはあるのです。
あー、あと誰か『閣下が昔のことをお蓮さんに話す』そういうお話書かないかな。
たぶんこのお話は自分では書けないと思うので、文才があって自分は誰よりも林水×お蓮さんを愛してるんだという猛者がおりましたらぜひ書いて下さい。お願いします。

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